第13話 手紙はスルー

翌日――朝食を食べてからロバートとマイヤは支度をして早々に家を出た。


ルナとマイヤが思いの外仲良くなっていたことに若干の嫉妬を感じながらも、ルナが楽しそうに話をしている姿を見て遥はすぐにそれを微笑ましげに見つめることにしつつも、二人が帰ったあとはルナを独り占めにして思う存分愛でようと誓って家に入ろうとする。


「あれ?」

「どうかしたの?」

「ポストになんかきてる」


玄関前にある今時珍しい赤いポストに視線を向けると、いくつか手紙が投函されていた。


遥はそれをさっと回収して軽く宛名を見てから……サクッとしまって何事もなかったかのようにルナに笑顔で言った。


「じゃあ、家に入ろうか」

「それはいいけど……その、手紙は?」

「うん?ああ、対したことないよ。ただの迷惑メール……じゃなくて、イタズラ手紙だから」

「そ、そう?」


イタズラ手紙という謎の単語に首を捻りつつも遥が何でもないというのでそれを素直に信じて家に入るルナ。


そんなルナを心底愛しく思いつつも、遥は来ていた手紙の宛名に内心でため息をつく。


遥の家のポストに手紙を投函できる人間はこの世界には一人だけなのだが、その一人が各国から手紙を回収してくるので、手紙が来る頻度はまちまちだったりする。


たまに急ぎで手紙を依頼されて朝早くに投函することもあって、今日はそんなパターンなのだが……来ていた手紙のうちの何通かの宛名はシルベスター王国からのもの。


つまりルナのいた国からのもので、内容はなんとなく察しがついた。


ルナが家事に取りかかってる間に遥は手紙を仕方なく確認すると、内容は案の定、ここ最近の魔物の討伐に関することと、前回の報酬の受け取りに来なかった件についてだった。


あとは、数日後に行われる戴冠式への案内状などのくだらない内容だったが……遥はため息ついた。


(戴冠式ということはおそらく、ルナの元婚約者の馬鹿王子が王位につくのか……そうなると前国王は排除されたか)


毒殺、退位、暗殺……手段は知らないがおそらく玉座から下ろされたであろう前国王。


そうなるとおそらくこの戴冠式の後にでもヒロイン様との結婚式がありそうだと推察はできた。


(さて、戴冠式に行ってルナとの関係を公にするのもいいけど……今のルナにはまだ早いだろうし)


遥としてはシルベスターに直接行ってルナと自分の関係を公にしてシルベスターとの全面対決に持っていってもいいとは思ったが、流石にまだ時期的に早いだろうと断念する。


そもそもルナにとってあの国はトラウマになってるだろうし、下手に連れていってルナの心が少しでも傷つくのは遥の本意ではないので諦める。


(とりあえず手紙は全部捨てておいて、あとは他国との交流を少し深くしておくか)


下手に手紙を返すよりは返事をしない、どころかスルーして、他の国とは仲良くすれば流石にあちらもなんらかのアプローチをかけてくるだろう。


そもそもシルベスター王国の人間では遥の家までたどり着くことができないのであちらは他国に頼らざる得ないだろうけど……その辺はアプローチをかけられそうなメンバーには断るよう根回ししておけばいいだろう。


遥はそう結論付けると、早速手紙を書こうと筆を持ったところで――とんとん、と控えめなノックと共にルナがお茶を持ってきてくれた。


「遥。お茶をいれたけど……いる?」

「うん。ありがとうルナ」


温かいお茶を当たり前のように淹れられるようになったルナの成長にほっこりしていると、ルナは心配そうに聞いてきた。


「なんか少し難しい顔してたから……大丈夫?」


遥が手紙を見てから、なんだか難しい顔をしていたのに気づいたルナが一生懸命考えた末に出た答えがとりあえずお茶を淹れることだったのだが……そんなルナの気遣いに遥は嬉しそうに微笑んで言った。


「ルナのお陰で大丈夫だよ。あ、でも一つお願いしてもいいかな?」

「お願い?」


キョトンとするルナを遥は優しく自身の方に抱き寄せると……そのまま呆然とするルナを優しく抱き締めた。


しばらく何事か視線を慌ただしくしていたルナだったが、事態が飲み込めると遥の胸元で顔を赤くしていた。


「な、な……ど、どうしたの遥?」

「うーん……ルナが可愛いすぎて思わずね。嫌ならほどくけど?」


そう遥が言うとルナは視線を反らして言った。


「ずるいよ……嫌なわけないって知ってるのに……」

「まあね。俺はズルいからね。ルナの気持ちを知ってても聞きたくなるんだよ。そんな俺は嫌いかな?」


イタズラっぽく微笑む遥に、ルナはしばらく沈黙してから静かに抱擁の力を強めることでこたえた。


「……遥。好き」

「うん俺もルナが大好きだよ」


その返事にルナは視線を反らしつつも嬉しそうに顔を赤くしていた。


そんなルナを見て内心で『この可愛いさプライスレス』などと思いつつも遥はルナの感触を楽しんでいた。

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