第91話 色とりどりのドラゴン

 このダンジョンには、プレイヤーごとに初回撃破時にプレゼントが用意されている。それは、〈黒竜〉がいる洞窟のさらに奥を進んだ先の宝箱の中だ。


「私が世界中の景色を見るという野望を叶えるために、絶対必要なものが手に入るんだ。もちろん、みんなにも役立つものだよ。……あ、ケントはいらなくなっちゃうかもだけど」

「なんで俺だけ!?」

「……というか、シャロンの情報源は……いや、今更聞いても仕方がないですかね……」


 ケントがわーわー言っているが、それは宝箱を開けてからのお楽しみだ。リロイは遠い目をしているけれど、詮索されないなら楽で助かる。



 しばらく歩くと、開けた場所に出た。ここが行き止まりだ。広場の中央には台座があり、豪華な宝箱が乗っている。


「「「宝箱!!」」」

「宝箱ですにゃ!」


 宝箱を見た瞬間、全員のテンションが一気に上がる。〈黒竜〉でくたくたになっていた疲れも吹っ飛んだみたいだ。

 わかる、宝箱にはそんな不思議な魔力があるよね。


「わあ、これが宝箱ですか。初めてみました」

「早く開けたいですにゃ」


 ティティアとタルトが興味深そうにして、私を見てくる。早く開けようと催促しているのだろう。


「じゃあ、みんなで開けようか」

「ドキドキしちゃう」

「よっし、俺はここを持つぜ!」

「じゃあ……自分はこの角を」


 ココア、ケント、ブリッツがそわそわしつつも宝箱を開ける配置についた。私たちもそれに続いて全員で宝箱に手を添えて、「せーの」で蓋を持ち上げる。

 すると、まばゆい光が広場に溢れた。


「にゃにゃっ!? すごい光ですにゃ!! 目を開けてられないですにゃ~!」


 タルトがぎゅっと目をつぶって、「もう大丈夫ですにゃ!?」とキョロキョロしている。それに返事をしたのは、リロイだ。


「大丈夫そうですが、これはいったい……。笛のようですが……」


 そう、宝箱の中に入っていたのは人数分の笛だ。

 ドラゴンの骨を削って作られたシンプルなもので、首にかけられるように紐でくくられている。


 私は笛を一つ手に取って、ニッと笑う。


「なんとこれは、ドラゴン召喚アイテムです! その名も〈ドラゴンの笛〉! 笛を吹くとドラゴンがやってきて、背中に乗せて運んでくれるよ」

「「「えっ!?」」」

「にゃっ!?」


 〈ドラゴンの笛〉を手にしたケントは、ふるふる震えた声で「ま、まじか……」と呟く。そして何度も「すげぇ」と言って、目をキラキラさせている。


「これで移動がぐっと楽になるね。きっと空から見る景色は最高なんだろうなぁ~」


 私がうっとり呟くと、全員にそうじゃないだろうという目で見られてしまった。解せぬ。




 とりあえず全員が〈ドラゴンの笛〉をゲットできたので、今度は〈黒竜〉のドロップアイテムの確認だ。


「何かいいアイテムはあるかな?」

「全部拾ったけど、落ちてたのは二つだけだな」

「あ! これいいよ、〈黒竜の息吹〉。ケントが使うのにちょうどいい」

「え、俺!?」


 ドロップアイテムは、一つ目が〈黒竜の息吹〉という大剣。二つ目は、〈黒竜の鱗〉という素材アイテムだ。これはアイテム製作などの材料として使われることが多い。


「〈黒竜の息吹〉は〈竜騎士〉専用の装備なんだよね。だから、同じように剣を使うブリッツやミモザには使いこなすことができないんだよ」

「専用装備……」


 専用という言葉を聞いて、ケントがソワソワし始めた。わかるよ、自分だけの、っていうのはたまらないよね。


「なら、この剣はケントが使うのがいいですにゃ」

「で、でも、これってかなり貴重な剣だろ? 俺――」

「ストップ。そんなことを言っていたら切りがありません。ここは気にせず受け取ってください。逆に、ほかの人が必要なアイテムが出た場合も、そのようにすればいいですから」


 申し訳なさそうにするケントに、リロイが構わないから使うようにと言ってくれる。仲間内なので、異を唱える人はいない。


「……ありがとう。俺、この剣で頑張る――………………ん?」


 ケントが格好良く〈黒竜の息吹〉を手にしてポージング! をしようとしたのだが、剣の重さで腕が持ち上がらなくなっている。どうやら装備制限が〈竜騎士〉なので、〈騎士〉のケントには装備できないみたいだ。


「え、ちょ、どうすればいいんだ!? せっかく俺の剣になったっていうのに……!!」

「……転職するまで、〈簡易倉庫〉にしまっておくしかないね。装備できないだけで、持っていること自体はできるはずだから」

「そんなぁ……」


 あからさまにがっくり肩を落としたケントに、くすりと笑う。


「大丈夫、すぐ転職すればいいだけだからさ。今日で私たちのレベルも九〇台になるし、あと数日もあればすぐだよ」


 私がグッと拳を握って主張すると、ケントは大きくため息を吐く。


「まあ、無茶だ無茶だと思ってはいたものの……やっぱりシャロン、規格外すぎる……」



 ***



 ピイイイィィィと透き通った音色に応えるように、空からドラゴンが舞い降りた。私が手を伸ばすと、朱色のドラゴンが顔をすりつけてくる。

 ……可愛い。


「ほ、ほほ、本当にドラゴンがきた!!」

「すごい……。笛を吹いただけなのに……」


 〈黒竜〉撃破の報酬でもらった〈ドラゴンの笛〉は、最初に使ったとき、ランダムでドラゴンの色が選ばれる。私のところに来たドラゴンは鮮やかな朱色。タルトは黄緑色、リロイとケントが青、ココアが水色で、ブリッツが緑でミモザは黄色。ここら辺はよくある色で、ゲーム時代もよく見かけた。朱色はちょっとレア色で、乗っている人は少なかった。


「わたしも呼びますね」

「ティティア様お一人でドラゴンに乗るなんて……。私のドラゴンに一緒に乗った方が安全では……」

「大丈夫ですよ」


 最後にティティアがドラゴンを呼ぼうとしているのだけれど、リロイが過保護を発動していて苦笑するしかない。


 ティティアがピイイィと笛を吹くと、雲の隙間から一匹のドラゴンが現れた。それを見て、私を始め、全員が目を見開く。


 まるで光り輝くといわんばかりの、美しい白――。


「わあ、わたしのドラゴンは白ですね!」

「素敵な色ですにゃ!」

「さすがです。ティティア様にお似合いのドラゴンですね」

「…………」


 和気あいあいと話すティティアたちに、開いた口が塞がらないとはこのことだろうか。白なんて、今までみたことがない。

 ……白いドラゴンって、本当にいるんだ。

 超レアでティティアの引きがよかったのか、それとも〈教皇〉だから白いドラゴンだったのか。外見はほかのドラゴンと一緒なので、本当に色のみレアなんだろうけど……なんというか、いいものを見たなと思う。


「さてと……街の近くまで飛んで帰ろう!」

「はいですにゃっ!」


 ――私たちは、無事に覚醒職の条件であるレベル100に到達した。

 ということで、やっときました転職タイムです。また各自転職クエストがあるので今すぐというわけにはいかないけれど、催促でクエストを進める所存だ。


 スノウティアに一度戻って、私たちは〈アークビショップ〉に転職するためツィレへやってきた。




***


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こちらもどうぞよろしくお願いします\\\ ٩( 'ω' )و ////

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