第12話 一件落着、かーらーのー?

「……どこにでもいる魔女ですが」


 レセの追求の言葉にクリアはとりあえずすっとぼけてみる。ダメ元でも試してみる。それがクリアのモットーなのである。


「いませんよ! 貴方みたいな色々ムンムンで訳ありそうな魔女は滅多に! そもそも魔女自体少ないですし……」


 清楚系かつスレンダーで可愛らしい容姿のレセはクリアのドスケベど迫力ボディをチラチラと見つつ反論するが次第に勢いが弱まっていく。同性すらも圧倒させる肉体と雰囲気がクリアにはあるのだ。


「あの……この水晶玉が壊れかけていたとか」


「昨日取り替えたばかりですよ! 新品です!」


「……」


「困ったからって意味ありげに微笑まない!」


「……ダメ?」


「うっ……くぅ……顔と声がいい……っ」


 高身長ミステリアス美女が見せる茶目っ気にレセは若干揺らいでいた。彼女はとても面食いで、なおかつ実はどっちもイケる人だったのだ! どうでもいい情報だ!


「なに雰囲気に呑まれとるんじゃバカ孫」


「あ、おじいちゃ…………ギルド長!」


 そんな割とポンコツなレセを呆れながらも白髪の腰の曲がった老人が杖をつきながらゆったりと現れた。偉い人ですよ〜なオーラが漂っている。


(偉い人来ちゃった……)


 俺達どうなるんだろ……と内心バックバクのクリアとそれを知って知らずか手を握って寄り添うシェダー。そんな二人を見てギルド長はついてこいとギルドの奥へと歩き出した。


 強制イベントな流れに逃げちゃだめかなぁ!?と心の内で叫びつつもクリアとシェダーは大人しくギルド長に着いていくのだった。






「ふむ……記憶がない、と」


「……はい。気がつけばシミナの村の近くに立っていました」


 ギルド長室に案内されクリア達はノースンに来るまでの簡単な経緯を説明した。


 クリアは別に記憶喪失というわけではない。が、親も故郷もない状況で放り出された状態のため記憶喪失でどこに住んでいたかも分からない状況ですと説明した方が都合が良かったのだ。


 それでも怪しいは怪しいが実は死んで異世界転生したんです☆しかも最初から大人の姿で☆とありのまま説明するよりかはマシであった。苦肉の策である。


 その説明にギルド長でありリデルと名乗る老人は長く携えた髭を指で漉きながら考え込む。


「……怪しいんじゃが」


「……それはまあ……そうでしょうね……」


 クリア自身他の奴がそんな事を言ってきたらうわっ、嘘くせっと思うので反論出来ない。どう話を切り出したらいいのか悩んでいるとそれまで口を挟まずに大人しくクリアの隣りに座っていたシェダーが身を乗り出す。


「でもぼくもクリアさんも決して悪いことはしてません。信じてくださいっ」


「……まあお前さんらは悪いやつには見えんが……」


「怪しむお気持ちは分かりますが……シェダーも私も決してこのギルドを害するような事はいたしません。どうかアウルムの一員として認めていただけないでしょうか」


(他にもギルドはあるがここが一番デカいところだ。一番デカいって事は多分だが一番信頼されてるって事だよな。受付の人も親切だったしギルド長も話せば分かってくれそうだ。なら頼み込むしかねえな)


 クリアはあとはこうするしかねえと床に膝を付き頭を下げる。それを見てシェダーもおねがいします、と隣でぎこちなくも真似をした。


 それが土下座であることはリデルには知りようもないがそれでも必死な事は伝わったようでため息をつく。


「しばらくの間監視をつけるからな」


「……では……」


「……うちは困った者は助けるがモットーなのでな。勿論お主達を無条件で信じるわけではないが……ま、お主達がアウルムに訪れたのもなにかの縁。一番下っ端として扱き使ってやるわい」


 渋々ですよーと言葉でアピールしつつリデルはクリアが書いた書類に判子を押す。だが会員証を渡す時の眼差しは柔らかい。


「……ありがとうございます」


「わあ……これが会員証なんだね。ぼくの分もある」


 手渡された会員証は紙で出来たものでカードの形をしており名前と写真が印字されていた。


「水晶玉ぶっ壊すほどじゃ。本来ならもっと上の階級が相応しいんじゃろうが……上の階級にするには情報が足りなさすぎるからの」


「構いません。いいですよね、シェダー」

 

