二十一話 「またね!」(二)

 帰宅後、陰陽亭にて。雷も呼び、ヤタについて議論していた所に、ある来訪者が現れた。


「――ひづ吉! 緋月、緋月、緋月……っ!」


「緋月ちゃん、紅葉ちゃん……!」


 それは、秋奈と千里であった。二人は顔を涙で濡らしながら、驚いて出迎えた緋月と紅葉に飛び付いてきた。


「あ、あきちゃんにちさちゃん……!? どうしたの!?」


「百合子が、ゆりこが起きたって……っ! それでっ、それでうち……っ! ひづ吉たちが……うぅ、うわぁぁんっ!」


 泣きじゃくる秋奈の言葉は、しっかりとした言葉になっていなかった。しかし百合子、という名を聞いて緋月はハッとする。きっと、彼女が目覚めたという連絡を受け取ったのだろう。

 それで、「必ず助ける」と約束をした緋月と紅葉を思い出し、二人して真っ先に駆け付けてきた、ということなのだろう。


 秋奈はわんわん泣きながら緋月をぎゅうっと抱きしめる。千里に至っては感極まるあまり何も言えず、紅葉に苦笑されながら撫でられている始末だ。


「そっか、百合子ちゃん起きたんだ……本当に良かった!」


 緋月はヨシヨシと秋奈の背中を叩きながら頬を染め、あの時出会った少女の目覚めを喜んだ。


 ――ちゃんと、助けることが出来たんだ!


 そう実感した緋月の心の中に暖かいものが生まれ、じわじわと喜びと感動が心を埋めつくしていく。紅葉も同じ気持ちである様だ。彼女も苦笑しながら、それでもどこか嬉しそうな色を乗せている。


「……っ、ごめん! マジで嬉しくて、涙止まんなくて……っ! ……よし、あのね、うちら今から百合子んとこ行くんだけど……」


 秋奈は強引に涙を拭うと、言葉を切って陰陽亭を見回す。


「……ひづ吉たち、忙しそうだね」


「あ……俺たちは気にすんな! 秋奈たちの再会を邪魔する訳にもいかないからな!」


 恐らく、一緒にどうかという意味であったのだろう。紅葉はクシャッと笑顔になると、自分たちは気にしなくてもいいから、と首を横に振った。


「ねぇ、あきちゃん、ちさちゃん」


 そんな中、緋月は一人深刻な顔で二人の名を呼んだ。


「――? どったの、ひづ吉」


「あたしたち、もしかしたらこれからもっと忙しくなって、すぐに学校行けなくなっちゃうかもしれないんだ」


「あ……そっか、緋月ちゃんたち……お手伝いで学校に来たって言ってたもんね……」


 緋月が明かした話に、秋奈はハッと瞠目する。その言葉に、千里はいつしか聞かされた話を思い出して、少し悲しそうに呟いた。


 緋月たちは現し世の住人では無い。ましてや、宵霞の様に上手く現し世に溶け込める訳でも無い。その為、いつまでもここに留まることは難しいのだ。

 だから、このコックリさんの呪いの問題が解決した今、緋月たちはもう妖街道へと帰らねばいけないのだ。


「そっ……か、そっか。ひづ吉……くー子……ううん、やめよ。うち、待ってるよ! 今度は百合子も一緒に遊ぼ? ね、約束! さよならじゃなくて、またねだからね!」


 秋奈は、何かを言おうとして、俯いて、口を噤む。

 しかし、すぐさまパァっと明るい表情になって笑った。その表情は晴れ晴れとしている。必ずまた会えると、そう確信しているのだ。

 そうして、小指を差し出して、「約束」と笑う。


「そうだね、約束……!」


「うんっ!」


「おう!」


 千里も同じく小指を差し出した。

 緋月も紅葉も、同じく笑いあって小指を絡めた。四人と、そして今はいない百合子の、約束。必ずまた会おうと誓いあって、ゆるゆると絡めた小指を解いた。


「……それじゃ、うちら行くから! ホントにありがとう――またね!」


 秋奈はもう一度緋月と紅葉の顔を見ると、ニコッと嬉しそうに破顔して感謝の言葉を口にする。先程約束した通り、「またね」と言って陰陽亭を後にした。


「……ね、緋月ちゃん、ちょっと耳貸して……」


 別れ際、千里は何かを思い出した様に緋月の元に戻ってきた。


「――? どうしたの?」


 緋月がキョトンとしてそれに従えば、千里は緋月のへと顔を寄せ静かにこう言うのであった。


「本当にありがとう……の緋月ちゃん……!」


「へっ!?」


 緋月がギョッとして顔を上げれば、千里はニコリと優しく笑みを浮かべて秋奈の元へと戻っていく。


「……あはは、なーんだ。やっぱり視えてたんだ……」


 その背中を見送りながら、緋月はとても嬉しい気持ちで呟いた。

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