第2話

その翌日、件の人と対面する事になった。

「ねえ、本当に大丈夫なの? ちょっと怖くなってきたんだけど」

「大丈夫大丈夫!あいつちょーっと人見知りだけど、根はいい奴だからさ!」

「そーなんだ。えー、でも上手く話せるかなぁ」

「ま、あーしもいるし大丈夫っしょ!ノープロノープロ!」

ノープロブレムをノープロと略すのは、私の知る限りだと山田しかいない。なんでもかんでも略してしまうのは、女子高生の良い所であり悪い所でもある。

「お、来たきた!おーい、笹原〜!」

笹原......? なんか聞いた事ある名前だ。

「こんにちは。あの、藤崎さん。僕のこと覚えてるかな......? 小学校の時一緒だった笹原です」

「あー!やっぱり!珍しい苗字だからまさかとは思ったけど、本当に笹原君だったんだ!久しぶりだねぇ!」

久しぶりの再開にテンションが上がってしまった。中々聞かない苗字だったから忘れるはずがない。

「えっと、実は今隣のクラスなんだけど気づいてるかな」

「え?そうなの? てか、そもそも同じ高校だったの!?」

「そこからかぁ......」

明らかに残念そうな顔をしているので、少しだけ申し訳なくなる。

目の前にいる笹原は、眼鏡をかけた長身で、少しひょろっとしている。何しろ、会うのは小学生ぶりだったから、見た目も声も変わっていて、気づけないのも当然と言えば当然だった。

「あの、でも僕嬉しいよ。藤崎さんが僕の事覚えててくれて」

私がバツの悪そうな顔をしていると、笹原が続けてこう言った。意外とグイグイ来るので、ちょっとだけ尻込みする。

「ところで藤崎さん。僕達、かなり久々に会ったでしょ? いっぱい話したい事があるんだ。これからご飯でも食べに行かない?」

「いいじゃんいいじゃん。行ってきなよ藤崎!」

「まあ、そうだね。久々だしね〜。よし!じゃあファミレス行こ、ファミレス!」

「そいじゃ、後はおふたりさんに託して、あーしはこの辺でお暇するぜー。ばいびー!」

そう言って、山田はこの場から立ち去ってしまった。

「じゃあ行こうか藤崎さん」






学校から一番近くにある、ウチの生徒御用達のファミレスで食事をする事になった。

2人です、言うと、当然だけど2人席に案内されて、私達は向かい合って座る事になった。デートまがいのことをしている気がして、小っ恥ずかしくなる。いや、デートなのかな。恋愛経験が希薄の私には分からない。

「そういえば笹原さ、なんで中学は一緒じゃなかったんだっけ。地元で進学してれば、中学校も一緒だったはずよね? 」

「えーっと。父さんの仕事の関係で、中学の間だけちょっと遠い所に行ってたんだ」

笹原が少し言い淀む。言い難いこと聞いちゃったかな。

「そっかぁ、転勤族ってやつ? 大変だって聞くよね」

「うん、そうなんだ。新しい環境は分からない事だらけでさ。でも、こうやって戻ってこれて、藤崎さんにまた会えたし。なんだかんだ良かったって思うよ」

「そうだね、私も会えて嬉しいよ」

笹原の積極的な姿勢に、私またしても尻込み。

私もこれだけ積極的だったらな。

「でも、まさかこうやって2人でご飯食べに行けるなんて思ってなかったよ。僕はてっきり、藤崎さんは駿くんと付き合ってるものだとばかり」

「......ううん。駿はただの幼馴染だよ。全然そんな関係じゃない」

幼馴染。この言葉を口にする度に、胸がキュッと絞まる。

「そっかぁ、じゃあまだ僕にもチャンスがあるんだね」

そうだった。私、新しい恋探しに来たんだよね。もう過ぎた事だし、気持ち切り替えなきゃ。

「じゃあ俺、オムライスにしようかな」

「ん、じゃあ私もオムライスにする!」

近くでそんな会話が聞こえる。聞き覚えのある声。駿の声だ。もう1人は、梨花ちゃんだろうか。

こんな偶然、たまったもんじゃない。

てか、男の子と2人でご飯食べに来てるの見られたらどうしよう......。

───見られたらなんだって言うんだろうか。

何を今更、と自分に言い聞かせる。

「笹原は何にするの?」

「そうだなぁ。じゃあ、パスタにしようかな」

「お、いいね。じゃあ私もそれにしよ」

2人で仲良く同じ物を頼む。カップルっぽくていいじゃない。

「藤崎さんもパスタ好きなの?」

「あー、うん。好きだよ、食べやすいよね」

「そっかあ、僕もパスタ好きなんだ。一緒だね~」

嬉しそうに微笑む笹原を見て、少し安堵する。そう、こういうのだよねカップルって。

私だって女の子だし、ずっと憧れてた。

笹原と思い切って付き合ってしまえば、駿のことは忘れて吹っ切れるだろうか。

「ね、笹原。すっごい急なんだけど、言ってもいい?」

笹原はキョトンとした顔をしながらも、おもむろにこくんと頷く。

「私達、付き合わない?」

言っちゃった。

「へぇっ?」

笹原は、ドリンクバーで入れてきたお茶を吹き出すのを耐えるも、盛大にむせていた。

「もう一回言った方がいい? 付き合お?」

「いや、あのそうじゃなくて。えっ?」

顔を真っ赤にして戸惑っていて少し可愛い。

「だって、あまりにも急すぎるよ。本当にどうして?」

「どうしても何も、どうせ笹原もそのつもりでしょ? 善は急げだよ」

「......。本当に急でびっくりしたけど、嬉しいよ。えっと、じゃあよろしくお願いします? でいいのかな」

笹原は照れたようにはにかむ。耳まで真っ赤だ。

「うん。よろしくね、笹原」

実際、急な思いつきではあったけど、笹原は良い奴だし、私の事、好き、みたいだし。良かったよね。

私の、初めての彼氏、恋人だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幼馴染に彼女が出来ていた話 @sinju071327

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る