12 media ‹名› 中性・複数・主格または対格 あるいは

「ふむ、藤代ふじしろさん」

「は、はい?」


 恭弥きょうやぐらいしか例をわかっていないことに気づいたひろに声をかけられて、悠輔ゆうすけはなんか文句でも言われるのかとちょっと思う。


「先程、津曲つまがりさんから聞きましたが、法学部だそうで」

「あ、はい……といってもそんな、弁護士とかそういうしっかりした職に就く気は……」

「いえ、そういうツッコミどころを探してるわけではなく」


 そんなん目指してるのに何してんだ、という糾弾きゅうだんをするつもりではない、とひろは端的に言って続ける。


「法を学んだからこそ得られた視座しざ、ありますよね。手っ取り早く言えば、現実での行為において、法をおかすかいなかのラインがより細かく見えるようになったのでは?」

「それは……うん、そう、ですね」

「そういうことです。そうした認識が力場に志向性を与えてしまう。それが一時的なこともあれば、恒久的なこともある……と、わたし達の先生は言っておりまして」

「あ、一般論じゃないんだ……」


 思わず、といった様子でつぶやいたのは、都子みやこだった。

 ひろも少し困ったような表情で笑う。


「そうなんですよ。先生が唱えている説でして……師事している以上、わたし達はそれに従う側なわけで……まあ、どの説であっても、常に一貫した再現性があるわけではないせいで定説が確立できないんで、だからこそのオカルトではあるんですけど」


 はは、とかわいた笑い声がその口から漏れる。

 言い方からして、この考え方自体も少数派な考えのようだ。

 ひろは気を取り直すように小さくせきばらいをする。


「まあ、それはそれです。その認識がその場でどれほど意識されて、かつ重みをつけられているか、そもそも、その認識がどれだけの人間の意識上で一般化しているか、というあたりが志向性の決定をになう……とは先生の言です。その上で言わせていただきますと、今回独断専行に走ったお二人には命しくば、今後は自分から首を突っ込まないことが身のためです」


 絶対零度から春一番程度にゆるめられた視線がへたりこんでいる恭弥きょうやと、うずくまった態勢のままの深雪みゆきに向けられる。


「り、理由は?」


 深雪みゆきの言葉に、ひろは首を横に振って口を開いた。


「……先程の話の通り、今回、逆にわたし達がこの場にいた事でかかった補正があることはいなめません。そして、だからこそ、お二人に変に自覚を持ってもらっても困るんです。下手すれば日常生活に支障をきたしますよ」

「……逆に言えばさ」


 そう口を開いたのは恭弥きょうやである。


「さっきの俺と唐国からくにちゃんとの会話で、唐国からくにちゃんが反応したことがそれにつながるってことだよな?」


 一気にひろが苦虫をつぶした表情を見せる。

 というかさっきまで説教の余韻よいんで情けない姿を見せていたというのに、なんという呼びかけ方を、そういえばこいつは怖いもの知らずだったんだった、と悠輔ゆうすけはちょっと頭をかかえたくなる。

 都子みやこあきれた視線を送っている。


「確か、俺たちの学部・学科の話をした時だよな、唐国からくにちゃんが反応したの」


 それを聞いて悠輔ゆうすけはちょっと意外に思いつつ、考えてみる。

 悠輔ゆうすけは法学部で、都子みやこは英文科、恭弥きょうや深雪みゆきはメディア学部の学科違いである。


「……どっかに頭打って都合つごうよく記憶喪失にでもなってくれませんかね」


 そのどっかの候補を握りしめてひろがそうつぶやいたので、悠輔ゆうすけはそれ以上深入りするのをあきらめることを決めた。

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