第61話 最強の助っ人それは・・・

「天城家にはもう1人いることを忘れてない?」


 突如調理室のドアが開き、部屋に入ってきたのは天城家の長女であるコト姉だった。


「お姉ちゃん!」

「コト姉」

「学園で困っている人がいたら見過ごせないのが生徒会長だよ。ましてやそれがユズちゃんとリウトちゃんなら尚更だよ」


 ここに来て最強の助っ人が現れた。

 一応コト姉には助けて欲しいとメールを送っていたけど、返信を見る暇がなくて何時来てくれるかわからなかった。コト姉なら絶対にユズのことを助けてくれると思ったが、まさかこのタイミングで来るとは。


「お姉ちゃん、生徒会のお仕事はいいの?」

「大丈夫だよ。午前中に生徒会長としてのお仕事は終わったから」


 悔しいがコト姉はお菓子作りに関しては俺より上だから、これまで以上にケーキ作りの効率がアップするだろう。


「とりあえず瑠璃ちゃんと楓ちゃんは1時間休憩しようか」

「ありがとうございます」

「えっ? 会長、私の名前を御存知なんですね」

「お姉ちゃんの大切な後輩だから当たり前だよ~」


 以前コト姉は羽ヶ鷺の生徒の名前は全員覚えていると言っていたが本当のようだ。俺もタブレットを見ればだいたい名前は浮かんでくるが全員ではない。ほんとコト姉のスペックの高さにはいつも驚かされてばかりだ。


「か、会長~」


 そして楓さんはそんなコト姉を憧れの目で見ている。どうやらまた新たなファンの獲得に成功したようだ。


「それじゃあお姉ちゃんがリウトちゃんとユズちゃんのサポートをするね」

「それで頼む」

「お姉ちゃん本当にありがとう」


 そしてコト姉が加わり、ケーキ作りはさらにスピードが上がっていく。その様子を瑠璃と楓さんは驚愕の声を上げながら見とれていた。


「は、早い! 何ですか琴音先輩のスピードは! 赤い人もビックリの通常の三倍速ですよ」

「声かけもしていませんね。天城先輩と柚葉さんのやりたいことを先に読んでフォローしています」


 瑠璃と楓さんは椅子に座りながら、ケーキ作りに目を奪われている。


「いや~あの3人息ぴったりって感じだね」


 ちひろはオレンジジュースとリンゴジュースのペットボトルを瑠璃と楓さんの前に置く。


「お疲れ様。これ差し入れ~」

「お二人とも動くのも大変だと思いますから、食べたいものがあったら言って下さい。私が買ってきますから」


 そして1年生の様子を見に来た神奈さんが2人に優しく声をかける。


「えっ? そんな⋯⋯先輩に買いに行かせるなんて⋯⋯」

「それじゃあ私は焼きそばと2ーAの中辛カレーをお願いします」


 先輩達に遠慮する楓さんと違って、瑠璃は臆することなく、食べたいものを注文する。


「ちょ、ちょっと瑠璃さ~ん。先輩にお願いするなんて失礼じゃないですか」

「そうだね。カエカエの言いたいこともわかるけど⋯⋯でもユズユズは今疲れているんだ!」

「そんなガン○ムSE○D Destiny風に訳がわからないことを言わないで下さい」

「でもねカエカエ。現実問題で私は疲れて一歩も動けないから、しっかり食事を取って休憩して、早くユズユズ達を助けに行きたいの。私の鑑定で見たところ、リウト先輩はまだ大丈夫だと思うけど、ユズユズはけっこう限界が近いと思うんだよね」


 瑠璃の言葉を聞いて楓はハッとなり、柚葉に目を向ける。

 すると柚葉の表情に余裕はなく、額に多くの汗を浮かべていた。

 本来人見知りである瑠璃は、上級生に食べ物を買いに行かせることなどしない。しかし瑠璃は、今自分がすべきことがわかっているので、敢えて一番効率が良い方法を選んだのである。


