3 不確定を飼う

「……だいぶ減ってきましたし、しゃっきりしてきましたね?」

「ええ、だいぶ頭が回るようになってきました」


 織歌おりかのふわふわとした地に足のつかないゆめうつつの感覚は収まりつつある。

 それもこれも、まだもしゃもしゃと織歌おりかの腕をめるようにけがれを食べているこの世ならざる胃袋の持ち主であるのおかげ……というよりは、何故かを発生させてしまった紀美きみのおかげである。あの時は全員が全員困惑しかなかった。


 織歌おりかの様子を確認したひろはウエストポーチからスマホを取り出して、メッセージアプリでむかえの要請を出してくれる。


「……まあ、総合的にはようではなかったので、初心者向けではありましたかねえ」

「あー、どうりでふわふわするだけだと思いました」

〈む、そうであれば、ちゃんとおれが止めてたぞ〉


 何もしないと思われるのは心外だ、とが口をとがらせる。

 基本、織歌おりか以外には当たりが強いというか、織歌おりかに対して過保護というか。


「いや、そこはそれで信頼してますって。きわの見定めという一点についてはであるの方がロビンより正確ですからね」


 本来的に織歌おりか付随ふずいする力場の志向性を高効率にしようとした結果生まれた存在である、たぶん、というのは紀美きみの言である。

 いわく、人に力場が付随ふずいすることは先天的にも、後天的にもあり得ることで、織歌おりかは先天的だと思われるとか。

 ただ、その力場の質と強力さが織歌おりかの場合、問題だったのである。

 伊達だてに、掃除機だのブラックホールだのと形容されるような不運の特異点なわけではない。


「結果論としては良かった、で済みますけど、ちょっとぐらいは待ってて欲しかったなとは思います」


 ひろの言葉の九割九分が、姉弟子としての心配であることは織歌おりかもわかっている。

 それでも、それがほんのわずかな泥水を混入されたワインのごとく、純粋な心配でないのは、ひとえにのせいなのだ。


 その性質上、は絶対的に織歌おりかの味方ではあるが、根本的価値観が異なる、というか価値観というものがあるのかも良くわからないために、

 だからこそ、弟子という建前たてまえで五割ばかりは様子を見られているらしい。


「あー、でも、あそこで織歌おりかが強制退場したから、あの軽薄男をけられたというのはありますね」

おれとしては、餌場には丁度いいかもしれんとは思うがな、あの男〉


 いや、弟子ということが八割ぐらいかもしれない、という程度には、師である紀美きみをはじめ、ロビンもひろも面倒見はとてもいいのだが。

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