第17話 悪役令嬢がやってきた日






『おい、お前ら! 今日は新メンバーをまた連れて来たぞ!』


 出会いはやっぱりヴィランが連れてきたところからであった。

 豪華絢爛なドレス。

 艶やかな髪。

 そして、高圧的な態度……。


 ──おい、この子は駄目だろ。


 第一印象は、本当に連れて来ちゃいけない子……であった。

 誰が見ても、モナは大貴族の御令嬢か、そうでなくてもかなり裕福な家の子。

 手を出してはいけないところにヴィランが手を出してしまったと頭を抱えた。


『おっさん……それは、流石にアウトだろ』


『はあ? 何の話だよ』


『いや、そんな金持ちの御令嬢みたいな女の子を連れ帰っちゃ体裁的に色々マズイだろってことだよ』


『んあ? 何だそりゃ?』


 ──ダメだ。通じない。

 アイリスの時でさえ、グレーな感じてあまり賛同する気にはなれなかった。

 しかし、アイリスの場合明らかに困窮した装いであった。

 ヴィランがお情けで保護してあげたと理由付けをできる範囲でだったのだ。


 しかし……。


 今度のは、流石に社会的抹殺を予感させることであった。

 本当に。


 モナは、周囲を見渡しながら目を細めていた。

 俺、アレン、アイリス、最後にヴィランのことを順々に見ていく。

 正直生きた心地がしなかった。

「親に言いつけてやる!」なんてことを言われた日には、思わず夜逃げしたくなっちゃうくらいだ。


 そんな俺の不安をよそに、モナは「フンッ」と鼻を鳴らし、

『まあ、落ちこぼれた人しかいないけど……いいわ! 貴方たちの冒険者パーティに入ってあげる!』


 そんなことを堂々たる風格で告げたのだ。


『よっしゃ! メンバー獲得だ!』


 ガッツポーズのヴィラン。

 違う。

 その反応はアンタしかしないやつなんだよ。


 呆れてため息を吐くと、モナがすぐ目の前に来ていた。

 そして、俺のことを睨みつけて一言。


『何よ? 私が入るのが不満なわけ?』


『……大歓迎、すよ』



 普通に怯んだ……。



 モナは言質を取ったことがご満悦なようであった。

 ……というか、ヴィランが強引に連れて来たと思っていたが、同意の上だったのか。

 よく考えれば分かることであった。

 かつて自分も誘われたことがあるのだから。


 おっさんは、そいつの意思を最大限に尊重するからなぁ。

 ……杞憂だったか。


『よっしゃ! 新たな仲間が加入したことを祝って、今日は盛大に飲もうじゃねぇか!』


 ヴィランの何も考えてなさそうな発言に毒気を抜かれる。


 ──はぁ、おっさんの好みで集めたメンバーなんかで、大丈夫なのか? 


 不安はあったが、その大きさは当初よりもない。

 Fランクから始めたこのパーティ。

 モナが加入してきたのは、そのパーティ設立の1ヶ月後であった。

 そして、なんとこのパーティ、FランクからEランクに早くも昇格していたのである。


『ガハハッ! このメンバーなら、Sランクなんてあっという間に行けちまうかもな!」


 ──なわけあるか!

 ……と、能天気なヴィランに心の中で指摘するが、その指摘が的外れな物であるなんて、この時の俺は思っていなかった。


 ヴィランの連れてきた元御令嬢のモナ。

 まさか【殲滅の悪役令嬢モナ】なんていう物騒な肩書きを乗せ、槍と魔法を振り回すことになろうなんてこと、想像しろという方が無茶な話である。


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