4 安全装置

 青く鋭い目が、射抜くようにのぞき込んでくる。がっちりと固定されたように、視線がらせない。


「ヒロ、それは。だから、キミはそんなに身構みがまえる必要はない」


 言い聞かせるようにゆっくりと、力強くロビンが言い切る。

 軽く肩を揺さぶられて、強張こわばった身体から、余計よけいな力が抜ける。


「……はい」


 自然と口から言葉がこぼれる。

 呪いじゃない。呪いでは、ないのだ。


「……すみません、ロビン。もう、大丈夫です」

「ん」


 ちょっと疲れとかそういったもので、珍しく弱気になっていただけ。

 ひろの言葉に、肩をつかんでいたロビンの手が離れる。

 よもぎがほう、と感心したようにため息をらした。


流石さすが、レジェンドやな」

「……その呼び方嫌い」


 レジェンド。

 聞いた話によれば、紀美きみの初弟子という事に加え、国籍という特異性まで持ったロビンは界隈かいわいでめちゃくちゃ興味を持たれたし、本人も本人でいろいろと学ぶつもりだったので、吸収率が異常に高かったとか。

 ただ、その中でも目にまつわるものを身につけるスピードは異例も異例で、調子に乗ったやからのせいで、ロビンはこうして催眠術まで身につけてしまった次第である。

 そうしてついたその大仰おおぎょうな呼び名は、ロビン的にはいいようにあつかわれた思い出なので嫌らしい。


「……ああ、そうだ、そうです」


 久々にロビンので見つめられたので思い出した。

 ひろはリュックの肩紐かたひもを片方おろすと、背中側から前に持ってきて、片足で支えながらごそごそと預かったメガネケースを取り出した。

 ちなみにこの間、ほぼ揺れない程度にひろの体幹は出来上がっている。大体、実家が山伏的なのも込みの流れをむせいである。


「ロビン、これ返します」

「ああ、ありがと」


 ぱかりと開けたメガネケースから取り出した銀縁ぎんぶちのウェリントン型メガネをロビンがかけると、ひろとしてはようやく日常に戻って来た感がした。


「もともとそれ保険なんやっけ」


 よもぎがそれを見ながらつぶやく。

 前にロビンから聞いたところによれば、もともと能力制御の補助として、常に裸眼でない状況を作るために、昔買ったのが始まりとかなんとか。

 とはいえ。


「……最近は普通に貫通してると思いますけどね」


 実際、メガネのあるなし関係なく、自由自在にロビンは自身の能力を使っている気がする。うっかりするとさっきみたくなるひろとは違って。

 しかし、不満げにロビンは口をへの字にしてみせてから、口を開いた。


「あのね、電動アシスト自転車から電動アシスト抜くようなもん。そこまで気にしなくていいから楽なの」


 そして、それから、とやや語気を強めて続きを口にする。


伊達だてではあるけど、多少の紫外線カットと調光は入ってるんだよ、これ」


 そこで、よもぎひろそろって思わず、ああ、と納得の声を上げた。

 基本的に虹彩の濃いモンゴロイドと比較して、いわゆるコーカソイドの虹彩の色、特に薄い色――この場合の薄いはメラニンが、にも置き換えられる――の方々の桿体細胞かんたいさいぼう酷使こくしされやすい運命なのだ。

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