第16話 モモのスキル


 新しい宿の2人部屋は、四畳半ほどの広さだ。入り口から見て、正面に小窓が一つと左右の壁にベッドが一つずつ。その程度だが、それでもモモは喜びながら部屋を物色してくれている。


「モモ」


「ん?」


「今から、ギルドに行くぞ」


「え? 何々? ギルドって?」


 微笑ましく見ていた俺が声を掛けるとモモは振り向いて返事を戻し、続けた話ですぐさま興味津々な様子でこちらに迫り寄り俺を見上げた。


(うん、可愛い! じゃなかった…。俺もまだこの世界のことを知らないが、モモには色々と教えていかないとな)


 思わずモモの頭を撫でそうになった手を下げながら、俺は元猫のモモよりはこの世界で上手く立ち回れると思い決意した。


「冒険者登録をする場所だよ。それをやると、このカードが貰えるんだ」


【ストレージ】


 俺は話のあとに魔法を使用した。すると、突如空中に現れた穴を見たモモは、驚き後方にぴょんと飛び退いた。俺はそのまま付き指をしないようにそっと指先を入れて、冒険者カードを取り出す。


「このカードがあると、これができるようになるんだ」


【ステータス】


 俺は手にしたカードをモモに見せながら、そう唱えた。しかし、再び空中に突如ステータス画面が現れたのだが今度のモモは飛び退かず、


「うわ~、凄ーい! こんなことができるんだ!」


 目を丸くして声を上げながらこれに近寄った。そして、これの表と裏を交互に見比べながら、楽しそうに指でつんつんし始める。


「細かい事はあとで教えるから、とりあえず、これを作りに行くぞ」


「わかった! でも、なんで数字が30ばかりなの?」


 得意気に話をした俺は、モモの首を傾げた問いに固まった。しかし、モモはそれよりも数値が気になるようで、再び興味津々な様子でこちらに迫り寄り俺を見上げた。


「それは………、分からん」


 俺は教えると決意しながらも、いきなり答えることができずに言葉を詰まらせた。実に、世の中には分からない事柄が沢山あるものだ。そして、それを悟られる前にすぐさま話題を変える。


「それと仕事…、じゃなくて、クエストを受ける場所だから、その位置もしっかりと覚えておいてくれな」


「わかった!」


 こうして俺達は再びギルドに向かい、モモの冒険者カードを作製することになった。



 ◇



「あら? 早かったわね。お帰りなさい」


「た、ただいま…」


 ギルドのカウンターに訪れると、その上を拭き掃除しているマリーがこちらを見ながら母親のような口ぶりを見せた。俺もこんなにも早くに戻る予定はなかったため、気恥ずかしく返事を戻した。しかし、


「隣の女の子は、どうしたの? もしかして~、もうナンパしちゃった?」


 そんな気持ちなどはお構いなしに話題は直ちに変わり、俺の腕に抱き付くモモを見たマリーがいやらしい顔付きで俺にすり寄りながら尋ねた。そして、


(ナンパか~。そう言えば、昔は一時間だけの狩りパーティとか言って、よくナンパしてたな。あの頃が懐かしい~)


 そんな尊き日々を俺が遠目で思い出していると、


「ねえねえ、お兄ちゃん。この人は?」


 モモが服を引っ張りながら不審に尋ねてきた。


「ん? あ、ああ。マリーだ。ギルドの事を、色々教えてくれる人だよ」


「あらあら、妹さん? 初めまして。私は、ここで受付をやってるマリーよ。わからないことがあったら、何でも聞いてね」


「ふ~ん」


 俺がそう伝えるとマリーが前屈みでモモと視線を合わせて優しく話をしたが、モモは返事を戻しながら腕に抱き付く力を強めた。モモは俺に出逢うまでが寂しかったのか、宿からずっとこの調子だ。


「妹じゃないよ。それよりも、冒険者登録をしてくれないか?」


「ええっ! 妹じゃない子に、お兄ちゃんなんて呼ばせてるの!?」


「幼馴染だよ! それに、ギルドは冒険者の詮索を、しないんじゃなかったのか!?」


 その話題はさらりと流す予定でいた俺は軽く否定して話を続けたが、マリーがオーバーリアクションを取りながら大声を上げたためにすかさず話が違うぞと、声を張り上げ態度をむっとさせたのだが、


「怒らないで。冗談よ、冗談」


 マリーは腹を抱えて笑いを堪えながら返事を戻した。どうやら先程の行為は、こちらをからかうためだったようだ。


(今に見てろよ…)


 俺は薄々はそれに気付いていたが、この世界に訪れたばかりでどう仕返しをして良いものかが分からずになんとも歯痒く思った。


 ギルドでの冒険者の詮索は、有事の際のみ行う。理由は、全ての冒険者達が望んでそうなっているわけではないからだ。


 やはり、冒険者の中には望まずにそうなっている人達も居るそうで、中には奴隷という話もあり、この辺りの事情はかなりデリケートなものになるそうだ。そして、そんな冒険者達でも、ギルドとしては無限のように湧くモンスター達を退治してくれる人手が欲しいのみなため、そのまま受け入れているとのことだ。


「それじゃあ登録するから、モモちゃんはこっちに来てもらってもいいかな?」


 モモに視線を下ろすと今のやり取りが面白かったのか、こちらも腹を抱えて笑いを堪えていた。


(モモにも、あとで何か用意をしておかないとな…)


 俺は2人に復讐を誓い、激しく闘志を燃やした。そして、


「行ってくるね」


「ああ。ここで待ってるよ」


 モモの話に返事を戻すと、2人はカウンターで楽しそうに手続きを開始した。





 距離を置き見守っていた俺の下に、モモは数分で戻ってきた。前回もそうだが、冒険者登録は非常に簡単だ。


「どうだった?」


「う~んとね」


【ステータス】


 俺が尋ねると、モモはぎこちない動きを見せながらステータス画面を開いた。俺はそれを覗き込む。


ーーーーーーー


名前:モモ  

LV:1

ギルドランク:F


HP:30

SP:30

MP:30

力  (STR):30

攻撃力(ATK):30

生命力(VIT):30

防御力(DEF):30

知力 (INT):30

抵抗力(RES):30

器用さ(DEX):30

素早さ(AGI):30

運  (LUK):30


スキル:ニュータイプ


ーーーーーーー



「にゅうっ!?」


 俺の口が、思わずタコになった。そして目も丸くしたが、これ以上言葉が漏れないように慌てて口元を押える。


(ニュ…、ニュータイプだと!?)


 俺の心は激しく動揺した。そして、


(こんなことが、あっていいのか!? 猫と人間が、一つになったからのか!? それに! なんて羨ましいんだ!!!)


 俺は思わず目を見開き、モモを見つめていた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る