8 Aurea mediocritas.

「そういえば、曲がるは悪いものってそことなら勾玉まがたまってどうなの?」

「……そうなると正常のと異常なの二項対立な気がしますね」

「それだと、マイナス方向の用例が禍々まがまがしい、勾玉まがたまはプラス方向の用例ってことになるんですかね」


 織歌おりかの確認に、たぶん、とひろが答える。

 こうした内容において、正負または善悪の両義性りょうぎせいのあるというのは珍しくない。

 中庸ちゅうようこそが正常、平均こそが正常。

 つまるところ、こそが正常なのである。

 過ぎたるは猶ほ不及及ばざるがごとし、みたいな。

 だから、能力的に誰かを守れる織歌おりかだって、本来的には誰かを傷つけてしまうはずのひろだって、べてなのである。


 そう思っていると、丁度すれ違った対向車のライトがまぶしくて、織歌おりかは少し目を細めた。

 ルームミラーには似たような表情をしているひろが映っている。


「……でも、その招かれざる客の子達も不運なのか、幸運なのか、わかんないねえ」

「悪運が強いってやつじゃないですかね」


 いい迷惑でしたけど、とひろがぼやきながら、いた二つ目のあめを口に放り込む。


「つーか、半分がヤバくなりそうな属性持ちってなんですか、マジで」

「私も勾田まがたという名字は知ってましたけど、津曲つまがりは初めて知りましたね……」


 世の中は広い。

 が、ひろはまた、がりりとあめに歯を立ててから、嫌そうな表情で口を開いた。


「ところがどっこい、それだけじゃねーんですよー、あの二人」

「え?」

「所属、メディア学部らしいんですよ」

「……オジサン、よく話が見えないんだけど」


 直人なおとの言葉を肯定するつもりで、織歌おりかうなずく。

 それをルームミラーしに確認したひろが、数回まばたきをしてから口を開いた。


「あれ、なおさんはともかく、織歌おりかにもしてませんでしたっけ? メディア、元は何語だかわかります?」

「ええっと、英語やフランス語にしてはつづりと発音がそのまま過ぎますし、ドイツ語の音の感じではないので、イタリア系、ですか?」


 おおう、当てにきた、とひろあせったようにつぶやく。


「当たらずとも遠からず、元はラテン語ですね……いや直系子孫を当てるかあ」

「……織歌おりかちゃん、フランス語やドイツ語できるの?」

「あ、いえ、何度かヨーロッパに旅行した時に聞いたことがあるだけです」

「その何度、ってヨーロッパに旅行した、にかかるでいいんだよね?」


 直人なおとの反応に、あれ、とひろが首をかしげる。


なおさんには言ってませんでしたっけ? 織歌おりか、話した感じの通りお嬢様ですよ。なんなら今我々が住んでるあそこ、織歌おりかの家の持ってる土地で、その系列の借家しゃくやですし、そのまま他人の土地通らずに織歌おりかの家まで行けます」

「あー、あの引っ越し、確かに織歌おりかちゃんが弟子になった直後か……いや、いいとこの子だとは思ってたけどさ」


 そういうことなのね、と直人なおとつぶやいている。

 確かに、今、紀美きみやロビン達が住んでいるのは織歌おりかの家の持ち物ではある。


「そんな大層なものでは……」

「先生も含めた中で一番実家が太いというのに、ちょっと何を言ってるのか理解できませんね」


 十二分に大層なんですよ、とひろがため息をついた。


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