第23話 主人公属性
魔力を封じられたミアンは予想以上に大人しかった。
手足を振り回し見苦しく暴れることも、掌を返し俺たちに媚びを売ることも無い。
その落ち着いた様子と何より顔色がずっと青いままだった為、俺の口から魔力封印は時間経過で解除されることを伝えた。
「だからといって変な気起こすなよ?魔力はもう一度封印すればいいだけなんだからな」
そして次はそれだけでは済まさない。
俺が鞘に収まった剣を見せると彼女は静かに頷いた。
「アルヴァさん、そこまで脅さなくても……」
「いや、焼き殺そうとしてきた相手にこれは普通に対応甘いだろ」
クロノの台詞に俺は軽く突っ込みを入れる。
しかし自分を殺しかけた相手を気遣うとは、これが勇者の資質というものだろうか。
やっぱり俺は主人公には向いてない。ミアンを心配そうに見つめる少女を見下ろしながらそう思った。
「そうね、甘いわ。アルヴァなら正直歯を全部折るぐらいはすると思った」
「いや、そんなこと女には……」
「するでしょ、アンタは」
ミアンの自信たっぷりの言い様が怖い。そんな危険な相手と恐らく男女の関係でいたミアンも怖い。
確かにアルヴァは男性アイドルを参考に外見を設定していた。
しかし顔と体が良ければ中身が外道でも女性は抱かれるものなのか。
失望を覚えつつ、性別を逆にすれば若干納得出来てしまうのが後ろめたかった。
「理由はわからないけど、あんたが普段通りでなくて感謝だわ」
魔女は髪の乱れが気になるのか特徴的なツインテールを解き、金髪を櫛で梳き始めた。
そうすると何の違和感もなく大人の美女に見える。わざと幼い恰好をしなくていいのに。思ったが黙って置いた。
似合う格好としたい恰好は違うのだろう。
クロノだって地味な男装が似合わない訳ではないが、花飾りやドレスを纏った方がもっと美しくなるだろう。
今までの罪滅ぼしではないが、彼女にもちゃんとした服を買ってやろうと改めて考える。
クロノの魔力封印で助かったようなものだ。多少奮発してもいい。
でも黒髪の少女の一人称が『ボク』であることを考えると、女性として着飾る願望はないかもしれなかった。
そんなことを俺が考えているとミアンはあっさりと自身の離脱を提案してきた。
「アルヴァ、私はリーダーのあんたを殺そうとした。クロノにも負けた。有り金置いて出ていけばいい?」
「それは……」
まさかクロノではなくミアンを追い出す流れになるとは。俺は戸惑う。
確かに小説内ではクロノ追放後ミアンとも喧嘩別れをした。彼女はどの道アルヴァと離反する役割ではあるのだ。
正直、居なくなってくれた方が気が楽になる存在ではある。
ミアンは腕利きの魔術師で美人だが我が儘でヒステリックだ。更に炎術を暴力手段として行使する危険極まりない存在。
今回だってクロノの魔力封印がなければ俺は彼女に殺されていた可能性が高い。
そしてミアンは、恐らくだがアルヴァ・グレイブラッドに対し特別な思い入れがある。
今は落ち着いていても、再度俺が彼の肉体を奪った魔物扱いされ命を狙われる可能性は消えない。
既に俺はミアンの想うアルヴァではないのだ。全くの別人ではないが、同じではない。
「そんな、ミアンさん……ボク、嫌ですよ。仲間じゃないですか」
「私はアンタを仲間だと思ってない」
引き留めようとするクロノをミアンは言葉で一刀両断にする。彼女は何故ここまで黒髪の少女を嫌うのだろう。
改めて疑問を覚えていると、クロノは落ち込む様子もなく金髪の魔女に対し説得を試みていた。
「でもミアンさん、ボクがアルヴァさんを探したいって言ったら手伝ってくれたじゃないですか!」
「なんだって?」
それは初耳だ。つい驚いた声を出す。確かに俺は一週間ほど行方不明になっていたとは聞いた。
しかし自身を奴隷のように扱っていた男をクロノがわざわざ捜索するとは、そして面倒臭がりなミアンがそれに手を貸すとは。
「それに慣れない前衛でボクが怪我してるのを見かねて、ベッドで休めってアルヴァさんの部屋を貸してくれたり」
「あれはっ、この赤毛に対する嫌がらせよ!あいつ自分のベッドに他人の匂いつくのが大嫌いだから!!」
俺を指さしながらミアンが言う。成程、そういう理由だったのか。
そう言えばアルヴァが個人で受けた冒険を自分たちが肩代わりしたとミアンは言っていた。
もしかしたら一人で冒険中にトラブルが起きたことを考慮して、捜しに行ってくれていたのかもしれない。
ということは今拠点内に居ない残りの三人も俺の捜索の為出払っているのだろうか。
実際は神殿で女神と酒盛りをしつつ彼女の愚痴を聞いていただけなのに。申し訳なさに逃げ出したくなった。
「でもミアンさんがアルヴァさんのこと心配してたの、ボク知ってます。燃やされそうになったのはびっくりしたけど……」
それだけアルヴァさんのことを強く想っているってことですよね!
クロノはミアンの行動をどこまでも良い方に解釈して、真っ直ぐに語り掛ける。主人公だなと何度目かの納得をした。
自身に対しての発言に金髪の魔女は心底嫌そうな表情を浮かべたがやはり暴れることはなかった。
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