第4章〜白草四葉センセイの超恋愛工学Lesson1〜②

「あっ! あの店の……竜司は、ここのフィナンシェが大好物なんだよ! さすが、白草さん! 竜司の好みのツボを押さえてるね」


 高級ブランドとして、日本全国の百貨店に出店している洋菓子店のロゴに気付いた壮馬の言葉を耳にした四葉が、とりわけ嬉しそうに、


「うん! 昨日、スマホで調べたら、本店がこの近くにあるってわかったから……開店時間に合わせて来ることにしたの」


と答える。

 彼女の言葉には、想定外の時間帯に、自称『とびっきりのカワイイ女の子』の来訪を受けた竜司が応じる。


「オレ好みの手土産もいただいたことだし、朝から熱心に動いてくれることは、アドバイスをもらう身としては、非常にありがたいが……逐一、ミンスタに活動予告をアップする必要はないんじゃないか?」


「あ、ボクも投稿を見せてもらったよ! 『壮馬より熱心にSNSに取り組んでる』って竜司は感心してたもんね」


 壮馬が苦笑しつつ、婉曲的な表現を使った壮馬に対し、同世代には珍しくソーシャルメディア全般に関心の薄い竜司は、


「オブラートに包まなくてイイぞ!? 『壮馬以上にSNS中毒の人間にリアルで遭遇するとは!?』って返信したんだ」


と、キッパリと言い切った。

 同級生男子の無遠慮な発言に、予想通り気分を害したのか、ソーシャルメディアのカリスマは反論する。


「ちょっと!! わたしが、ミンスタを更新するのは、白草四葉が発信する《カワイイ》を求めるフォロワーさんのため! だから、これは、中毒じゃなくて義務なの!!」


憤慨したように語る四葉に、竜司はため息をつきながら、


「白草がミンスタでフォロワーの期待に応えようとすることまで止めようとは思わんが……頼むから、近くに居る人間までプライベートがさらされているってことだけは頭に入れておいてくれ。」


と、懇願し、シャツの胸ポケットからスマホを取り出して、十五分ほど前に更新されたミンスタグラムのclover_fieldのアカウントを表示する。


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clover_field 竜馬ちゃんねるの編集スタジオにお邪魔する前にお土産を購入!

紙袋の中身は、みんなも知ってる、あのお店の世界一売れているフィナンシェです。

ホーネッツ1号さん&2号さんが、甘いモノ好きだったらイイな(ハート)


#新企画近日発表

#打ち合わせの手土産購入

#ア◯リ・シャルパンティエ

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 投稿された文章には、完璧な角度から自撮りされた白草四葉本人と、洋菓子店のロゴがバッチリと印象付けられる構図の画像が添えられている。

 自宅からの移動中に更新されたであろうミンスタの投稿を確認し、「あ〜」と声を発した壮馬の苦笑の度合いは、一層、濃くなる。


「スゴいね……白草さんとコラボするだけで、ボクたち《竜馬ちゃんねる》のカラーが、一気にパステル調のピンク色に染まって行く感じだ……こういうの古いネットスラングで、なんて言うんだっけ? 文字通り『スイーツ(笑)』?」


「昔のネット用語のことは知らんが、自分たちの身近な人間が、白草のミンスタをフォローしていないことを祈るばかりだ……特に、母親に知られた日には……」


 竜司の一言に、壮馬はまたも、「あ〜」と、微苦笑をたたえた表情で声を漏らす。二人の会話に気になるトコロがあったのか、四葉は、硬い表情でたずねた。


「なに? 黒田クンのお母さんに、わたしの投稿が知られるとマズいことでもあるの?」


 彼女の発した問いに、竜司は、そうなった時のことを考えたくもない、というようなウンザリした口調で、


「大いにあるね! 白草が、オレたちと一緒に活動してるコトを知ったら、あの母親のことだ……。『ちょっと竜司!いつの間に、と知り合いになったの?私にも早く紹介しなさい!!』って言い出すに決まってるんだ……親に交友関係のコトについて、口出しされることほどウザい出来事はないだろう?」


と、自身の母親の口調を真似て、自らの見解を披露した。彼の発した言葉に、四葉はピクリと反応する。


「いま、アナタのお母さんなら、ナニを云うって言ったの?」


「ハァ?ウチの母親なら、『知り合ったコを早く紹介しなさい』と言うって……」


「そ・の・ま・え!!」


「『いつの間に、女の子と知り合ったの?』」


「それじゃ、ネガティブな逆の意味になるでしょ!?大事な形容詞が抜けてるよね?」


 昨日と同じような暗黒微笑をたたえて、白草四葉は黒田竜司を問い詰める。


「『?私にも早く紹介しなさい!!』」


「へぇ〜、『』ねぇ〜。黒田クンのお母さんは、わたしのコトをそんな風に見てくれるんだ?そ・れ・と・も……そこは、黒田クン自身の評価なのかな〜?」


 詰問口調から一転、ニマニマと笑みを浮かべながら、四葉は竜司を追い詰めにかかった。

 苦々しい面構えで言葉に詰まる男子の顔つきの変化を覗き込むのが楽しいのか、白草四葉は嬉々とした表情で自身が『非モテ男子』と断じた彼を見つめている。

 一方、壮馬は、自分そっちのけでジャレ合う二人の様子にあきれながら、


(あ〜あ……やっぱり、竜司と白草さんじゃ、最初から勝負にならないよね〜)


(でも、白草さんも、『カワイイ』なんて、毎日一◯◯万人のフォロワーからコメントされてるだろうに、なんで、そんなにこだわるんだろう?)


などと、物思いに耽っていた。

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