このマンションには変な人しかいないかもしれない
なんと…………【本作の書籍化が決定】致しました!
いつも応援して下さっている皆様のお陰です!
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「…………ごめん、ちょっと一回整理させて」
理解を超える出来事の連続に思わず頭を抱える。
頭を下げると目に入る清掃されたフローリングの床が、私の思考をクリアにしていった。
「……………………」
真冬が蒼馬くんの事を好きなのは分かってた。だって隠そうともしてないし。蒼馬くんに接する態度が私に対する時と露骨に違うんだもん。どんな鈍感だって気が付く────蒼馬くんは気付いてるか分からないけど。
とにかくとにかく、真冬は想定内なんだ。私の「倒すリスト」にばっちり書いてある。
問題は────新たな伏兵。ひよりさんだ。
…………ひよりさんは全然そんな素振りなんて無かったはず。
私の知る蒼馬会の雰囲気は、私が騒いで、それを蒼馬くんや真冬がツッコんで、それを眺めてひよりさんが優しく笑う。そういう感じだったはずだ。ひよりさんの事は私達を見守ってくれてるおっとりしたお姉ちゃんのように思っていた。
────でも、実際は蒼馬くんに合鍵を渡してた。
ということはだよ?
「これってさ…………つまり────全員、蒼馬くんの事『好き』ってこと…………?」
私は顔を上げた。
まず真冬の顔が目に入った。真冬は私の言葉に少しも動揺していなかった。氷のようないつもの真顔だ。きっと大学では『氷の女王』みたいなあだ名を付けられてると思う。たまにちょっと怖いし。
そのまま隣に目をやると────ひよりさんはあからさまに動揺していた。顔は真っ赤だし視線はあちこちに泳いでる。決定的な言葉を聞くまでもなく、
「え────…………どうする?」
私の口からまろびでたのは、そんな漠然とした疑問だった。
◆
「とりあえず合鍵はシェアしない?」
「は? どうして」
真冬が持っていた合鍵を守るように胸に引き寄せる。
「だってズルいもん。どうせ無理やり奪ったんでしょそれ」
「想像で話を進めないで。喜んで差し出されたから」
「じゃあ蒼馬くんに確かめてみるけどいい?」
「…………とりあえず話を聞こうかしら」
真冬はそこで初めて眉間にシワを寄せた。
ほら見たことか、やっぱり無理やり奪ったんだ。蒼馬くんは本当は私に渡したかったに違いない。
「…………あ。私が合鍵を貰えなかったのは、手元に無かったから…………? じゃあ、私も合鍵を貸して貰う権利…………多分ある、わよね?」
何かを考え込んでいたひよりさんが手を叩いて声を上げた。嬉しそうに私達を見回している。
「…………そもそも他人の鍵を勝手に貸し借りするのはどうなんですか?」
「そこはさ、蒼馬くんに聞いてみようよ。私達3人でシェアしていいですかーって」
「許可されるとは到底思えないけれど」
「でも、皆で頼み込んだら許してくれたりしないかなあ?」
ひよりさんが手を合わせて、嬉しそうに言う。
さっきまで不安そうに顔を曇らせていたのに、まるで山の天気だ。
「それに、私が協力するメリットがないわ。私は今のままで問題ないもの」
真冬は大事そうに抱えていた合鍵を、ポケットにしまい込んだ。それを見てひよりさんが悲しげに眉を下げた。
へえ。
…………真冬、そういう態度取るんだ。
それなら私にも考えがあるんだから。
────見てなさい。
「真冬お願いっ! このとーり! 私達、同じ人を好きになった仲間じゃない。ほんの少しだけでいいから私にも合鍵貸じでよおォおおおお!!!!」
私は床に手をついて思い切り頭を下げた。
「わっ、私も! お願い真冬ちゃん、私にも少しでいいから貸して欲しいのっ。今度お気に入りのお酒プレゼントするからっ」
ひよりさんが見たことない俊敏な動きでソファから降りると、私の隣で土下座スタイルになった。二人並んで頭を下げる。
「…………私、飲めないんですけど」
その声色がいつもより少し柔らかかった気がして、私は思わず頭を上げた。
視界の端にひよりさんもそうしているのが映った。
「…………とりあえず明日お兄ちゃんに聞いてみるけれど。でも、ダメだと思うわよ」
「真冬っ!」
「真冬ちゃんっ!」
私達は真冬に抱きついた。
これがあれだね、ことわざで言うところの『三人寄れば文殊の知恵』ってやつだね。
◆
「合鍵?」
珍しく朝から3人揃って訪ねてきたと思ったら、真冬ちゃんが変なことを言い出した。
合鍵を…………今なんて言った?
まあ丁度いいや、こっちも真冬ちゃんに言おうと思ってたんだ。
「合鍵さ、やっぱり返して貰ってもいいかな?」
「は?」
「ええっ!?」
「そんな…………」
真冬ちゃんに伝えると、何故か3人ともオーバーリアクションをとった。
というか真冬ちゃんに合鍵渡した事をどうして皆知ってるんだろ。
「ほら、俺配信始めただろ? 万が一配信中に真冬ちゃんが入ってきたらまずいと思ってさ。真冬ちゃんのことはゆっくりと紹介していくつもりだし」
真冬ちゃん、本当に気軽に入ってくるからなあ…………それに、やっぱり合鍵って恋人同士で渡すものだと思うし。
「ダメっ!」
反対の声を挙げたのは、何故か静だった。真冬ちゃんを押しのけてずずいと先頭に出てくる。
「何で静が反対するんだよ」
「蒼馬くんは乙女心を全く分かってないっ!」
「…………乙女心?」
確かに乙女心なんて全く分かっている気はしないが、それが今なんの関係があるんだろうか。
「一度渡した合鍵を返せ、なんてのはね…………別れろって言ってるのと同じなの。蒼馬くん、今とんでもなく酷いこと言ってるの分かってる!?」
「いや…………そもそも付き合ってないんだが…………」
「あ、やっぱり付き合ってないんだ、良かった…………じゃなくて! とにかく真冬から合鍵を回収することは私とひよりさんが許しません!」
「許しません」
静の力強い宣言にひよりんまで続く。一体どういうノリなんだよ。
「そういう事だから。この合鍵は返せない。ごめんねお兄ちゃん」
真冬ちゃんが大事そうに合鍵を手で包む。
「乙女心が分からない蒼馬くんには、罰として私達が抜き打ちで見回りをすることにします! やむなく合鍵を使用させて頂く場合が御座いますが、ご了承下さい」
静がどこかの定型文みたいな口調で訳の分からないことを言い出した。
この話し合い、今のところ訳の分からないことしか言われてない気がするんだが、果たして気のせいか?
「は? 見回り? どういうことだ?」
理解が追いつかず聞き返す俺に対し、3人が口を揃えて言い放つ。
「これからは、皆でこの合鍵を使わせて貰います」
……………………いや、何でだよ!?
というかさ、そういう時だけ息ぴったりなの、なに?
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