第2話 神の慈悲(マッチポンプ)
『目覚めよ……青山透よ……』
「ん……なんだよ……まだ夜だろ……もうちょっと寝かせろって……」
『いや、そもそも寝とらんぞお前。死んだから』
「………………はっ!?」
うとうとと夢心地であった透は謎の声からの言葉に驚いて起き上がる。すると傍にいたのは頭ツルピカで杖を持ち長い顎髭を伸ばしている以下にも仙人か神様です、といわんばかりのビジュアルの老人だった。周囲は何もない真っ白な空間でここはどこでどういう状況なのかと困惑する。
「し、死んだって……」
『うん』
「は!? 何でだよ!? 俺はただ眠っただけだぞ!?」
『まあ、うん……』
透の問いかけに神(仮)は言葉を濁す。その様子に透は自分の胸に手を当てる。
「……まさか俺、実は病気だったのか……!?」
『いやお主は健康体だった。ただ……』
「……ただ……?」
『お前さんの寝ているところに隕石が落ちてきてな。窓ガラスをブチ抜いて頭と衝突。即死じゃった』
「隕石!? どんな確率だよ!?」
『落雷で死ぬやつもおるからな……確率はゼロではない』
隕石がたまたま家に落下し、そこに自分がいて、頭に命中して即死した。天文学的確率であろう最悪な奇跡を告げられあ然とする事しか出来なかった。
『あ、証拠もあるぞい。ほら』
「ぎゃー! グロいグロいグロい! 見せんな!!」
自分の頭が隕石でR18Gな事になり部屋が鮮血に染まっている画像を見せられ絶叫する。グロ耐性はそこそこにある方だと透は自負していたが流石に自分のグロ画像は受け入れ難いものだった。
「おえぇ…………はぁ……とにかく俺は死んだと……家族は無事なのか……?」
『うん。隕石がガラスとおぬしをピンポイントに撃ち抜いたからの』
「……なら…………よくねえけどよかった」
家族が無事と分かり透は安堵の息を吐く。もっとも自分が運悪く死んでしまったという事実は受け入れられないが両親や兄が死ぬよりかはマシだと。
「……で、誰なんだよあんた」
『わしは神じゃ』
「お、おう……」
見るからにそうだろうなというビジュアルだったため透も納得はするが先程からの気安い態度に神ってもっと厳格なものなんじゃと戸惑う。あと混乱していたとはいえ神様という偉いであろう立場の存在にタメ口をきいていた自身に後悔していた。透は小心者なのである。
「……えっと……神様が俺に何の用なんでしょうか」
『えっ、どうしたんじゃ急にかしこまって。きもーい☆』
(ぶん殴りてぇ!!!!!!!)
と乱暴な気持ちを押し殺し透は唇を噛む。少し強く噛み過ぎたので血の味がした。死んでいるはずなのに。
『まあいいや。とにかくおぬしは死んだので次の人生を歩む事になった』
「……次の人生…………ですか……」
つい先ほどまで高校生活とVTuber生活を交互にこなしていた透にとって急に死んだから切り替えろと言われても無理な話だ。家族との別れもファンとの別れも出来ないままの不義理な状態で悶々とした気持ちから神の説明をぼんやり聞き流す。すると神はとんでもない事を言い出した。
『今回の件はこっちのミスでもあるから優遇しとくぞい。おぬしの望む姿にしておいた』
「……ミス?」
『例の隕石が地球に落ちないようこの神☆スティックで弾く予定だったんじゃが……セイコー○ートの山わさび塩ラーメン食べてたら盛大に噎せてそれどころじゃなかったんじゃ』
「は?」
『あれ美味いんじゃがうっかり啜るとなー。山葵の辛味成分が鼻や喉を刺撃してやべー事になるんじゃ。いやー死ぬかと思ったわい。わし神じゃから死なんけど』
「…………ふ、ふざけんなー! 俺の死因カップ麺かよ!! 返せ!! 俺の人生返せ!! 家族にもファンにも何も返せてねえしまだまだやりたい事沢山あったんだぞ!」
『ほんとすまん。でも死者蘇生は無理なんじゃ。死んだものとして処理したし体も損壊しとるし。わし得意なの転生なのよね。お詫びとして来世は要望通りのスペックにしたから☆』
禿げた爺さんのテヘペロ&ウインクにこれ殴るどころかバックドロップくらい許されるんじゃねえの????と血管ブチギレそうになる透。しかし先程から言っている望む姿だの要望だの身に覚えのないワードに疑問を抱く。
「要望ってなんだよ……です」
『ほら死ぬ前に言ってたじゃろ。「俺自身こんな感じの絶世の美女だったら良かったのになー。鏡見る度幸せだし現実でも貢がせられるのになー」って感じの事を』
「え……いや、確かに言ったけどそれは本気だったわけじゃ……まさか……」
『来世のお前はお前がよく演じていた氷結の魔女クリア=オロスィーニーじゃ! ちゃあんとおぬしの考えた設定に合わせたスペックを搭載しておいたぞい! 転生先も魔女キャラが浮かないファンタジーなとこ選んどいた&現地の言語対応しといから安心して逝ッテネ!!』
「おまっ……ふざけんなクソ神!! くたばれ!! もげろ!!」
神が神☆スティックと呼んでいる杖をクルクルと動かすと謎の光に包まれる。
透はこれから面倒な事が起こると本能で悟りせめてもの抵抗としてストレートな暴言を吐いてから消えたのだった。
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