第6話 奏多と光
だが、わたしの思惑とは裏腹に奏多はちょくちょく庭に現れた。しかも、インターフォンも押さずに直接庭に入って来る。
「もうっ、勝手に入らないでって言ったでしょ」
「いやあ、最初にこっちから来たし、つい」
「ついじゃない! どうせ面倒臭いだけでしょ」
「やだなあ、そんなことないって。それよりほら、お供え物買ってきたぞ」
「うっ、それはどうも」
最初に一人で来た時に手ぶらだったので、お供え物くらい持ってきたらと言ったら、本当になにかしら持ってくるようになった。
ああ言えばもう来ないと思ったのに。
しかも、そのチョイスが光の好みにぴったりで、どれも凄く美味しそうに食べるのだ。(もちろんわたしも食べたが確かに美味しかった)
「今日もあのチビはいないのか」
「いつもいるわけじゃないって言ったでしょ」
まあ、奏多が敷地に入るとすぐに姿を消すから、もう会うことはないだろうけど。
奏多は、光に言った言葉を後悔していた。
「ちゃんと謝りたくて……肌が真っ白だし、髪も目の色も変わってたからつい、あ、こういう言い方しちゃ駄目だよな」
「まあ、確かに外国人って言われたのは嫌だったみたいだけど」
「そうだよなあ。あいつ、病気なんだろ? 俺、知らなかったからさ」
「え?」
「気になって調べてみたら、先天的にメラニンが欠乏する遺伝子疾患だって……違うのか?」
「違うと思うけど……」
「そっか。悪かったな、変なこと言って。これ、あいつが来たら食わせてやって。じゃあな」
あの外見は神様だからだと思ってたけど、違うのかな。
外国人かと言われたとき光の表情は歪んだ。きっと前にも言われたことがあって、とても嫌な思いをしたんだろう。
わたしは光のことを何も知らない。どうして子供の姿なのか、いつからこの家の神様になったのか。
選ばれた人が家を継がないと、どんな恐ろしいことが起きるのか……。
「みいちゃん、怒ってる? ここ、しわしわになってる」
光が現れて、わたしの眉間のしわを指で伸ばそうとする。
「大丈夫、怒ってないよ。ちょっと考えごとしてただけ」
「ふうん」
さっきの会話が聞こえていたはずだけど、光は何も言わない。
だったらわたしも何も言わないでいよう。この子が傷つくようなことは何一つしたくない。
◇
お花をあげてから二週間後、恵子さんが訪ねてきた。
「美里さんに頂いたお花、まだ綺麗に咲いてるのよ。ずいぶん長持ちするから驚いたわ」
「そういえば、うちの花瓶の花もまだ綺麗です」
水を変えるくらいしかしてないのに。
「でね、知り合いのレストランのオーナーにその話をしたら、ここのお花を買いたいんですって。どうかしら?」
「たくさんあるので買っていただけるなら嬉しいですけど……」
「じゃあ、今度ここに連れてきていい? 好きな花を自分で選んでもらった方がいいと思うの」
「そうですね。配達とか出来ないし、花の値段とかもわからないから」
「そうよね。それでわたし、こういうの作ってみたの」
恵子さんは様々な花の一輪当たりの価格表を作ってくれた。
「わあ、ありがとうございます」
「毎日変わるみたいだから大体の目安にして。長持ちするんだから、もっと高くてもいいと思うけど」
「いえ。元手がかかってないので、これで十分です」
「美里さんがいいならそれでいいけど……とにかく損がないようにしてね」
まさか庭の花が売り物になるとは。
「光、聞いてた? お花買いたいんだって。売ってもいい?」
優しい風が頬をくすぐる。
――全部みいちゃんのだって言ったでしょ? 好きにしていいよ。
どこからか光の声が聞こえた。
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