皇女と聖女

「今日は、王国へわざわざお越しいただいたクラウディア皇女を労うための晩餐会だ。皆の者、存分に楽しんでくれたまえ」


 国王陛下の言葉と共に、晩餐会が始まりを告げた。


 それと同時に、多くの有力貴族達がこぞってクラウディア皇女の元へ挨拶に参じる。

 さすがに今回は、第三王女派に限らず第二王子派の貴族も一緒だ。


 まあ、これで第一王子は王位継承争いから降りることが明確になったわけだし、派閥などを気にする必要もないからね。

 それに今回のことで、別にブリューセン帝国がクラリス王女の後ろ盾になったりするわけじゃないし、変なしがらみを気にする必要もない。


 むしろ、ここでクラウディア皇女と繋がりを持っておけば、今後の外交や貿易に関して有利に進めることができるかもしれない。

 なら、少しでも覚えめでたくしておくに越したことはない。


 そんな中。


「クラウディア殿下……お噂どおり、お美しいですね……」

「フフ、ありがとうございます」


 何をとち狂ったのか、パスカル皇子がクラウディア皇女に色目を使っていた。

 というかアイツ、この場にいたのか……まあ、アイツも曲がりなりにもベネルクス皇国の第三皇子だからな。扱いはクラウディア皇女と比べて天と地ほどの差があるが。


 さて……こうなると、あのソフィアはどう見るかな。

 今まで自分に懸想していた男が、まるで手のひらを返すようにクラウディア皇女に入れ上げているんだからな。それも、二人も。


 だが。


「うふふ……」


 パスカル皇子を小馬鹿にするかのように、クスクスとわらうソフィアの姿があった。

 はは、既にパスカル皇子は切り捨て済みか。


 とはいえ、聖女よりクラウディア皇女のほうが地位も、容姿も上なんだ。内心面白くないだろうな。

 そんなことを考えていると、ソフィアが早速動き出したようだ。


「シア……念のため、クラウディア殿下のそばへまいりましょう。あの女・・・が、何をしでかすか分かりませんので」

「はい……」


 僕とシアは、ソフィアに気づかれないように、ゆっくりとクラウディア皇女と第一王子のいる場所へと向かう。


「帝国の星、クラウディア殿下にご挨拶申し上げます。ソフィア=プレイステッドと申します」


 にこやかな表情を浮かべながらカーテシーをするソフィア。

 すると、それに合わせるかのように第二王子が現れ、その隣に立った。


「ハハ……し、知っているかもしれないけど、ソフィアは女神教会が認めた聖女・・なんだ」


 聞いてもいないのに、ソフィアを紹介する第二王子。

 一方で、そんなソフィアを見てバツの悪そうにする第一王子。


 まあ、今まで散々ソフィアを追いかけ回していたのに、さすがにこれは気まずいだろうな。

 とはいえ、落ちぶれてからはソフィアに相手にされていなかったんだから、別に気にする必要はないと思うけど。


「フフ……ええ、“聖女”様については存じ上げておりますよ? あと、“氷結の薔薇姫”様も」

「「…………………………」」


 クラウディア皇女の言葉、ソフィアと第二王子には厳しいだろうな。

 だって、シアの二つ名を知っているということは、あの能力判定の出来事を知っていると言っているようなものだから。

 だが、クラウディア皇女の情報網は要注意だな……。


「ですが……ショーン殿下とご一緒にいらっしゃるということは、ひょっとしてお二人は恋人同士、ですか?」

「うふふ……さて、どうなんでしょうか?」


 二人を交互に見ながら、それとなく告げたクラウディア皇女に、ソフィアは含み笑いをしながら曖昧に答えた。


「ですが、その趣味はどうかと思うものの、第二王子は一応ソフィアに一途なようですね。パスカル皇子のように簡単になびいたりはしませんでした」

「はい……」


 僕の言葉に、シアが不本意ながらも頷く。

 だからといって、あの女に入れ上げている時点で趣味が悪いし、終わっているけど。


 他には、王位に就くためには女神教会の支持がどうしても必要だから、ソフィアを手放せないというのもあるんだろうな。


「では、これで失礼いたします。ニコラス殿下、どうぞお幸せに」

「っ!?」


 おっと、これはまずいな。

 僕は第一王子のすぐ後ろに控える、侍従のクリフに目配せをする。


 すると、僕の意を汲んだクリフが、まるで追いかけようとするかのように立ち上がる仕草を見せた第一王子の肩に手を添え、立ち上がれないように無理やり抑え込んだ。


 全く……隣にクラウディア殿下がいるというのに、何を余計な真似をしようとしているんだ。

 だが、おそらくはそういったことも織り込んで、あのソフィアは挨拶をしに来たんだろうけどな。本当に、性格が悪い。


 とはいえ。


「ふふ……クリス様の指導を受けた侍従の方々は、素晴らしかったですね」

「ええ、これなら向こうに行っても安心です」


 今のクリフ子息の対応もそうだが、この晩餐会が始まってからずっと、侍従達は周囲に気を配りながら第一王子が失態を犯さないように上手く捌いている。


 僕とシアは今後に安堵し、微笑み合いながら頷いた。

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