第40話 死亡フラグを物理で殴るタイプの師匠

「私が、死ぬ……? それは病気とかではなく?」

「違う。あんたはクロノを連れて冒険に出た先で敵の罠にかかって死ぬんだ」


 洞窟の奥底で封印から目覚めた魔王とその軍勢。強敵たちを前に飄々と笑うノア。

 けれど彼は自らの死を覚悟し、クロノに自分の目的を剣と共に託すと安全な場所へ転移させる。

 一緒に逃げないのはそうすれば魔物たちが一斉に洞窟の外に逃げ出すから。

 だから自らの命と魔力を引き換えに食い止めようとしたのだ。

  

 俺は自分の知る筋書きをノアに話した。

 彼は先程のようにわかりやすく驚きはしないものの俺の語った内容を真剣に考え込んでいるようだった。

 お前の妄想に過ぎないと鼻で笑われる可能性の方が高いと思っていたので正直意外だ。

 もしかしたら現時点でノアは魔王が封じられている洞窟に心当たりがあって、更に中を探索するつもりだったのかもしれない。

 だとしたらクロノ抜きでも死にたくないなら止めて置けと思う。

 ノアの死をきっかけにクロノはパワーアップアイテムである形見の剣を入手できるが、それはなくてもいいだろう。


「……その洞窟ってどこにあるかわかるかい?」


 沈黙を破ってノアが俺に語り掛けてくる。今度はこちらが考え込む番だった。

 彼の問いかけを拒否するつもりは毛頭ない。単純に地名などの詳細が思い出せないのだ。山の中にあった気がする。

 大分時間をかけても他の特徴は浮かんでこなくて俺は謝罪と共に彼にその事を話した。


「魔王が封じられている場所か……候補なら十位あるんだよねえ~」

「多いな」

「多いよ~。どこも強い魔物がうじゃうじゃいるから観光気分で行くのはお勧めしないね~」


 君が魔王入り洞窟の場所を覚えていてくれたら、探索して確認する手間が省けてよかったのだけれど。

 ノアの言葉に俺は項垂れる。小説執筆の際、併せて設定資料集とかを作っておくべきだった。

 地名やキャラの名前をその時のノリで決めて後になって思い出せない。

 そんな中学時代の自分の悪癖に生まれ変わった後の自分がここまで困らされるとは。


「そういえば君が死ぬ理由ってなんなの?私と同じようにクロノちゃんを庇って戦死~?」


 唐突に俺の話題に切り替えられ戸惑う。当然俺はそんな格好いい死に方じゃない。

 無能リーダーとしての俺の出番はクロノを追放するまでだ。

 だからその後は気づいたら死んでいるみたいな扱いになっている。


 ノアと違いクロノに何の影響も与えない犬死だ。俺はそれを彼に伝えた。 


「成程ね~そうなりたくないから君はクロノちゃんを虐めるのをやめたってことか~」

「前世の価値観で、子供をこき使ったり怒鳴ったりするのが苦手になったのもあるけど……」

「前世ねえ……、随分とモラルの高い世界で君は生きてたんだね~」


 だったらこんな世界で冒険者として暮らすのはかなりきついでしょう?

 ノアの言葉に俺は曖昧に笑った。


「それでも俺が今生きているのはこの場所だから……」  

「まあ元の世界に戻れないなら慣れるしかないよね~。よし、わかったよ~」 


 わかったと繰り返しながら銀髪の英雄は俺の両手をがっしりと掴む。

 ノアは怪力の持ち主らしくそうされると俺は全く振りほどけない。その上でにっこりと笑って俺を見ている。

 これ、今から彼のする発言を拒否したら拳を砕くぞというアピールじゃないだろうか。


 いいことを考えたんだよ~。そうのんびりと話し始めるノアに俺は全神経を集中させる。

 

「クロノちゃんも君も私に弟子入りして実力底上げしようか。鍛えれば君でも金級くらいならいけるでしょ~」 


 魔王の封印が解けた時に私以外にも強い英雄がいればいいんだよ。

 そう名案のように笑う万能の英雄は俺を外野枠に逃がすつもりは無さそうだった。  


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