24 まともじゃない選択肢
「それで、何の用事だい? まさか里帰りってわけじゃないだろう」
農夫のオヤジは半分くらい正解を口にする。
「実はガス欠で燃料が欲しい」
「おいおい、ただでさえ配給がないってのに…」
乗ってきたSS-1飛行艇は約五トンのガソリンをぺろりと飲み込んでしまう。トラクターなら軽く50台分の燃料であった。地域一帯の燃料が一発で空になるレベルである。
「金は払うからさ! なっ、頼むよ!」
「まぁ、党ご公認の聖女様からのお願いは断れないな」
金を払うと言ったら急に機嫌がよくなる。農夫のオヤジその辺は昔から変わっていない。
「とりあえず村の政治員様に相談しよう」
ということで、私は村の集会所に向かう。
「キリエとクロル、ちょっとついてこい!」
湖から一つ丘を越えると、すぐにレンガ造りの町が見えてくる。ゼファーリア領の職人が集まる専門の町であった。近隣諸国からわざわざ修行しに来るくらいには有名な場所。ガラス職人だったり、鍛冶職人だったり、ここで作れないものはないとまで言われたくらいだった。
「なんも変わってないな」
昔、私が見た景色が蘇ってくる。鉄をたたく音があちこちで聞こえ、木を削る機械の音も聞こえてくる。てっきり党に摘発されて誰もいないんじゃないかって思っていた。
しかし、作っているのはどうやらライフル銃だった。美しい彫入りのガラスコップを作っていた工場は無くなり、小さな金属部品を同じ寸法ごとに切削加工していた。
「いや、昔がよかった。お前のオヤジが領主だったころはな」
かつて、私がここに遊びに来た時は、出来上がった作品を
「頼むから、党への
今は革命聖女になり切らないといけない。
「ふん、お前さんが一番変わっちまったかもな」
皮肉を言われるともっと悲しくなるからやめてほしい。
「帝国だろうと連邦だろうと
農夫のオヤジは鼻で笑う。聞かなかったけれど、ここで作られた食料は7割ほどをプラウダ連邦が徴収してしまい、ずっと食料不足が続いているらしい。6年前はぽっちゃりビール腹だった農夫のオヤジがずいぶん
「これはこれは、聖女様。」
かつて、この町のことを取り仕切っていた
「ハイオク満タンで頼む。5トン(6000リットル)くらいだな」
「申し訳ありませんがただいま物資が
という男だったが、一緒についてきたキリエとクロルがアタッシュケースの現金を見せる。
「もちろん、タダなんて言いませんよ」
そして、急に機嫌のよくなる男。なるほど、連邦の政治員は腕がドリルみたいにぐるぐる回るらしい。それに、札束でおとなしくなる下っ端は案外長生きするものである。もし、こいつが言うことを聞かなければ銃で
ガソリンスタンドにあった在庫は、全部で3000リットルくらいらしい。
「さすがに全部持っていかれると困りますので、隣町に掛け合います!」
とりあえず、1800リットル入りの小さなタンク車にガソリンが満載したままだったのでそれをそのまま持っていくことになった。正直、これだけでも助かる。思っていたよりすんなりと話が進んでよかった。
「クロル、後は任せて大丈夫か?」
ボケッと突っ立っているクロルが振り向く。
「どっか行くのか?」
「ちょっと、散歩」
「わかった、あとやっとくよ」
私はにぎやかな職人町を後にする。町を出るとすぐに湖のほとりに立つ石の城が見えた。
城はどこか壊れているわけでもなく、綺麗に見える。ここだけ見れば6年前と何も変わっていない。
このまま、エントランスまで忍び込んだら執事のじっちゃんが出迎えてくれそうで、ついでに乳母さんに「どこで遊んでいたの!」って、めっちゃ怒られそうだなとも思った。
でも、門の前に来ると有刺鉄線のバリケードに「立入禁止」の札がかけてあった、ゼファーリアの家紋は壊されて、庭師のおっさんがきれいに磨いていた石の壁にも苔がついていて、何年も手入れされていないのがよく分かった。
(まぁ、ここにいないのはわかってるんだけどね)
戦争に負けるということは、負けたという結果が残るだけではないのだ。
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