第36話 メイクorノロケ
「そ、それで……二人を雇ったってどういうことなの?」
感動の再会が一段落してから、涙で真っ赤な顔を隠しながらルナは遥にそう聞いた。
先ほどは驚きが大きくて聞きそびれたことなのでそう聞くと遥は至って普通に答えた。
「言葉通りだよ。二人を新しく買った別荘で雇うことにしたんだ」
「別荘?」
「うん。俺とルナに子供ができたら流石にあの家だと不便なこともあるし……だから将来的に必要だと思ったから用意したんだ」
「そ、そうなんだ……」
ナチュラルに子供という単語が出てきたので照れてしまうルナ。
そんなルナを愛しそうに見つめているとマリアはこほんと咳払いをして言った。
「遥様。そろそろ準備に入りますので、お嬢様をお借りしてもよろしいでしょうか?」
「そうだね。名残惜しいけど後で目一杯愛でるからいいよ」
さらりと言われたが、これは後でかなりベタベタに甘い展開になるのだろと思って顔を赤くするルナを二人は部屋の奥へと連れていった。
「ふ、二人とも。準備って一体……」
「それは見てればわかりますよ。では久しぶりにお嬢様のお着替えをお手伝いさせてもらいます。サラス」
「はい!頑張ります!」
さっきまでの涙が嘘のようにイキイキした表情で頷くサラスにルナはどことなく懐かしさを感じて思わず呟いた。
「まさかもう一度この光景が見れるなんてね……」
もう随分昔におもえるような光景。
冷静なマリアとルナの着替えやメイクの時にはイキイキした表情で張り切るサラス。
その光景に懐かしさを覚えて思わず呟いた言葉に二人もどこか嬉しそうに答えた。
「……はい。私もうれしく思います。もう一度お嬢様にお仕えすることができることにさん」
「わ、私もです!」
「うん……ありがとう二人とも」
そんな風にまた言葉を交わせたことに少なからず嬉しそうに頬を緩めるルナだったが、それでもこれから着替えをするというのがどうにも気になってしまい思わず聞いてしまう。
「二人はこれから何が起こるのか知ってるんだよね?」
「ええ。遥様から大まかな流れはきいております」
「遥から?ということは遥が計画したことなの?」
「はい。遥様が前から考えていたことだそうです」
「そうなんだ……なら大丈夫かな?」
遥の名前が出てきたことで不安は解消された。思えばルナが二人に連れてかれる時も何も言ってなかったし……おそらくこれから何が起こるとしても遥が計画したことなら大丈夫だろうと無意識に安堵を浮かべるルナを見てマリアは心底嬉しそうに言った。
「本当に遥様のことを信頼されているのですね」
「そんなこと……うん、そうかも」
否定しかけてから頷いたルナ。
なんとなく恥ずかしくなるが、これを他人に言われて否定するのはなんとなく嫌な気がしたのでポツリと言った。
「遥はね、私を助けてくれたの。何にもできない役立たずな私のことを助けてくれて、好きって言ってくれた。だから……遥のやることならなんでも大丈夫だって思えるんだ」
心底嬉しそうに遥のことを語るルナにマリアとサラスは一度作業の手を止めて顔を見合せてから……嬉しそうに微笑んだ。
「良かったです。お嬢様が本当に心から想える殿方と結婚されて」
「ですね、本当に……」
一瞬頭を過ったのは元婚約者の馬鹿王子の姿だが、あの貧乏神とは手を切ったことで今の夫に出会えて、こうして心から笑えるようになったルナに2人は心底良かったとホッとする。
遥が馬鹿王子と同じような最低な男だとは思ってなかったが、少なからず遥という人間に関して疑問を抱いていた二人からすればルナのこの信頼する姿はなんとも安心した。
元々、政略結婚での馬鹿王子との婚約だったが、ルナは家のために無理をしてまで頑張っていた。
そんなルナを見捨てて、あまつさえ貶めた馬鹿王子には心から頭にくるが……ルナがその辛い経験の後で心から好きな人が出来たことには本当に安堵した。
「お嬢様。遥様のこと本当に大好きなんですね」
「……!?ちょっと、マリア何を……」
「ふふ、すみません。ただ、お嬢様が遥様のことを語る姿があまりにも嬉しそうだったのでつい……」
「そ、そんなことは……」
「ありますよ。お嬢様に仕えてからこれまでで、お嬢様がここまで幸せそうな表情をしたのを私は見たことがありません」
「ですね。お嬢様が本当に幸せそうでなによりです」
ルナの髪をいじりながらサラスもそう言った。そんな二人に恥ずかしそうにしつつもルナは無意識に語っていた。
「だって……遥ってば凄く格好いいんだもん。いつも笑顔で私を抱き締めてくれるし、私の作った下手なご飯も美味しそうに食べてくれるし、いつも私に誠実で優しくいてくれて、昔マリアに読んでもらった物語の王子様みたいにかっこよくて優しくて……私の全てだもん……」
「ふふ……確かに格好いいですね遥様は」
「……私のだからダメだよ?」
拗ねた子供のようにそう言ったルナ。
おそらく遥がこれを見ていたら即イチャイチャラブラブな甘々展開になっていただろう。
実際、同性である二人もその可愛さに思わず頬を緩めてしまったくらいだ。
そんなルナに安心させるようにマリアは言った。
「大丈夫ですよ。私も旦那と子供がいますから。それに……お嬢様の白馬の王子様を取ったりはしませんよ」
「私も旦那がいますので……大丈夫ですよお嬢様!」
「べ、別にそこまで心配してないけど……でも遥は本当に格好いいし優しいから、皆好きにならないか少しだけ心配というか、その……」
思わず口ごもってしまうが、ルナとて遥のことは信じていても少なからずそういった心配があったりする。
まあ、遥にそのことを気づかれるといつも安心するようにルナのことを目一杯愛してくれるのだが。
「…………」
「お嬢様?お顔が赤いですが大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫……」
思わず遥とのあれこれを思い出して自然と赤くなってしまうルナ。
そんなルナを見て微笑ましく思いつつも二人はなんとなくここまでルナを乙女にさせて遥の手腕に戦慄していた。
(これは……お嬢様予想よりもベタ惚れな感じですね)
(しっ、言ってはダメですよ。それにしても、本当に何があればあの真面目なお嬢様がここまで乙女になるのか……)
視線でアイコンタクトをとるが、二人の知るルナとは思えないくらいに乙女になっていて微笑ましく思いつつも――同時に遥に対して物凄く畏怖を抱いたのだった。
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