2 一休み

 さて、と少女はあきれて見下みおろしていた青年から、たけるの方を見る。


「ええと、まあ、防犯上の観点からいえば非常に適切に対応してもらってると思うんですが、東野ひがしのたけるくんで、間違いありませんね?」


 そこにふくまれているのは、自分は明らかに不審者だからしょうがない、というあきらめのような何かだ。

 まがりなりにも、クラスの男子準リーダー格という立ち位置にあるたけるは、そうした人の機微きびを察する事にけていた。


「え、あ、はい」

「ボクが、間違えるわけ、ないじゃん……」


 返事をすると、まだ息を整えている青年がぼそりとそう言った。

 しかし、少女はそれを完全に無視してにこにこと口を開く。


「わたしは唐国からくにひろといいます。こっちのへばってるおにいさんはロビン・イングラム」


 今度は青年、ロビンの方から異論は上がってこない。

 自覚がある分、余計よけい、かわいそうに思えてくる。


「わたし達、を連れ戻しに来ました!」


 はきはきとひろが口にした言葉に、たけるは首をかしげた。


 神隠し。

 たけるはその言葉を、有名なアニメスタジオが作成した、長編アニメ映画ぐらいでしか聞いたことがなかった。


 たけるは比較的頭脳派ブレーンではあったが、そこは小学生男子という集団における比較的。

 小学校のクラスの中心周辺に立つだけあって、身体を動かす方がまだ得意だし、そっちの方が目立つのだった。

 つまり、本は、余り、なかなか、読まない。


「神隠しって、あの」

「ええ、あの神隠しです」


 そんな風にはっきり言ってのけるという事は、この頼もしそうなひろという少女も、今にも吐きそうな顔色をしているロビンという青年も、そうした専門家なんだろう。

 そう、たけるは判断して、そして同時にわくわくした。


 ――まるで、マンガやアニメの世界じゃん!


 誰しも少しは憧れるやつであるし、たけるのような小学生男子に憧れるなというのはこくなやつである。


「……それより」


 少しばかり回復したらしいロビンが、眉間にしわを寄せて立ち上がる。

 眼鏡の奥の青い目がたけるにらむように見た。


「ここに来てから、キミは、自分の持つ食料や水以外を口にした? キミはここに来てどれぐらいったと感じてる? あと、キミはここで、


 その人相と詰問きつもんじみた言い方含め、たけるおびえるには十分過ぎた。


「ロビン、落ち着いてください。あなた、その目つきの悪さ、忘れてるんじゃないですか」


 それをすっぱりと切り込んで止めたのはひろだ。

 目つきの悪さを引き合いに出された瞬間、ロビンが目に見えて気不味きまずそうに視線を彷徨さまよわせる。

 ぐうの音も出ないとはこれのことか、とたけるは慣用句の実例として脳裏に焼き付ける。


「……ごめん。ちょっと、みたいだったから、あせった」

「そういうことですか。でも、さっきまでバテられていたんですから、そこまで緊急を要する程でもないんでしょう?」


 まあ、順番にいていきますか。

 そう言うとひろは自身のリュックをろした。

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