怪異から論理の糸を縒る

7 正常とは直ぐである

「まあ、禍々（まがまが）しい、つまり曲がったものは穢（けが）れであり、異常であるから直すってことになりますもんねえ……」

　かり、と弘（ひろ）が飴（あめ）に歯を立てる音がする。

「と考えると、直（なお）さんは自己修復能力が高……高いのかなあ？」

「弘（ひろ）ちゃん、自分が行き着いた結論なんだから、そんなに怪しいなあって目でオジサンを見ないで。自信持って」

「面白いですよね、穢（けが）れは直すものであると同時に、祓（はら）うものでもあるとするなら」

　――何が違うんでしょうか。

　そう、織歌（おりか）が言うと、ルームミラー越（ご）しに呆（あき）れたような弘（ひろ）と目が合った。

「いや、ほんと、織歌（おりか）の吸収率なんなんでしょうね……」

「うん、オジサンも今ちょっと、昔の紀美（きみ）くんと話してるのかなってちょっとゾッとしたわ……」

　織歌（おりか）としてはそんなつもりは一切なかったのだが。

「でも、でも、弘（ひろ）ちゃんも不思議に思いません？」

「んん、まあ、それはそうですけど」

「やっぱり、紀美（きみ）くんに似てるわ～……」

　直人（なおと）はそう言いながら、黄色の信号を前に減速させて止める。

「直（なお）さん、織歌（おりか）のこれは天然です」

「あー……なるほど、織歌（おりか）ちゃん、そもそも紀美（きみ）くんと波長が似てるってことかあ」

　そっかあ、と直人（なおと）は何とも言い難（がた）い表情で呟（つぶや）いた。

「織歌（おりか）は予想とかあるんです？」

「うーん、さっきの弘（ひろ）ちゃんの、伊邪那岐（いざなぎ）の禊（みそぎ）のお話からすると、穢（けが）れって祓（はら）ったと同時に補填（ほてん）すべきものであるのかなあ、とは思います」

　織歌（おりか）としては考えを正直に述（の）べてるだけで、なんの他意もない。

　それに自分の持ってる能力が能力なので、この分野においては正しいと思われるべき推論を立てておかねば、織歌（おりか）自身が十全に機能するとも思えないのだ。

「……あー、この二件の生まれのタイミングを考慮して、曲（まが）に対する直（なお）を自己修復と捉（とら）えるなら、確かにそうなるのかあ」

「剥（は）がれた垢（あか）が穢（けが）れの化身みたいな神様になった一方で、その後生まれた神様は自己修復するための神様だったって事？　そんな擦（す）り剥（む）くほど、ごりごり垢擦（あかす）りしたんかねえ」

「んんんん、さっきああ言っちゃったけど、なおすはあるべき形への復元っていう意味合いの強い語だから、自己修復とは限らない、のかなあ……」

　弘（ひろ）が唸（うな）りながら言うと同時に、とうとう、がりん、と飴（あめ）を噛（か）み砕（くだ）いた音がした。

　それを聞きながら、織歌（おりか）は織歌（おりか）で、なるほど、西の方の方言でなおすに片付けるという意味合いがあるのはそういうことか、と納得する。

「織歌（おりか）のなおは補填（ほてん）である説を取るなら、直（なお）さん、自己修復というだけじゃなくて、いるだけで範囲回復魔法みたいなことになるのかなあ……そうなると、自覚した上でいてほしい感はありますね」

「用心棒のノリが、まさかそんなゲームのヒロインみたいな事になるとは思わなかったんだけど、オジサン」

「……今時ヒロインに限りませんよ、回復役（ヒーラー）って。某有名ゲームでも最初の方の作品で既（すで）に回復技を覚える職業、男性もアリでしたし」

　二つ目の飴（あめ）を取り出しながら、弘（ひろ）が容赦（ようしゃ）なく突っ込んだ。