第84話 森の熊さんも良い仕事をする
「別荘の近くに熊!」
紬ちゃんを連れ戻した後、俺達は別荘に戻ってアリアにこの周辺に熊がいたことを伝えた。
「ソフィア!」
「承知しました」
アリアが視線でソフィアさんに命令をしていたのか、ソフィアさんは部屋の入口付近にいるメイドに向かって何か指示を出していた。
「それにしてもみんな無事で良かったわ」
「まあ死にかけたけどね」
俺は熊に引き裂かれたTシャツを指差すとアリアとソフィアさんは冷静に、ちひろは取り乱した様子をみせる。
「だ、大丈夫なのそれ?」
「何とか皮膚は切られずに済んだから大丈夫だ」
「Tシャツが切られたってことは逃げたってこと? 確か熊って凄く足が速かったような⋯⋯」
「追い詰められて逃げることは出来なかったよ」
「それじゃあどうやって生き延びたのよ。まさか死んだ振り?」
「いや、逃げたのは熊だ」
「熊が逃げた? 何か熊が嫌がるものでも持っていたの?」
「コト姉が熊の顔面にワンパンしたら逃げちゃった」
「「「えっ?」」」
さすがにコト姉が熊を撃退した話は信じられなかったのかちひろだけではなく、先程まで冷静だったアリアとソフィアさんも驚きの表情を浮かべる。
「こ、琴音さん⋯⋯鉄の爪でも装備してたの?」
「素手だぞ」
「す、素手ぇぇぇっ!」
まあ神奈さんの時もそうだけど普通は信じられないよな。コト姉のようなどちらかというと華奢な女の子が素手で熊を殴りつけるなんて。
「な、なるほど。偶々熊の目や鼻、眉間などにパンチが当たったのね」
普段冷静沈着なアリアが、俺の話を聞いて驚いているのが何だがおかしかった。それほどアリアに取ってはありえないことなのだろう。
「いや、顔面に拳がめり込み、10メートル程ふき飛ばされていたから、単純にコト姉に恐れをなしたんじゃないかな」
「じゅ、10メートル! わかったわ! リウト達が対峙した熊は
「別に子熊は2匹いたけど襲ってきたのは親熊で、少なくとも身長は2メートル近くあったぞ」
「嘘! そんな巨大な熊を退治するなんて⋯⋯さすが日本の空手ガール。探偵アニメで見たのは本当だったのね」
何だがアリアの中で空手をやっている日本人の女の子は強いと思い込んでいるようだがまあいいか。コト姉が強いのは間違っていないからな。
「やはり以前私が琴音様から感じた気配は間違っていなかった」
そういえばソフィアさんはそんなことを言っていたな。確かコト姉はアフリカで戦ったライオンと同じ気配がするって。
「いえ、同じではないですね。今はティラノサウルスより恐ろしい空気を纏っているように感じます」
「コト姉は地球史上最強の恐竜と同等なの!」
ソフィアさんのあまりにもスケールが大きい話に思わず突っ込みを入れてしまった。
だがソフィアさんの様子を見ると身体をカタカタと震わせていることから冗談で言っているわけではないことがわかる。
俺はどれくらいコト姉が強いかなんてわからないが、強者は強者を知るというやつか。
「ソフィアちゃんひどいよ~。お姉ちゃんは動物に例えるならネコさんとかだよ」
「も、申し訳ありません! どうかお許し下さい!」
ソフィアさんは失言だったと認め、ティラノサウルスの気配を持つコト姉に土下座する勢いで謝罪していた。
「わかってくれればいいよ。リウトちゃんもお姉ちゃんはネコさんに似ていると思ってるよね?」
「も、もちろんだよ。可愛らしいコト姉はネコに似ているよ」
ネコはネコでもネコ科で最強のアムールトラ、ライオン、チーターとかだけどな。少なくとも熊をワンパンする人がスコティッシュフォールドやアメリカンショートヘアなどの可愛いネコの気配に似ているわけがない。
「とにかくまた熊が出てくる可能性があるから今日は外に出るのは止めて、昨日みたいに室内プールで遊びましょ」
「そうだな! 俺はアリアの意見に大賛成だ!」
俺はアリアの英断に対して両手を上げて賛成の意を示す。
これでまたみんなの水着姿が見れるのか。俺はこの時だけは森の熊さんに感謝する。
だがここにいるみんなには俺の邪な気持ちを見透かされてしまったのか、冷たい視線を向けられてしまう。
「そんなに私の水着姿が見たいなら個人的に見せてあげましょうか?」
「天城様、もしそのようなことをされたら⋯⋯わかっていますよね?」
「まさかまた私の胸を! そんなことしたら今度こそプールの底に沈めるからね」
「リウトちゃん、またお姉ちゃんの日焼け止めを塗らせて上げるね」
「兄さん⋯⋯水着を見るために必死になっている姿はドン引きです。最低です。私は兄さんの妹として恥ずかしいです」
何とでも言うがいい。
俺はまたみんなの水着姿が見れるなら多少の恥くらい受け入れてやる。今の俺にはこれからまたハーレム王として皆の水着姿を独り占めすることしか考えていないのだから。
こうして俺達は熊の出現によって、2日目の予定はまた別荘内の室内プールで遊ぶことに決定するのであった。
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