国王への提案
「ギル、いかがですか……?」
「おおおおお……!」
エイヴリル夫人の仕立てた青色のドレスに『女神の涙』とサファイアのイヤリングをつけ、シアが僕の部屋にやって来ておずおずと感想を求めてきた。
僕? そんなの、感嘆の声しか出ないに決まっている。
シアの美しさには、
でも、シアはそんな僕の言葉を待ち続けている。
なら、いい加減見惚れるのはこれくらいにして……。
「あ……」
「シア……やはりあなたは誰よりも綺麗で素敵です。国王陛下も、あなたのあまりの美しさに、言葉を失ってしまうことでしょう」
「ふあ……あ、ありがとうございます……」
僕はシアをそっと抱きしめ、耳元でそうささやいた。
するとどうだろう。シアときたら、恥ずかしそうに耳まで真っ赤にしながら、僕の胸に顔をうずめるではないか。
こんなの、神話級で可愛すぎるだろ。
「お、お二人共、そろそろお時間です」
おっと、もうそんな時間か。
だけど、リズはどうしてそんなに頬を膨らませているんだ?
まあいいか。
「ではシア、行きましょう」
「ふふ、はい」
僕はシアの手を取り、玄関へと向かう。
そして……シア、なんでそんなに勝ち誇った表情をしてるんだろう……?
シアの様子に、僕は思わず首を傾げた。
……まあいいか。
◇
「面を上げよ」
謁見の間。
国王陛下の言葉を受け、僕とシアは顔を上げた。
「それで……今日は小公爵より余に提案があるとのことだが……」
「既にお聞き及びかと思いますが、ブリューセン帝国において、例のヘカテイア教団がかなり中枢まで介入しているようです」
「うむ。これは王国としても悩みの種ではある。して、その話を持ち出したということは、それに関する提案ということでよいのか?」
僕の言葉に、国王陛下が興味深そうに尋ねる。
といっても、第一王子をブリューセン帝国に婿入りさせる話自体はクラリス王女から第一王妃経由で聞いていると思うから、目の前の反応すらも演技なんだろうけど。
「はい。幸いなことに、ブリューセン帝国の世継ぎはクラウディア皇女しかいません。ならば、王国から彼女と政略結婚させることで、ヘカテイア教団との繋がりを断ち、
「ふむ……だが、そうすると誰を差し出すか、ということだが……」
「それですが、ニコラス殿下はいかがでしょうか」
「ニコラス……」
そう提案すると、国王陛下が顎を撫でながら考え込んだ。
だが、反応を見ると陛下は第一王子を差し出すことに抵抗があるのか?
「ニコラス殿下はこの国の第一王子。第一皇女とも
「む……やはりそれしかない、か」
「……何かあるのですか?」
説明をするも乗り気ではない国王陛下に、僕はおずおずと尋ねる。
「まあ……あやつの性格やこれまでの失態などを考えると、逆にやり込められてしまうのではないかと不安でな。小公爵よ、何か対策はないものか?」
「対策、ですか……」
ふむ、確かに国王陛下のおっしゃるように、
何せ、小説のヒーローの一人であるにもかかわらず、あのエセ聖女にあっさり陥落したしな。
「……やはり、第一王子に優秀な補佐をつけるしかないのでは?」
「やはりそうなるな……だが、その適任者がおらん。小公爵が補佐してくれるのならば、これ以上はないのだが……」
「申し訳ございません。さすがにそれはお断りいたします」
「分かっておる。そもそも、それができぬことが分かっておるからこそ、ここまで悩んでおるのだからな」
そう言って、国王陛下は肩を落とした。
だが、補佐……補佐、か…………………………あ。
「一人、思い当たる者がおります」
「本当か? それは一体……」
僕の言葉に、国王陛下が身を乗り出した。
おそらく、陛下自身も補佐にできそうな適任者を選抜していたのだろうけど、思い浮かばなかったのだろう。
だからこそ、僕がそう提案したことに驚いたに違いない。
……まあ、国王陛下には絶対に思い浮かばない人物だからね。仕方ない。
「……ただ、その者を
「ほう……」
なにせ、ソイツは王国に対して恨みを持つ人物。
冤罪で取り潰しとなった伯爵家の令孫で、今は王都の貧民街で虎視眈々と王国に叛逆しようと牙を研いでいる、小説に登場するヒーローの一人で、ヒロインであるシアの参謀格となる男。
――“クレイグ=アンダーソン”。
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