第26話 封鎖サッカー開始
「都筑! あんた何てことしてくれるのよ!」
放課後、ちひろの怒号が教室に響き渡る。
「いや、だってよぉ。あそこまで言われて引くことなんてできねえだろ」
先程のCクラスでの出来事で一部の良識あるクラスメートは頭をかかえていた。
「都筑の行動1つでクラスの皆に迷惑がかかると思わないの?」
何だかちひろの様子がいつもと違う。
普段のちひろだったら都筑がバカなことをやっても笑って許しそうだ。
しかし今回はおそらくだが、神奈さんの家の事情を知ったからだろう。
もし封鎖サッカーでCクラスに負けてしまった場合、60,000スコアマイナスされることになる。現状神奈さんのスコアがいくつあるかわからないが、節約している状況から家計にダメージを与えるのは間違いないだろう。
「まあまあ、ちひろさん。もう済んでしまったことは仕方ありません」
怒り心頭のちひろを神奈さんがなだめるが、ちひろは⋯⋯というか一部のクラスメートはこの結果に納得していないようだ。
人の事を言えたギリではないが、エクセプション試験が始まる前に、チームワークに亀裂が入ってしまっている。
Cクラスに勝てればいいが、負けた時にはクラスの絆が修復不可能な状態になりかねないな。
もしそうなってしまった場合、今後クラスメート単位のエクセプション試験の戦いは厳しいものになるだろう。
「とにかくこうなったら放課後の練習時間を増やして勝つしかねえ」
「そうね。勝つためにがんばりましょう」
都筑と神奈さんの言葉にとりあえずクラスメート達は頷き、クラスが崩壊する事態は回避することができたようだ。
「天城、お前も今日からは練習に参加しろよ」
都筑は目から威圧感を込めて俺に命令してくる。
そうだよな。この流れならそう言ってくるよな。
だが俺は⋯⋯。
「いや、昨日も言ったけど俺はやることがあるから」
「お前空気読めよ! それにお前だってCクラスとスコア戦をすることに賛成しただろうが!」
「それこそあの場の空気を読んで賛成しただけだ。反対した方が良かったか?」
「くっ!」
俺がクラス対抗でスコア戦を決定する時の話をしたら、都筑は悔しそうに顔を歪めた。
あの時は判決を決める16人ギリギリしかいなかった。残りの14人は訳がわからなかったと思うし、俺が反対したらCクラスとスコア戦をすることが出来なかったはずだ。感謝こそされど文句を言われる筋合いはない。
「それじゃあ俺はこれで」
俺はスコア戦の話しで時間を取られたため、急ぎ教室を離れる。
「なんだよあいつ! クラスの輪を乱しやがって!」
その言葉、勝手にC組とスコア戦決めたお前にそっくり返してやりたいぞ。
そして俺は耳障りな都筑の言葉から逃れ、玄関で靴を履き替えようとした時。
「天城くんまって!」
背後から俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
この声は⋯⋯俺は後ろを振り向くとそこには神奈さんが息を切らせてこちらに走ってきた。
「どうしたの? わざわざ追いかけてきて」
「ちょっと話がしたくて」
「いつも俺を避けているのにめずらしいね」
まずい! 都筑のことでイライラしており、思っていることをそのまま口にしてしまった。
「それは⋯⋯天城くんが⋯⋯」
神奈さんは俺が言った言葉が図星だったのか、罰が悪い顔をしている。
「ごめん。今のは冗談だ。それで何?」
「わ、私はエクセプション試験で勝ちたいの。だからAクラスの連携を深めるために天城くんも練習に参加してほしい」
昼休みにちひろとの話を聞いたが、神奈さんに取ってエクセプション試験は死活問題だからな。スコアを貯めて、なるべく母親と紬ちゃんにはお金のことで迷惑をかけたくないのだろう。
「勝ちたいのは俺も同じさ」
「それでしたら一緒に練習しましょう」
「それは無理だ。もっと時間があるならともかく、3日くらい練習した所で勝つ確率は微々たるものしか上がらないと思う。それなら俺はもっと有意義なことに時間を使いたい」
俺の言葉を聞くと神奈さんは大きくため息を吐く。
「そうですか⋯⋯それが天城くんの考えなんですね。お時間を取らせてしまいすみませんでした」
神奈さんは感情を感じさせない声を出す。そして俺が絶対に練習に来ないことを悟り、また教室の方へと戻っていった。
「さらに嫌われちゃったかな」
だけど今はこれでいい。封鎖サッカーでCクラスに勝つためにやらなくてはならないことがあるし、仮にもし神奈さんが俺のやっていることに理解を示してしまったら、都筑と意見がぶつかるのは間違いない。そうなってしまったらそれこそAクラスのチームワークは亀裂が走り、エクセプション試験を戦う所ではないだろう。
「さて行くか」
そして俺はスマートフォンを手に取り、目的地の場所へと向かうのだった。
エクセプション試験当日
午前中の通常授業が終わり、午後はいよいよエクセプション試験である封鎖サッカーが始まる。
クラスの空気は負けたらスコアを失ってしまうという負の感情と、都筑の威圧による恐怖に支配されていた。
これは後でちひろに聞いた話だが、Cクラスとのスコア戦が決まってからの放課後の練習では、都筑の叱咤が飛び、運動が苦手な何人かは理由をつけて休んでいると言っていた。
ボロボロだな。
都筑は良かれと思って発破をかけているのかもしれないが、その気持ちはクラスメート達には全く届いていない。そしてその様子を見て、まとめ役として頑張っている神奈さんの表情も暗い。
残念だがこのまま試合をすれば負けるのは当然の結果だろう。
そして俺達は更衣室で体育着に着替えて校庭へと向かう。するとAクラスの様子を見て、こそこそと何かを話しているCクラスで野球部のエースの沢尻とキャッチャーの月野谷の姿を見かけた。
「一八見たか?」
「ああ。試合前なのに士気が全然上がってねえな。まるで死んだ魚の目だぜ」
「一八からAクラスにスコア戦を仕掛けるって言われた時は焦ったけど、これは俺達の勝利で決まったな」
「単純な都筑を挑発すれば簡単に乗ってくると思ったぜ」
二人の声は俺達の所まで聞こえている。
おそらくこちらを動揺させるために、わざと聞かせているのだろう。幸いと言っていいのかわからないが、頭に血が昇りやすい都筑や悟達はすで校庭へと向かっていたのでこの場にはいない。
「バカな奴等だぜ、あんな男をリーダーにするなんて」
「せいぜい自分達の無能さを呪うんだな」
そう言って二人は高笑いしてこの場を去る。
今の話を聞いて闘志が燃え上がればいいが、ここにいるクラスメート達はただ悔しそうな顔をするだけだった。
そして先に校庭へ向かっていたクラスメート達と合流すると、都筑が皆の前に出て口を開く。
「この封鎖サッカーの
都筑の激にクラスメート達から声は上がるが、やはり覇気がない。
さすがの都筑もこの状況はまずいと感じ取っているのか、何とか先取点を取ってチームを鼓舞したいといった所だな。都筑の言葉通り、先取点を取れば相手のエースを封じ込めてその後の試合を有利にすることが出来るため、両チームに取ってどうしても欲しいものだ。
「これから試合を始めるのでセンターサークルまで集まって下さい」
そして三年の教師から声がかかり、前半に出場する選手達がセンターサークルに向かい整列する。
「では、これより2年Aクラス対2年Cクラスのエクセプション試験である封鎖サッカーを初める」
選手達は教師の言葉で互いに礼をしフィールドに散る。そして審判の笛が鳴り、封鎖サッカーの試合が始まるのであった。
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