第14話 エルフおばあちゃん、マオ

「マオ様!」


 現れたエルフ耳の老婆にギルドの人々が頭を垂れる。慕われているのだろう、心配そうに一部のメンバーがここは危険ですと声を掛けている。


「それで、これはなんの騒ぎだ。街の外れにまで殺気が漏れておったぞ」


「それは……灰の魔王と疑わしき者が現れまして」


 ギルド長のリギルも敬意を持つ相手なのかクリア達への警戒心を保ちながらも恭しく礼を執る。リギルの言葉にマオと呼ばれる老婆は危険ですと制止する言葉を無視しクリア達へと近づく。


「……違うね。この魔女、恐るべき力を秘めてはいるが……根は臆病だ。人に危害を加えるタチじゃないよ。それにアレは白髪だしもっと性根のひん曲がった顔をしていた」


 マオは真っ直ぐにクリアを見据える。その見透かすような視線がなんだか怖くてクリアは表面には怯えを出さないようにしつつもぶっちゃけビビりちらしていた。その事が伝わったのかマオはクリアから視線を外し、ただ見て感じたことをギルドの面々に話す。するとギルドの人々は「え、違うのかよかった」、「誤解だったのか……申し訳ない……」、「マオ様が仰られるなら……」と様々な反応はあれど基本的に納得したようで殺気を収め出す。


「リギル。家族の事で気が立っているのは分かる。奴が恐ろしいのも、奴に対し激しい怒りを持っているのも分かる。だがそれでなんの関係も無いやつを迫害するのか? アウルムを立ち上げた時『種族も立場も関係なく支え合い笑い合える場』にしてみせる、と私に誓ったであろうが。あの言葉は嘘か」


「うう……それは……しかし……」


「しかしではない。お前はこの娘を魔王と誤認して皆を煽り害そうとしたのだぞ。……誰でも間違える事はある。大事なのは過ちに気づき自分の非を認めそれを正す事だと教えただろうが!」


 マオを除けばこの場で一番高齢であろうリギルをまるで子どものように叱りつける。しかしただ叱りつけているのではない。その言葉の端には厳しさはあれど確かな優しさと愛情が感じ取れた。この婆さんはこの場にいる全員、いやもしかしたらこの街全体の先生であり『お婆ちゃん』なのかもしれないとクリアは思った。


(助かった……というか魔王の顔知ってるのか。対面した事がある、と。長生きしてそうだしそういうのもあって頼りにされてるのかもな)


 エルフといえば長命な一族の代表みたいなとこあるもんなとクリアはひとまず誤解が解けそうなことにホッと胸を撫で下ろす。しかし。


「まったく……どれ隣の坊主は…………え?」


 呆れながらも一応確認しておくかと屈みシェダーの瞳をマオは覗き込む。するとマオは信じられないものを見たと言わんばかりに目を見開いた。


「マオ様……? ……もしかしてそちらの子どもがもしや魔王なのですか!?」


「…………いや、違う。……顔は似ておらんが…………いやしかし……」


 凛とした態度を保っていたマオであったがシェダーの瞳を見た途端、見るからに狼狽えだし一時は平常に戻った空気がざわめきだす。


「……お前、親は」


「え……分かりません。ぼくは赤ん坊の頃に捨てられたみたいなので。この街に来たのは色々あって……両親の事を調べようと思って来ました」


「……そうか。ふむ……名はなんという」


「シェダーです」 


「シェダーか。…………お前は?」


「クリア。クリア=オロスィーニーです」


 思うところがあるのか尖った耳を擦りながら何か考え込むマオであったが答えが出なかったのか視線がシェダーからクリアへと移る。クリアは急に話を振られたことに身構えつつ名を答えた。


「クリアか。クリア=オロスィーニー……聞いたことのない名だな。まあよい。ノースンには来たばかりらしいな」


「はい。諸事情により私もシェダーも無一文でして少しでも稼げたらとこちらのギルドに」


「そうか。ギルドに所属するなら基本的にこの街かその近くに居を構える事になる。ツテはあるのか」


「……ないのすぐ終わるクエストをこなしてその報酬で宿に泊まろうと思っていました。安い宿なら空いているようですし」


「そうか。しかしこの騒動だ。街にもアウルムに魔王がいるかもしれないという噂は伝わっておる。それに加えお前は魔王と同じ『魔女』でその目立つ容姿じゃ。もしかしたら断られるかもしれん」


(ええ……いやでも厄ネタつーか火種は受け入れたくないもんか。面倒くさそうだもんな)


 面倒な事になったなと若干嫌気が差してきたクリアである。こんなことなら魔女系Vtuberではなく聖女系Vtuberにでもすればよかったと思う始末だ。しかしどうあがいても女になるのはぶれない。


 そんなどっちにしろチート能力持ってたらトラブルか面倒事に巻き込まれてただろお前、なクリアの後悔をぶち壊すようにマオは口を開いた。


「クリアにシェダーよ。お前達の身柄は私が引き取ろう」


「……はい?」


 マオの突然の提案にクリア含めその場のほぼ全員が驚愕するのであった。


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