「神奈先輩、上野先輩⋯⋯申し訳ありませんが、私も2ーAの甘口カレーが食べたいのでお願いしてもよろしいでしょうか?」

「いいよ」

「すぐに持ってきますから待ってて下さいね」


 ちひろと神奈さんは少しでも2人の⋯⋯そしてケーキを作っている3人の力になれればと動くのであった。


 そして二人が休憩に入って40分程経った後


「完全復活です! ちひろ先輩と結先輩にベ○マの魔法をかけて頂いたので、体力はMAXになりました。後は任せて下さい!」

「中々心強いことを言うな。午前中より注文が多くなっているから期待しているぞ」


 今言ったことは嘘ではなく、本当に午前中より多くの注文が入っているのだ。


「えっ? で、でも⋯⋯元々体力がない私にベ○マをかけてもあまり意味がないと言うか⋯⋯ホ○ミで十分だったという説もあるので、そんなに動くことはできないです」


 瑠璃は午前中より忙しいことを知ると途端にひよってきた。


「それじゃあ次はユズが休憩で。ユズのポジションはコト姉頼む。そして楓さんは俺とシフォンケーキとパンケーキを、瑠璃はコト姉とカップケーキを作ってくれ」

「わかったよ~」

「ひ~ん」

「わ、わかりました」


 こうして瑠璃は泣き言を言いながら、楓さんは顔をひきつらせながらケーキ作りに戻るのであった。


 柚葉side


「ふう⋯⋯」


 私は上野先輩と神奈先輩に用意して頂いたオレンジジュースと甘口のカレーを食べながら、兄さん達の方へと視線を送る。

 慣れた手つきで作業する兄さんとお姉ちゃん、それに必死についていこうとかんばっている瑠璃さんと楓さん。

 兄さんもそうだけど、お姉ちゃんはレシピを一目見ただけで、私より上手にケーキを作る。我が姉ながら天才というのはこういう人のことを言うんだと幼い頃から見せつけられていた。

 私の目標でもあり⋯⋯のライバルでもあるお姉ちゃん。いつか私もお姉ちゃんのようになれるだろうか? なれなくても少しでもお姉ちゃんに近づきたい。だから私は努力する。いつかお姉ちゃんと⋯⋯兄さんに認められる存在になれるように。


「ユズちゃんお疲れ様」

「上野先輩ありがとうございます」


 私は休憩中に、リンゴジュースとカレーを差し入れしてくれた上野先輩にお礼を言う。


「それと申し訳ありません。兄さんをこちらに借りてしまって」

「いいのいいの。それにしてもリウトのシスコンっぷりには本当に参っちゃうね」

「兄さんってそんなにシスコンなんですか?」


 私は少し興味津々に上野先輩の言葉に耳を傾ける。


「とうの本人は気づいていないけどね。リウトはユズちゃんのこととても大事にしているよ。さっきだってユズちゃんが泣いているのを見て、今まで見たことないほど殺気立っていたし」

「そうですか⋯⋯」


 不謹慎だけど兄さんが私のことを思って怒ってくれたなら少し嬉しい。


「それにしてもすごい人気だね」

「そうですね。午後になったらより一層注文が増えて⋯⋯」

「それはたぶん琴音さんの影響だと思う」

「お姉ちゃんの?」


 上野先輩の言葉に思い浮かぶことがあった。


「ケーキを琴音さんが作っていることが、どこからか漏れたみたい。ファンの人達が買っているらしいよ」

「そうですよね。お姉ちゃんは人気者ですから」


 やっぱりすごいなあ⋯⋯お姉ちゃんは。


「何言ってるの? 午前中から忙しかったのはユズちゃんがいたからだよ? 人気者のアイドル2人がケーキを作る⋯⋯売れないわけがないよ」

「そ、そんな⋯⋯私なんて⋯⋯」

「ユズちゃんは少し自己評価が低いのね。リウトも言っていたよ」

「に、兄さんが! あ、いえ、何でもないです」


 私はつい兄さんの話が出て前のめりになってしまい、その様子を見た上野先輩にクスリと笑われてしまった。


「リウトも愛されてるなあ」


 私は上野先輩の言葉に恥ずかしくて、顔が真っ赤になってしまう。


「リウトは毎日お弁当を作ってくれるユズちゃんに感謝しているし、料理を上手くなろうと努力しているユズは凄いやつだって言ってたよ」

「そうですか⋯⋯」


 私は上野先輩に素っ気なく答えましたが、兄さんはちゃんと私のことを見てくれているとわかって、内心はもの凄く嬉しかった。


「ニヤケてて顔と言葉が一致していないよ」

「そ、そんなことありません! ようやく兄さんも私のことがわかってきたと感心しただけです」

「そうかなあ? 私にはリウトに褒められて嬉しくてしょうがないように見えたけど」

「そ、そんなことありませんよ。あっ! 私、そろそろ休憩から戻らなくちゃいけないので失礼しますね」


 兄さんがよく上野先輩にからかわれると言っていたけど、その気持ちがわかった。

 そして私はこれ以上自分の気持ちが丸裸にされないように、逃げるようにこの場を立ち去るのであった。


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