6 winding & straight

「まあ、さっきの今回重要じゃない十二はしら祓戸大神はらえどのおおかみってまとめられる事もあるんですが、本題はその後二件なんですよ」


 合間にかろころと口の中であめを転がす音を入れつつ、ひろが言う。

 織歌おりかも包みをいて、あめを口の中に放り込む。

 もったりとジューシーでボリュームを感じるバターと濃厚な甘味が口の中一杯に広がる。


「二件って言い方、なんかちょっと嫌な予感がするなあ、オジサン」

「一件目は伊邪那岐いざなぎ身体からだから落ちたあかから生まれた、八十禍津日神やそまがつひのかみ大禍津日神おほまがつひのかみです。織歌おりかが言った、今回の招かれざる客の中の危ないやつらの根拠ですね」

「ふぁい、そうです」


 ひろに話を振られて、織歌おりかは口の中のあめを舌で端に追いやりながら返事をする。


八十禍津日神やそまがつひのかみ接頭辞せっとうじ的に使われもする数が多いことを表す禍々まがまがしいという言葉に残るわざわいややくを表す、所属や属性を表す格助詞かくじょしに、霊力的な意味を持つから成り立っていますので、多くのわざわいの力の神……的な意味になりますでしょうか。大禍津日神おほまがつひのかみは最初が大きさや程度がはなはだしい事をしめに変わってるだけなので、似たような意味ですよね」

「……想定してたよりも詳しい内容返ってきてちょっと姉弟子あねでしとしてもびっくりですけど、まあ、そういうことです」

「……ねえ、ひろちゃん、もしかして織歌おりかちゃん、順調に紀美きみくんに感化されてる?」


 直人なおとの言葉に、ひろが小さくうめきながら、否定できない、とつぶやく。


「……気を取り直して、二件目です、二件目。こっちがなおさんの方ですね。そうしてあかから生まれたわざわいをと生まれたのが神直毘神かむなほびのかみ大直毘神おほなほびのかみ伊豆能売いづのめの三はしらの神です。正直最後の伊豆能売いづのめは放置でいいです、今回は関係しませんから」


 この中だと一番詳細不明ですしね、と言ってひろは、かろんとあめを転がす。

 なので、その続きは織歌おりかが引き取った。


「はい、もその神性や程度のはなはだしさを表す接頭辞せっとうじで、は直す、禍津日まがつひと同じ……となれば、とてもわかりやすいです」

禍々まがまがしいと曲がるはという同じ語から派生している……という説を取るならば、曲線と直線で考えると、この対比、わかりやすいんですよねえ」

「……オジサン、ちょっと気になるの、ってとこなんだけど」


 直人なおとの言葉に、しばらひろが、んー、と意味を成さないうめきを出しつつあめを転がしている。

 一方、織歌おりか直人なおとの言葉になるほど、と思って口を開いた。


「確かにちょっとおもしろい言い回しですよね」

「……織歌おりかちゃん、やっぱり紀美きみくんに感化されてるでしょ。オジサン、あんまり感心しないなー」


 アレはね、どうやっても真似まねできないし、真似まねしちゃダメなやつよ、と直人なおとがぼやいた。

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