「うん。クリアさんは強いけどぼくは弱いし……」


 一緒に頑張りましょうと仲良く頷き合うクリアとシェダーを見てまあ、なんとかなるじゃろ……と髭を漉くリデル。緊張した雰囲気はいつの間にか消え去っていた。


 よし、これから簡単な依頼を受けてシェダーに新しい服を買ってやらねばと意気込んでいたクリアであったが……そうトントン拍子にいかないのが人生というものである。


「ギルド長大変ですっ!」


 ギルド長室に真っ青な顔のレセがノックもなしに飛び込んできた。その様子にリデルは立ち上がる。さきほどまでのほっこり顔から険しい、責任者の顔へと変わる。


「クリアさん達の調査のためにシミナに向かった調査員から連絡がありました」


「……何があった」


「シミナの村人全ていなくなっていたそうです。一人残らず……」


「なにっ!? シミナの住民が!?」


「それだけではありません。村には強大な魔力の残滓と共に大量の灰が発見されたとのことで……」


「魔力の残滓に灰だと!? ……まさか……」


 レセの報告にリデルの表情が強張り青くなる。それから拳を握り震わせた。その震えには激しい怒りが宿っている。口にするのも忌々しいと言わんばかりに彼は思い当たった者の名を吐き捨てた。

 

「灰の魔王ヴァイスか……」


(……魔王とかいる世界観なのか……怖……関わりたくねえな……)


 クリアはそんなやばい存在が近くにいたのか、遭遇しなくてよかったとホッとしつつも隣にいるシェダーに視線を落とす。シェダーは少し前まで暮らしていた村の住民が全滅したらしいと聞きポカンとしていた。悲しみや恐怖より先に困惑が表に出たようだ。


(みんなが……あんなに嬉しそうだったのに……もういないの……?)


 シェダーが最後に見た村人達は皆変にテンションは高かったものの健康体であり全員消えたと言われても実感が湧かなかった。


「……灰の魔王。どのような存在なのですか?」


「知らんのか……? 本当にどこの生まれだおぬし。灰の魔王ははるか昔テスラントを滅ぼしかけた恐るべき魔王だ。勇者ディオスクロードが自らの命と引き換えに討伐した。……だが近頃になってまた現れるようになった。忌々しいことにの」


「てすらんと……?」


「……それすら知らんのか!? この大陸の名前じゃろうが!」


「あ、はい……」


 リデルの信じられないものを見るような眼差しに肝を冷やしつつユーラシア大陸的なもんかとクリアは大陸名を頭の中に叩き込む。話を聞くとテスラントはとても大きな大陸で皆テスラントに住んでいるらしい。小さな島などはあるものの他に大陸はなく魔物含め様々な種族が暮らし縄張り争いをしているのじゃとリデルはクリアに説明してくれた。口調は厳しいが基本親切なのである。


「灰の魔王ヴァイスは恐ろしい奴じゃ。無尽蔵なまでの強大な魔力と白く長い髪、そして漆黒の衣装に身を包んだ長身の美しい魔女であり………」


 リデルの口から語られるであろう『灰の魔王』の言い伝えにあ、これ長くなるやつだ、と身構えるクリアであったが……リデルが何かを思いついたように面を上げ彼女を見つめる。


「……どうかしましたか?」


「……おぬしはシミナの方から来たと言っていたな」


「ええ、まあ……」


「……その少年はその村の出身で、ついさっきこの街に来たばかりと」


「……はい」


「白い髪……無尽蔵なまでの強大な魔力……漆黒の衣装に身を包んだ長身の美しい魔女……身元不明の謎の魔女と被害のあった村の住人……」


「……あの」


(あれ、不味くねこの雰囲気。自分のは白髪じゃなくて銀髪ですがとかツッコめねえ感じなんですけど)


 謎のピースが埋まっていく推理物の主人公顔をするリデルにクリアは冷や汗をかく。え、まさかそんなガバい感じの展開にはならないよなと焦っていると──。


「貴様、灰の魔王ヴァイスか!!」


「違いますが!?」


 なってほしくなかったガバい展開に思わずキャラブレして声を荒げるクリアなのであった。

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