第93話 中間テストの結果

 5月下旬


 中間テストも無事に終わり、俺は1人自宅への帰路についていた。

 羽ヶ鷺のテスト結果は中間、期末どちらも上位20位までは廊下に貼り出されることになっている。

 ちなみに俺の順位は5位だった。ある程度手応えはあったので一桁の順位は取れると思っていたが、まあ大体予想通りの結果だ。

 知っている顔だと8位はソフィアさん、3位は神奈さん、そして1位は何とアリアだった。

 話している内容から頭が良いとは思っていたが、まさか転校してきて初めてのテストでトップを取るとは思っていなかったので驚いた。

 そして3年生の1位は安定のコト姉、1年生はユズが3位に入っていた。

 それと点数こそわからないが悟とちひろ、瑠璃はどうにか赤点を回避したようだ。

 瑠璃に関しては勉強を教えた手前、退学にならなくて良かったと心から思う。だがこの間コト姉に説教を食らった後、大人の本を他に隠してないか問い詰められて、泣く泣く残りのコレクション5冊を差し出すことになってしまった。

 しかし幸いなことにPCとタブレットに隠してあるものは死守できたのでよしとしておこう。もしその2つの中身まで削除されたら俺は⋯⋯。考えるのはやめよう。そんな悲しい未来は。


 そして中間テストが終わり次の難関は期末テストと言いたい所だけど、毎年この時期は何かしらのエクセプション試験がある。俺の調べた所だとこの時期のエクセプション試験は3年サイクルで同じ試験が繰り返されているので、何が行われるか既に把握済みだ。


「これからどうするかな」


 今日は中間テストの返却のみで午前授業だったため、俺は時間をもて余している。ちひろはバイトに行ってしまったし


 そして俺は1度自宅に戻ろうかと考え歩いていると。


「お前可愛いじゃねえか」

「公園にいるくらいだから暇なんだろ?」

「俺達がもっと楽しい所に連れて行ってやるよ」


 側にある公園の中から、何やら不穏な言葉が聞こえてくる。

 やれやれ、物騒な話だな。

 俺は公園の中に目を向けると、私服姿の少女が3人の男に囲まれてナンパされているようだった。


「や、やめて下さい。私この後用事があるんです」


 少女はハッキリと男達を拒絶する。

 というか何だあの男達の格好は。長ラン、短ラン、リーゼント、パンチパーマ、アイパーと昔ながらのヤンキーがする見た目をしていた。

 思わず「昭和か!」とツッコミたくなるほどだ。


「へっへっへ。その待ち合わせって友達か?」

「それなら俺達もここで待っててやるよ」

「ひゃっはー! 一緒に遊びにいこうぜ」


 ひゃっはー言ってるし、まるで世紀末に出てくる雑魚キャラだな。


「こ、困ります。だ、誰か助けて下さい」


 少女は助けを呼んでいるが男達が恐ろしいのか大声を出せないでいる。

 周囲に民家があるからある程度叫べば誰か来るような気がするがあの様子だと難しいだろう。


 俺はスマートフォンを取り出して胸ポケットにセットすると少女の元へと駆け寄る。


「アリサ待った?」

「えっ?」


 少女は驚いた顔をしていたが俺は有無を言わさず手を取る。


「それじゃあ行こうか」


 そして少女を連れてこの場から脱出しようとするが、残念ながらヤンキー3人がそれを許してはくれなかった。


「まてこらぁ! どこに行くつもりじゃ」

「きゃあ!」


 短ランのリーゼントが突然殴りかかってきたので、俺は空いた手を使いその拳を受け止める。

 おいおい、いきなり暴力に訴えるなんて気が短いにも程があるだろ。


「こ、こいつ⋯⋯俺の拳を止めやがった」

「ただの優男に見えるがこいつはいったい⋯⋯」

「それなら3人係でやっちまえばいいだろ!」


 どうやら拳を受け止めたことで余計怒りを買ってしまったようだ。

 さすがに3人で一斉にこられたら、俺はともかく少女を守りきる自信はない。

 だがこんな時のために既に策は仕掛けてある。


「俺に構っている時間はあるのか?」

「何を言ってやがる。おめえ1人をやるのに10秒もかからねえよ」

「それこそ何言ってるんだ? 俺はケンカする気はないですよ」

「それはどういうことだ」

「ここに来る前に警察に連絡してありますから。少女に乱暴しようとしている人達がいますって」

「な、なんだと!」

「それとさっきからこのスマートフォンであなた達の蛮行を写していますから」


 困った時は録音、録画。何かあった時の証拠になるし、お嫁さんが義実家で住むことになって姑に嫌がらせをされた時には必須の物だからな。


「や、やべえよ。さすがに警察沙汰になったらあのお方に迷惑をかけちまう」

「ずらかるぞ!」


 そしてヤンキー達はこの場にはもう未練はないようで、さっさとこの場から立ち去っていく。

 どうやらヤンキー達は俺達のことを諦めてくれたようだ。たまに逆上して襲ってくる奴がいるが彼らはそのタイプじゃなくて良かった。


「あ、ありがとうございました」

「いやいや災難だったね。いつもはこの公園にああゆう人達はいないんだけど」

「そうなんですか」

「君は中学生かな? もう大丈夫だと思うけど用がないならここを離れた方がいいよ」


 万が一奴らが戻って来ないとも限らないしね。


「わかりました」

「もし良かったら家まで送ろうか?」

「いえ、家はすぐ近くなので大丈夫です。助けて頂き本当にありがとうございました」


 そして少女は何回も頭を下げてこの場から離れていく。

 この公園も治安が悪くなったな。一応コト姉とユズにも今日のこと伝えておこう。ユズは気をつけるように、コト姉は絡まれた時にやり過ぎないようにと。


「さて、俺も家に帰るか」


 コト姉とユズにメールを送った後、俺は自宅へと足を向けるが、公園の出口には羽ヶ鷺の制服を着たソフィアさんがいた。


「このような場所で何をされているのですか? 幼女の物色ですか?」

「違うわ!」


 まさかとは思うけどソフィアさんも俺が紬ちゃんを狙っていると考えているのか! とんだ濡れ衣だぞ。


「違うのでしたら何を」

「いや、ちょっとね」


 だけどわざわざ少女がヤンキーに絡まれていた所を助けたなんて、自慢みたいなことを言う必要はないので俺は言葉を濁す。


「なるほど、把握しました。時代遅れの男性達に言い寄られている少女を助けたといった所ですか」

「把握するのはやっ!」

「ずっと見ていましたから」

「それならもっと早く助けてくれてもよくね」


 ソフィアさんがいればあのヤンキー達を余裕で蹴散らすことが出来ただろう。もしかしてソフィアさんは俺があのヤンキー達にボコられるのを待っていたのか? アリアに近づく害虫として俺を処分しようとしているからあり得ない話ではない。


「天城様、これから来て頂きたい所がありますのでどうかこちらの車にお乗り下さい」


 そう言うとどこからかロールスロイスが現れる。


「どうぞお乗り下さい。返事ははいでお願いします」


 そしてソフィアさんからノーと言わせない圧力を感じたため、俺はイエスと言葉にすることしか出来なかった。

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