11 認識と無意識

「えっと、唐国からくにさん」

「はい」

「その、今までの話を聞いてると、因果が逆みたいに聞こえて……お化けがいるから話があるんじゃなくて、話があるからお化けがいる……みたいな」


 ――あなた方お二人は上で

 ――しっかり話を知るというブースターを持った

 ――それ以上の認識をされても困ります

 ――知っていた噂が憑依ひょういされるパターンだったから


 そうひろは言った。

 そして、今もひろ悠輔ゆうすけの言葉をすぐに否定しなかった。


「……まあ、そう違ってはいませんね。もっとも、最初の大前提はことですが」

「力場?」

「最近、パワースポットとかよく言うでしょう? そういうことですよ。そして、単にそこにあるの力自体に善悪はありません」


 電気と同じです、とひろは言う。


「使おうと思えば、悪用もできますが、良い方向に利用することもできる。そういうものです。藤代ふじしろさんと島田しまださんは、この短時間でわたし達が利用するのを三回は見てますよ」


 言いながら、ひろが胸元の犬笛いぬぶえを指先ではじいてみせた。

 その意図するところを思えば。


「ええっと、その力の方向性は人が作用してできるってことでいいんです?」

「ええ、無意識をふくむ人の認識で作用が変わるってところですね」

「……それなら、イドの怪物ってこと?」

「いど……ああ、無意識イド、まあ、はい、そうなりますかね」


 ひろ都子みやこの言葉に一瞬わからずに適当に流そうとしたように思えたが、最後には思い至ったらしく、納得してうなずいている。

 この場合のイドは確か、心理学の言葉のはずである。

 深雪みゆきが眉間にしわを寄せて言う。


「フロイト?」

無意識イド自体はその通り、フロイトの心理学ですね。とはいえ、今回においてその本来のニュアンスと同じかというと……審議って感じというか、むしろ史実的に言えばフロイトは切り捨てたいやつかと思いますが」

「でも、どっちにしろ、人の心理状態が影響するということには違いねえだろ?」


 恭弥きょうやの言葉に、ひろはちろりとやる気が目に見えてがれた視線を送って、元に戻す。


「正確には、心理もひっくるめた認識ってところですし、どちらかといえばフロイトとたもとかったユング寄りなんですよ」

「ええっと、無意識化で人がつながってるってやつですっけ?」

「あ、それはニュアンスが違いますね。人の思考や発想の根幹となる無意識というものが、国が違えど本来的に同じものなのではないか、というのが集合無意識のはずなので」


 悠輔ゆうすけの言葉を割と専門的に訂正してくるあたり、説明慣れしているのだろうか。


「で、今話してて少しばかりの実感はあったかもしれませんが、そもそも知っている事だけで視野、つまり認識可能な範囲って広がるんです」


 ――微生物の存在を知るまで、沼の水に目をらしたりしないでしょう?


 大変申し訳ないことに、ひろの言う例を聞いて、都会っ子の悠輔ゆうすけには何の実感もかなかった。


「あー、ちょっとわかる、ミジンコ見てみようとする」


 一方、恭弥きょうやには伝わったようだった。

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