79話 少し衝撃的な再会
一週間後の朝。寮で朝食を終えて、制服に着替えた私は、他の生徒と同じく登校をする。ラブニールさんから教えて貰って以降、なんだか落ち着かなかった。
王室付魔法使いはただ一人であり、その弟子も一人だけ。リティナの登場確定だ。もう一人の転校生も気になるが、高等部なので全く関係がない。
(レフィード。会ってどうすれば良いと思う?)
最近やけに静かなレフィードへ、頭の中で相談をする。
『まず友人として交流するしかないだろう』
(そうだけど、彼女の行いを否定するかもしれない。下手すると対立しちゃうんだよ?)
『会っていない状況で先走った判断は禁物だ。様子を見て、情報を集めるのが先決だ』
(うん……)
『私は君と共にいる。深く考え込まないでくれ』
落ち着いた声音でレフィードは励ましてくれる。私は、不安を吐き出した事で少し荷が軽くなった。
(ありがとう。少し楽になったよ)
『どういたしまして』
レフィードの声が少し柔らかくなり、私の緊張も解れた。
「ん?」
高等部の目を惹く男性が、中等部と高等部の分かれ道に立っている。
天使の輪が出来る程に綺麗な薄い金髪。幼さの残る丸い金の瞳に、柔らかく甘いマスク。すらりと背が高く、あどけなさの中にある大人びた雰囲気は、おとぎ話の王子様のようだ。
待ち合わせだろうと思っていたら、その人物が誰か分かり、内心驚く。
あの人はサージェルマン・エレウスキー。ゲーム中の攻略候補の一人。世界を渡り歩く豪商だが、ゲーム上の年齢は18歳。今は16歳だ。
「あの人誰だろう」
「格好良いね」
中等部の子達が小声で言っている。
サージェルマンは、表向きは休みがちな学生。しかし、その正体は……とプロフィール紹介がされている。
目を惹くルックスなのに今まで気づかなかったのは、やっぱり休みが多かったのだろう。
そう納得していると、彼がこちらを向いた。他にも生徒はいるから、気のせいだろう。
「ミューゼリア!」
「え?」
花が開花するように、明るい笑顔を広げて、私の元へやって来る。
初対面のはずだ。なんで名前知っているの?
「久しぶりだね!」
「す、すいません。会った覚えが無いのですか……」
目を丸くし、残念そうな顔をする。ころころと変わる表情は、人によっては凄く可愛らしく見えるだろう。私は、驚いてその余裕がない。
「僕だよ! サジュ!」
「サジュ……え? サジュ?? えええええぇぇ!?」
あのふっくらした体形のサジュが、こんなスマートな体形になってる!?
い、いや、冷静になろう。もう6年も会って無かった。痩せて、さらに成長期で体形の変化で印象が変わるのは、あっても不思議ではない。
だけど……こんなにガラッと変わるものなの?
過去編を思い出そうとしても、その衝撃によって引き出せない
「ほ、本当に、サジュ? 兄様とよく遊んでいた、彼、だよね?」
「イグルトにも言われたよ……2人とも、ひどいなぁ」
ほんの少し肩をすくませ、苦笑する目元の緩ませ方が、思い出の中にいるサジュと全く同じだ。
本当にサジュなんだ……〈サジュ〉は愛称だったなんて、初耳だ……
兄様は、麓の町に住んでいる子供とも交友関係を持っていたので、特に気にも留めていなかったのが仇になった。
「ごめんなさい。高等部に転入して来る人が、サジュだなんて思いもしなかったから」
「父の仕事の関係で、外国に留学していたんだ」
「そうだったんだね。手紙を一通も送ってくれなかったから、兄様も私も心配していたんだよ」
「字や言葉、環境に慣れるのに必死でね……しかも仕事も勉強しろと連れ回されて、かなり忙しかったんだ。ごめんね」
「ううん。元気な顔を見せてくれたのが、何よりの頼りだよ」
「ありがとう」
笑顔を返してくれるサジュは、昔と変わらず優しい人で良かった。
私には貴族令嬢として立場はあるが、これからも友人として交流したいな。
「サージェルマン様。ここにいらっしゃったのね!」
女の子達が沢山やって来る。
取り巻きの女の子が周りを囲う美男子。乙女ゲームや少女漫画で見かける現象を目の辺りにして、本当にあるんだなと感心してしまう。
「あら、この方はどなたですか?」
一人の女子生徒の問いかけに、目線が一気に私へと集中した。どこか鋭さがあって、突き刺さる様に痛く、居心地がかなり悪い。
「彼女は、僕の友人の妹さんだよ。久しぶりに会ったから、挨拶をしようと思ってね」
サジュは笑顔で、懐かしそうにそう言った。周囲の高等部の女性達は、私がイグルド兄様の妹と気づいて、納得した様子を見せる。髪と瞳の色が同じで本当に良かった……
「今度、イグルドと3人で一緒にお茶をしようね。それじゃ、また」
「はい。ご機嫌よう」
サジュは女子生徒を連れて、高等部の棟へと向かった。
リティナよりも先に攻略候補に出会うとは、さらに予想外だ。サージェルマンのルートは、波乱万丈さはかなり控えめで、安心して攻略できるが、リティナ自ら開く売店の売り上げの水準や、イベント事の必須アイテム収集等の地道な作業の多さが難点。しかし裏を返せば、戦闘重視ではなく、他のゲーム要素のチュートリアルを関するので初心者向き。
私はリティナでは無いし、親衛隊みたいな人を敵に回したくはないから、距離の詰め過ぎに注意をしようと思う。
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