第89話 ダンジョン〈ドラゴンの寝床〉

 窓から入る雪に反射する光で、私は目が覚めた。

 …………すっごく寝た気がする。


「ふああぁぁ……。お腹も空いたかも」


 私がベッドから起き上がって部屋を見回すと、ティティアとタルトはまだ寝ていて、ココアとミモザのベッドはもぬけの殻だった。時間はお昼過ぎくらいだろうか。


「私も起きよう。狩の準備もしたいし」


 欠伸を噛み殺しながら起き上がり、身支度を整えた。



 食堂に行くと、ココアとケント、リロイが食事をしていた。


「「おはよう、シャロン!」」

「おはようござます」

「三人とも早い……。おはようございます」


 私も席について、一緒に食事をとる。ブリッツとミモザは騎士との連絡があるからと、出かけているらしい。

 食べながら、次のレベル上げの方法を考える。効率よく経験値を稼いで、ついでにアイテムもゲットしたいところである。ん~、やっぱり固定狩りが一番いいかなぁ。タルトとココアのスキルがあれば、効率もアップするだろうし……。うん、いい感じかもしれない。


「また、よからぬことを企んでいそうな顔ですね?」

「…………えっ、それって私に言ってます!?」


 必死に考えていたのに、リロイからの言葉が酷い!


「褒め言葉ですよ。私は、あなたを信頼しているんですから」

「そう言えば許されると思ってません……?」


 目を閉じた澄ました顔で告げるリロイにため息を吐きつつ、私は「光栄です」と肩をすくめた。



 ***



「おいおいおい、やばいぞここ……人間が足を踏み入れていい場所じゃないぞ……?」


 ケントが足をガクガク震わせながら、周囲を見渡している。その横にはココアやタルトが並び、同じように震えている。ティティアは目を見開いて固まってしまった。ブリッツとミモザは無言だ。

 そんな様子を見て、私はゆるく「大丈夫だよ~!」と笑う。


「私たちの方が強いから、問題ナシ!」


 グッと親指を立てて笑顔を見せてみるが、「いやいやいや」とケントが全力で首を振った。


「あのドラゴンの数を見ろよ!! しかも何種類もいるぞ!! 俺はドラゴンを狩ってレベルアップしようってシャロンが言うから……てっきりワイバーンだと……ばかり……」

「だって、ワイバーンじゃもうおいしくないよ?」


 私がさらっと言うと、ケントは大きくため息をついた。


 今いるのは、〈深き渓谷〉と〈眠りの火山〉に挟まれた――ダンジョン〈ドラゴンの寝床〉だ。

 ここは何種類ものドラゴンが出てくるダンジョンで、経験値はもちろんだけど、ドロップアイテム類もとってもおいしい狩場なのです。ドロップを狙いつつレベル上げもできるという、最&高。

 ダンジョンは、天井の高い洞窟が入口部分になっていて、そこを抜けると渓谷が広がる。断崖絶壁にはドラゴンの巣穴があり、卵や子ドラゴンを見ることもできる。

 赤竜、緑竜、黄竜、水竜のドラゴンと、その上に白竜。そしてダンジョンのボスは黒竜。


「はー……女神フローディア様、どうぞ私たちをお守りください……」

「女神より私の支援を信じてくれれば大丈夫ですよ。〈女神の守護〉!!」


 祈るティティアに一通りの支援をかけて、いざ。戦闘あるのみだ。



「――〈女神の一撃〉」

「〈ポーション投げ〉にゃっ!!」


 私のスキルがかかるのと同時に、タルトの声が響く。そして続くのは、大きな爆発音だ。いつもより、1.5倍くらいよく爆発している。

 というのも、実はタルトが〈製薬〉スキルで作ったポーションによってパワーアップしたのです。併用しているのは〈火属性のポーション〉というもので、これは火系統のスキルなどの効果を+20%アップしてくれるというとんでもポーションだ。

 ……ただ、材料がとっても面倒くさい。


 しかしここまでしても、ドラゴンを一撃で倒すことはできない。ここで生きてくるのが、〈言霊使い〉になったココアの支援スキルだ。


「いくよ! 〈蹂躙の歌〉――からの、〈至福のひと時〉!!」

「――〈女神の一閃〉!!」


 ココアのスキルが決まったところに、ミモザが範囲攻撃を使いドラゴンたちを一層する。〈蹂躙の歌〉は、対象の防御力を下げる。〈至福のひと時〉は、取得経験値がアップするというスキルだ。

 そして〈騎士〉になったケントは一か所にとどまって、ブリッツとミモザが釣ってきたドラゴンたちのヘイトを一身に引き受けて壁役をしてくれている。


「は~~~~、ドラゴンこええぇぇ! でも、俺たちが倒してるんだよな。すげえ、すっげぇ!!」


 最初は怖がって足がガクガクしていたケントだったけれど、今は怖いのと嬉しいのが入り混じっているような不思議な顔をしている。でも新しいダンジョンに来たときのワクワクって、そんな感じだよね! わかる、わかるよ!! にこにこ顔でケントに支援をかけちゃう。


 すると、ブリッツが三匹のドラゴンを引きつれて拠点に戻ってきた。その顔が引きつっているのは、きっと気のせいだろう。それを見たケントが、すかさずスキルを使う。


「〈挑発〉!!」


 スキルが発動するとすぐ、ブリッツの連れていたドラゴンたちがケント目がけて攻撃を始める。そのタイミングを見計らって、リロイが防御支援をかける。私は再びドラゴンを釣りに行くブリッツに支援をかけなおした。



 ――というようなことを繰り返していたら、あっという間に夜がきた。


「はぁ、はぁ、はぁ、は~~~~、言葉にできないほどすごい一日だった……」


 野宿するための洞窟に入ってすぐ、ケントが倒れた。そのまま仰向けになって、「まだ心臓がドキドキしてる……」と胸を押さえている。横では、ココアやタルトが頷いている。楽しかったみたいで何よりだね。


 ここは、元々ドラゴンが巣穴にしていた洞窟だ。今はそのドラゴンが巣立ったのか死んでしまったのか……理由はわからないけれど、空き洞窟になっている。

 プレイヤーからは安全地帯だと重宝されていた場所だ。


 ひとまずみんな新しいダンジョンで疲れていると思うので、比較的元気な私が率先して野営の準備を始める。とはいっても、テントを設置して、簡易テーブルや椅子を〈簡易倉庫〉から出していくだけだけれど。


「今日はめっちゃ頑張ったし、やっぱりお肉かな!?」

「肉!!」


 私ができたて料理を並べていくと、ケントが真っ先に反応した。熱々のステーキに、弾力のある骨付きソーセージ。そこに温野菜が添えられていて、パンにはたっぷりチーズが使われている。

 ……これはよだれが出ちゃうね!


 リロイがお茶を用意して、ティティアの椅子にだけハンカチを敷くなど甲斐甲斐しくお世話をしている。


「「「いただきます!」」」

「いただきますにゃ!」


 もりもり食べた私たちは、その後はあっという間に寝てしまった。今日はレベルがたくさん上がったし、ものすごく有意義な一日だったと思う。



 そして朝日が昇って翌日――。


「絶好のボス日和だね!」


 みんなの顔から表情が消えた。

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