10 媒

「中間は英語でmiddleとかmidway、どちらもmediaメディアと根っこが同じなのが分かりやすいです。けれど、あいだ、英語で表現されるbetweenもまたmediumメディウムの範囲内です。結果として、橋渡しするものもまた、中間のもの、mediumメディウムであって、だから媒体ばいたい媒介ばいかいなかだちという意味になるんです」

「なるほどね、オジサン、見えてきたわ」


 直人なおとが納得の声を上げているが、織歌おりかは黙ってひろの言葉の続きを待つ。


「一般的にメディアと言ったら、現代ではmass mediaマス・メディアかメディア機器ですね。mass mediaマス・メディアのmassは質量とか、群衆とかいう名詞ですが、この場合、名詞の形容詞的用法でmass大衆のためのmedia媒体になります。メディア機器はデータにアクセスするためのmedia媒体ですね」

「なるほど、mass大衆のためのmedia媒体……原義として、取材源をmass大衆に至らせるためのmedia媒体ということになると」

「実際にそれがちゃんとできてるかというのはまた別の話ね。オジサン、肩身がちょっと狭いし、耳も痛いわ」


 直人なおとが苦みをふくみながらも、少しおちゃらけたように言葉をこぼす。


「ですが、我々の界隈かいわいなかだちなんて言ったら、一つだけなんです。霊媒れいばいはわたし達の理解からすれば層のけ橋。そうでなくとも、霊という異域の存在と、生ける人というこの世の存在をなかだちする者ですから」

「……でも、それは日本語において、では?」

「いえ、ラテン語medium メディウムの派生した先、英語のmedium ミーディアムの意味の一つとして霊媒れいばいがあるんです。とはいえ」


 ひろが一拍置いて、口をとがらせる。


「複数形が単純に-s付けるだけとされてるのと、向こうの文化的に、西洋のスピリチュアリズム最盛期……十九世紀なかば頃から、はく付けのために使用されたという可能性がいなめません」

はく付け」

「簡単な話だよ、織歌おりかちゃん。語彙ごいとして存在するけど普段使わない言葉って、でしょ」


 思わず繰り返した織歌おりかに、直人なおとがあっさりとそう言った。


「よくさ、小説とかアニメとかの呪文の詠唱の言葉でなんじって二人称使われるでしょ。でもあれ、古語として考えると、御前おまえよりも敬意がこもってないわけ。でも、現代の日常会話で御前おまえは使われてもなんじは使われない。だから、なんじの方がわけ」

「そのなんじも、もとは汝貴なむちということで、敬意がないわけではないですけど、意外と敬語に込められた敬意って時限性があるというか、り切れていくというか、手垢てあかがつくというか……頻繁ひんぱんに使うと特別感と共になくなるっぽいんですよね。しかし、なんじの場合、なれはまだあるけど、まし系はどこに行ってしまったのか……」

「それ、どっちかというと、なんじ役割語やくわりご的に現代の語彙ごいに取り込まれたからじゃない? 役割語やくわりご的にはなんじって古めかしい、仰々ぎょうぎょうしい、儀式めいてる二人称の呼びかけってところでしょ」


 ひろ直人なおとも人の事は言えない。

 そう思いながら、織歌おりかは思いっきり脱線した二人の会話を聞いていた。

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