第4話 ショタの名は。

 悲鳴のする方に向かうとそこには白く目つきが凶悪な大狼と灰色の髪に赤い瞳を持ち粗末な服を着た十歳ほどの少年がいた。狼から攻撃を受けたのか少年の体から赤い鮮血が流れている。


(ぎゃー! 気軽に命の危機ー!)


 彼(女)はやや拗らせている性格ではあるが感性自体は一応善よりの人間であったため幼い男の子が目の前で狼に襲われグロい死体なる姿を目撃するのは嫌だった。しかしこの世界に来てすぐのクリアにとって目の前のモンスターをどうすればいいのか分からない。


(ど、どうすればいいんだ!? 狼への対処……死んだふり……いやそれ熊に対するやつだし迷信だしむしろ食われるやつ!)


 前世でも狼退治など経験のないクリアはこの状況をどう打破すべきか考える。その間にも狼は少年を襲おうとしている様子で時間がない。


(……そういえば神のやつ言ってたよな。『来世のお前は氷結の魔女クリア=オロスィーニーじゃ! ちゃあんとおぬしの考えた設定に合わせたスペックを搭載しておいたぞい!』って。なら俺がVTuberに必要ない無駄に練った設定が活かせるんじゃ……!)


 氷結の魔女クリア=オロスウィーニー。恋人いない歴=年齢&童貞なだけでなく厨二病を拗らせていた彼が作った設定。それは黒歴史と一言で表すには痛々しい設定のオンパレードだった。


 具体的に言うと……


 無限の魔力!呪文詠唱無しの魔法!見たものを凍りつかせる氷結の魔眼!某夢の国の映画の如くノリノリで創造出来る氷の城!広範囲にブッパ出来る超高火力魔法!その他凄い事沢山!


 そんな加減しろテメー、みたいな設定を盛っていた。自作したゲームのキャラクターであったら他のキャラクターとの兼ね合いで抑えただろうが単独キャラクターだし誰も困らないからいいだろと遠慮なく最強の俺TUEEキャラにしたのである。まあそんなスペック持ち(という設定)でやってる事はただのゲーム実況とカラオケだったが。


(とにかく物は試しだ!もし駄目だったら神のヤローを恨んでやる!)


 もう一度死んだ身だと半ばヤケクソに魔法的なナニカが発動しろと念じながら手を翳す。すると手のひらが白く光ったと思うと狼のモンスターの手足が氷に覆われる。


(……おお……マジで発動した……これが魔法を使う感覚……って感動してる場合じゃねえ! 今のうちに……!)


 人生初の魔法に感動しつつも狼の身動きが取れなくなっているうちに少年を抱きしめ引き離す。そしてすかさず狼を分厚い氷の中に閉じ込めた。


「あ、あの……ありがとうございます。あなたはいったい……」


 狼が氷の中に閉じ込められ動かなくなったのを確認していると腕の中にいる、狼に襲われかけていた少年が礼を言ってきた。突然現れた魔女らしき女に警戒する事なく心からの礼を言う姿にちょっぴり癒やされる。


(名前……もう俺は女で『青山透』じゃねえんだよな……)


「俺…………いえ、私は──クリア。クリア=オロスィーニー。氷結の魔女と言われています」


 どちらの名を名乗るか一瞬悩んだが今の肉体に合わせる事にした。VTuberとしていつものロールプレイのようなものと思えば女性的な話し方をするのは苦ではない。この世界に来て間もないため氷結の魔女なんて言われたことは一切なかったがこういうのはノリが肝心というのがクリアの考えである。


「わあ……魔女さんなんて初めて見た! ぼくはシェダー! 生贄のぼくなんかを助けてくれてありがとう!」


「……はい?」


 シェダーの言葉に混ざる『生贄』という厄ネタ的キーワードにクリアはキャラとしてのポーカーフェイスを貫きつつこれヤバいやつぅ!! と戦慄するのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る