時間を買うのは

シヨゥ

第1話

「手に入れようと思えば際限なく手に入れられるお金」

 そう言ってぼくは右手を上げる。

「どれだけ持っているのかもわからず、手に入れようと思っても手に入れられない時間」

 そう言ってぼくは左手を上げる。

「君はどちらを選ぶべきだと思う?」

 そう問いかけると妻は少し悩んでから、

「時間」

 と答えた。

「じゃあお金をかけて時間を節約する行為は悪? それとも善?」

「善だね」

「ということはこれらの家電を購入することは?」

「善行だね。間違いなく善行だよ」

 妻は深々と息を吐き、購入ボタンをクリックした。

「あー買っちゃった」

「お疲れ様」

 根っからの貧乏が妻に二の足を踏ませる。その背中を押すのもぼくの仕事のひとつだ。

「本当に買ってよかったのかな?」

「君の自由時間が増えるわけだろう?」

「うん」

「だったら買ってよかったんだよ」

「そうなのかな? 私だけ楽してない?」

「楽になってなにか不都合が?」

「ない」

「それって幸せだろう?」

「うん」

「幸せな君を見るのはぼくにとっての幸せでもあるんだから今回の買い物は良かったんだよ」

「そっか。うん、そっか」

 後悔させないこと。そんなアフターフォローも大事な仕事である。

「あとは届いてみてのお楽しみということで」

「そうだね。っと、もうこんな時間か。ご飯作るね」

 すでに21時過ぎ。購入を悩みだしてから2時間ほど経過している。もっと即断即決ができるよう後押しを強めるのが目下の目標である。

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時間を買うのは シヨゥ @Shiyoxu

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