第3話 温かい気持ち
「わぁ……!」
机の上に並んでいる料理をみてルナは驚きを現す。
本日のメニューは、肉じゃが、秋刀魚の塩焼き、サラダ、ご飯、味噌汁と、和風なメニューになっている。
サラダ以外はルナにしてみれば初めてと言っていいメニューの構成になっている。
特にルナにとって衝撃的だったのが、ご飯というパンの変わりの主食と味噌汁というスープだ。
最初はパンの変わりにしては妙な感じだと思っていたが……ご飯というのは食べる料理によって様々な異なる味わいを見せるのでルナにとっては新鮮だった。
そして味噌という謎の調味料のスープ……これも初めて食べる味のはずなのにどこか安心感のある味わいでルナはすぐにこのスープが好きになった。
そして何よりもルナにとって新鮮だったのは――
「じゃあ、食べようか」
「う、うん……」
出来立ての温かいご飯を他人と一緒に食べる――王妃になるために育てられてきた彼女にとってそれは絶対にあり得ないことだった。
毒味役がチェックした冷めた食事を一人で食べるのが当たり前だったので、どこかこの光景に違和感を覚えつつも……なんだが凄く心が温かくなるのを感じていた。
そんなルナに笑顔を向けてから遥はゆっくりと手をあわせて言った。
「いただきます」
「い、いただきます」
ルナもそれを見習って同じように合掌をしてからご飯を食べる。
遥の話ではこの作法はとある地域では当たり前のことらしいが――しかし、いかに博識な彼女でもそれがどこかはわからず、でも遥が毎回のようにやるのを見てやるべきだと思ってやっていた。
静かにスプーンを持ってまず食べるのは味噌汁……一口飲んでからルナはほっと息を吐き出した。
「美味しい……」
「そう?よかった」
ルナのその呟きに遥が嬉しそうに微笑む。
それに少し照れ臭く感じながらもルナは食事を続けた。
次に手をつけたのは肉じゃがという料理――肉とジャガイモがメインの料理でご飯との相性が抜群だった。
秋刀魚もこの場所のどこから魚を仕入れているのか彼女には見当もつかなかったが、とても美味だった。
そして野菜――サラダがルナにとっては衝撃的だった。
野菜というのは本来あまり美味しいという印象はなかったルナだったのだが、ドレッシングなる調味料やマヨネーズと呼ばれる調味料をかけるとグンと美味しさに磨きがかかる。
まあ……遥はあまりこの調味料が好きではないらしく生の野菜を食べているが――生でもかなり新鮮なのか甘さがあって美味しい。
と、そんな風に彼女が食べていると遥がニコニコしながらこちらを見ていた。
「な、なに?」
思わずそう聞くと遥は「いや……」と言ってから嬉しそうに言った。
「凄く美味しそうに食べてくれるから嬉しくてね」
「――――!お、美味しいわよとっても……」
「うん。良かったよ」
そう言って遥も食事をつづける。
こんな風に食事中に会話をすることも凄く新鮮だが――相手が遥だからだろうか?
こんな風に食べる姿を人に見られて恥ずかしいけど嬉しい複雑な気持ちになるのは……大勢の使用人の前で冷めたものを形式的に食べるよりも何倍も楽しくて嬉しくて……どこか恥ずかしいけど嫌ではない感覚。
「ね、ねぇ……」
「うん?どうかしたの?」
「この食材ってどこから仕入れているの?」
その不思議な気持ちをどうにかしたくて彼女はそんなことを聞いてしまった。
言ってから少し後悔するが、しかしそんな彼女に笑顔を浮かべて遥は言った。
「半分くらいは貰い物だよ。あとは……育てたり、この森にあるもので作ってるよ」
「そ、それって……」
「あ、大丈夫。この森って言っても流石に魔物とかの肉は使ってないから」
「そ、そう……」
少しほっとする。
流石の彼女でもあんな凶暴な生き物からの肉を口にする勇気はないからだ。
しかしそれにしても……
「今さらだけど……ここって魔の森なのよね?」
「そうだよ」
「その……この家は大丈夫なの?魔物とかがいきなり襲ってきたりしない?」
食事中に考えることではないだろうけど、今さらながらそんなことが気になった。
それに対して遥は微笑んで言った。
「大丈夫だよ。この家にいる限り魔物は俺達を認識できないから。それに……」
「それに?」
「どんなことになってもルナのことは俺が必ず守るからね」
その言葉にルナは思わず赤面してしまう。
遥と出会ってから時々感じる不思議な気持ち……いままで感じたことがないそれに、しかしルナはなんとなく答えを知ってるような気がした。
それはきっと物語なんかで語られるもので――凄くシンプルな答え。
(私は彼のことが……)
婚約者であった王子にすら感じたことがないこの気持ちはきっと――
そこまで考えてルナは顔を覆った。
(な、なんで私はこんなことを……)
チラリと指の隙間から遥をみると――ばっちりと目があって微笑まれた。
それに対してルナはさらに赤面する。
一方――そんな悶々としているルナを優しげにみながら遥の内心もかなり荒れていた。
(ヤバい……なんだこの可愛い子は!?)
ちらりとこちらを見ては恥ずかしそうにしている少女に圧倒的な萌えを――いや、そんな緩い言葉では表せないほどにもっと濃いもの……愛しさを抱きつつも表情はあくまでクールにいく。
彼女は今きっと自分を意識しているからこそのこの反応なんだろう――なら、自分はこのまま彼女に優しい姿を見せてさらに彼女をメロメロにしよう!
そんなことを考えて遥は味噌汁を一口飲む。
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