第3章〜123分間の奇跡〜⑦
その後、編集ルームの隣りにある竜司の部屋の電子レンジで温められたアップルパイと冷凍庫に保管されていたアイスクリームの夢のコラボレーションを堪能した三人は、企画の成功を誓いあい、話しを終えた白草四葉は、新居が決まるまで、しばらく居候しているという伯父夫婦の家に帰って行った。
駅まで見送りをする竜司と壮馬に、帰り際の彼女は、
「ところで、二人の明日の予定は?」
と、新学期最初の週末の予定をたずねてきた。
「ボクも、竜司も明日は特に予定はないけど……どうして?」
壮馬が聞き返すと、四葉は、「良かった!」と、表情を崩し、こんな提案をする。
「明日は、今回の企画の作戦会議をしない? 黒田クンが、具体的にどんなアプローチをするのか、彼女との仲を近づけるためにナニが必要か、最後にどんなふうに想いを告げるか、を相談したいと思うんだけど……」
すると、即座に竜司が反応した。
「そう言うことなら、明日もまた、ウチに来るか? 白草が良ければ、今度はオレがランチをご馳走するぞ?」
「えっ!? いいの?」
たずね返す四葉に、今度は壮馬が応じる。
「こう見えて竜司の料理の腕は、なかなかのモノなんだよ」
笑顔で親友の調理のスキルを素直に褒め称えると、「あっ、そうだったね……」と、小声でつぶいやいたあと、
「じゃあ、明日は黒田クンの手料理を楽しみにしてる! お礼に、シッカリとアドバイスをさせてもらうから!」
そう言って、顔をほころばせ、「じゃ、また明日ね!」と、二人に言い残し、改札へと消えて行った。
新学期早々の来客の見送りを終えた壮馬が、「さて……」と、接続詞を口にしたあと、かたわらの相棒にたずねる。
「白草さんとの初回の打ち合わせはどうだった?」
「どうもこうも、オレは圧倒されっぱなしだったな……オマエの方は、どうなんだ?」
「彼女の企画力には、脱帽したよ。さすがは、一◯◯万人のフォロワーを持つだけはある……恋愛全般に関する考察力に関しても、ボクたちじゃ異論を挟む余地がないよね」
そこまで言って苦笑した壮馬は、「ただ……」と付け加える。
「ボクたちのレベルで何か意見を言えるようなコトではないけどさ……個人的な実感を述べさせてもらえば、女子って、恋愛方面では基本的に男子に対して、上から目線だよね?」
そう感想を口にした親友に、竜司も微苦笑を浮かべてうなずく。
「それな!! まぁ、今回のことに関して、オレがナニかを意見できる立場では無いが……壮馬が言ってた『恋愛工学』? とやらが、女子受けしないわりに、オトコに支持された理由は、その辺りに要因があるのかもな」
友人が述べた一言に、壮馬は目を細めながら同意し、
「竜司って、普段はニブいのに、こういう直感だけは鋭いよね」
と、所感を述べる。
「さっきも言ったけど、オマエはいつも、一言余計なんだよ」
竜司は親友から下された評価を受け止めつつ、彼の頭部に向かって軽く手刀を振るう素振りを行った。
そんな友人のツッコミを受け流しつつ、壮馬は新たな疑問を口にする。
「そう言えば、確認したいことが、もう一つあったんだ! 竜司、白草さんにツカサさんのアップルパイの話しをした?」
「ウチの母親の……? いや、今日は、そんな話しをした覚えはないが……」
「そっか……竜司に、ベーカリー・ショップのアップルパイを準備してもらってる間、白草さんに、竜司のお母さんがアップルパイを良く作ってくれるって、話しをさせてもらったんだけど……白草さん、何故か、そのことを知ってるような口ぶりだったんだよね……いまさっきの会話で話題に出た竜司が料理をするってことを話した時も……まぁ、これは、《トゥイッター》のボクらのアカウントで、料理画像をアップしてるから、熱心なフォロワーのヒトなら知ってるかもだけど……」
慎重に考察するような語り口で話す壮馬に対し、竜司は
「オマエの気のせいじゃね〜の?」
と、軽くあしらうような口調で応じた。
一方の壮馬も、違和感を覚えた自身の直感を補強するような材料がなかったことに加え、紅野アザミ・天竹葵の二名から相談を受けた内容を思い出したため、それ以上、友人に質問を重ねるようなことはせず、しばらく、白草四葉の出方をうかがうことに決めた。
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