第5話 おねショタは好きだが感情移入はショタ側にしたい

「怪我は大丈夫ですか」


「あ、うん。もう塞がってるよ」


 念の為先程血出ていた腕辺りを確認するが確かに傷らしきものがない。血で汚れた服がなければ何も無かったと思えるほど見事に塞がっていた。


(んー? あれだけデケェ狼に噛みつかれてたっぽいのに……力加減してた可能性はあるがそれでも血が出るくらいにはダメージを受けてたはずだろ。この世界の住人は回復が早いのか……? それともさっき言ってた『生贄』だからか……?)


 いくつかの疑問はあるがとりあえず物騒なワードである『生贄』についてクリアは訊ねることにした。


「……生贄とはどういうことでしょう」


「村の人達が今年はお前が生贄だって言われて……クリアさんに助けてもらわなかったらぼくきっとあのまま……」


 食べられてしまったかもしれないとうるうる涙を滲ませるシェダーを落ち着かせるように抱きしめる。


「あ……だ、だめだよ。ぼく汚れてるし……っ」


 慌てたように制止するシェダーの言葉を遮るように怖かったでしょうと頭を撫でる。すると緊張の糸が途切れたのかシェダーは堰を切ったようにポロポロと泣き始めた。そんなシェダーにクリアは──。


(あー、俺もこんな美人のねーちゃんに抱っこされて慰められてえなー)


 と台無しな事を思っていた。彼女はおねショタのショタに感情移入する質なのである。自重しろ。






   ◇◇◇






「……落ち着きましたか」


「……うん……ごめんなさい……」


「いえ。かまいませんよ。それにしても生贄とは……この魔物はそれほどまでに凶悪なのですか?」


「みたい。あの狼が村に突然現れて生贄を寄越せって言ってきたんだって……ぼくは身寄りのない子どもだから選ばれたんだって大人の人が言ってた」


「……そうですか」


(お決まりではあるがムカつくな。仕方ない事かもしれねえけど子どもが犠牲になるのはな……大人が犠牲になれってわけじゃねえけど)


 村の選択に嫌悪しつつも自分がその立場ならもしかしたら賛同していたかもしれない。そもそも現代日本を生きていたクリアとシェダーの村では常識が違う。事情も詳しく聞いた訳でもないし彼らの選択を悪と判断すること自体間違いかもしれない、でも気に入らない。理性と感情の間で彼女は悩む。


「これから貴方はどうするのですか?」


「……ここにいる。この円から出るなって言われたんだ。魔女さんは平気なの……?」


「円……」


 シェダーと自分の足元をよく見るとぐるりと木の棒で書いたような大きな円が地面にあった。子どものラクガキ同然の歪な円だが魔力を感じる。ただの円が強固な檻となっているのだ。それもタチが悪い事に外部の者が入る事は出来ても魔法の対象者は出る事が出来ない仕組みだ。


 自分や狼が円の中に簡単に侵入出来た事、狼に襲われてなおその円から出なかった事がその証拠だった。確実に逃げ出さないように、生贄とやらに出来るように村人がそのような仕組みをしたのかと思うとクリアは喉に骨が刺さって抜けないような痛ましい不快感を抱く。


「……ではこうしましょう」


 このままだとせっかく救った命が無駄になってしまう。それじゃ意味ないとグリグリとブーツの靴底で地面に描かれていた円を消した。通常であれば解除の呪文も無しにそのような事は出来ないがクリア=オロスウィーニーの理不尽なまでの魔力がそれを可能にする。その事にクリアはまるで気づいていなかったが。


「あっ……円が……!」


「これで円が無くなりましたね。出るなと言われた円が無くなったなら自由に動けるでしょう」


「で、でも帰ってくるなって言われて……」


「……貴方は遠回しに死ねと言われ続けているのですよ。それでいいのですか。生きたくはないのですか」


「……っ……でもぼく……誰にも必要とされてない……役立たずだって……そんなぼくが初めて俺達の役に立てるんだぞって……」


(……っ……あー! 腹立つな! ガキに何いってんだよ!)


 また涙を滲ませるシェダーにクリアは歯ぎしりする。もし平和なところで生きていたのなら大人に保護されのびのびと暮らしていたであろう子どもが、大人達に追い詰められている現状が腹立だしかった。彼女は正義の人という訳ではないが子どもが塞ぎ込んでいるのを見てドライでいられるほど冷めきってもいないのだ。


「…死んだらおしまいです。もしかしたら来世というものがあるかもしれませんが……今の自分ではなくなってしまう。それはとても悲しい事です。生きてさえすれば……きっといつか良いことがある。私はそう信じたい。……いえ、信じています」


「魔女さん……」


「私の親は会いに行けないほど遥か遠くの場所にいるのです。そしてもう二度と……そこには行けない」


「……そうなんだ。魔女さんも親と……ぼくたち似てるのかも」


「そうですね。……シェダー」


「なに?」


「貴方はこの辺りの村に住んでいるのでしょう? 近辺の道は分かりますか?」


「え? うん……この辺りなら詳しい……と思う」


「それはよかった。私はこの土地に詳しくありません。おそらくこのままでは遭難するでしょう。なので……私には貴方が必要です」


「……必要……? ぼくが……?」


「はい。もしよかったら私の傍にいてくれませんか?」


「……そばに……………うん……っ……!」


 シェダーは差し伸べられた手を取り反対側の袖で涙を拭うと明るく笑った。


 クリアからすると道案内プリーズ!な気安いニュアンスで発せられた言葉であった。


 しかし今まで村で否定され続けてきたシェダーにとって自分が必要なのだと告げる言葉や差し伸べられた手は生涯忘れる事のないとても重たい意味を持つものになっていたのだが……クリアはその事に全く気づいていないのであった。

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