第34話 依代(よりしろ)


モグモグ


もぐもぐ


モグモグ


もぐもぐ


すごい。


登場人物それぞれに提供した料理が、見る見る消えて行く。




提供前に、リクエストを取ったら、


ニーグさまは

「肉」

よぉし、人造コーべ・ビーフA5ランクを出しちゃる。


異世界地球の、ポピュラーな昼食で♪」

「わたしも!!」

ワードマンさんと、ファリス精霊王さん。

ファリスさん。そろそろ哺乳瓶ほにゅうびんを、返して。


「えぇ〜と、乳粥ちちがゆ?」

何故なぜ疑問形ぎもんけいなの?セルガさん。




ドン


ジュ〜 ジュ〜


レア焼きサーロインステーキの、熱々の五キロgの塊人造肉が載る大皿を、

右手にナイフ......無い左手の代わりに、尻尾の先で器用にフォークを かまえる、ニーグさまの前に置く。


ジュ〜 ジュ〜


食欲そそる、焼き立てのこうばしいかおりが、周囲に広がる。


「おおおおぅ!たまらん香りじゃ!」

器用に500g位に切り取ると、一口で頬張ほおばる。


「んんんんん♪ んもん!」

夢中になり、凄まじいスピードでらい続ける。


(......ストップかかかるまで、自動でお代わりを)

(アイサ)



ワードマンさんと、ファリスさんには、


ハンバーガーと照り焼きバーガー。


イタリアン・ピザも出す。

水牛チーズたっぷりの、マルガリータ

イカ・エビ・ムール貝・アサリ、ホタテ・ブラックオリーブの『魚介たっぷり』の、ペスカトーレ。

ポテト、ズッキーニ、ナス、赤パプリカ、黄パプリカなどの『野菜グリル』がたっぷりの、オルトラーナ。


口をさっぱりさせる、イタリアン・レモネードをえて。


スタンダードなラインナップを、提供してみる。


ディアボラ悪魔は......辛味からみは、次の機会で良いかな。とりあえずは『美味しい』と思われないと)


「コレは『はんばーがー』と、ぴ......『ぴつあ』でしたっけ?」


ファリス精霊王さん、やるナお主。

存外ぞんがい情報通じょうほうつうじゃないかい?

これまでの勇者さんの、誰かに聞いたのかな?


「その通りです。さぁ、どうぞ〜」


ガブリ ( ! )

ガブリ ( ! )


「......」もぐもぐ

「......」モグモグ


......あのぅ?


二人は無言で、一心に食べ続ける。

そしてくらいきおいが、どんどん早くなる。


(......こちらも、ストップかかかるまで、自動でお代わりを)

(アイサ)


コトン


真っ白い陶磁とうじのスープ・ボウルに、ミルクかゆを入れ、セルガさんの前に置く。

優しいミルクの香りが、鼻をくすぐる。

スープ用のぎんさじえる。


「けっこう熱いので、気を付けて」


「ありがとうございます〜 いただきます〜」


彼女は素早くさじを取り上げ、白いかゆさじを差し込む。


ふー ふー


パクリ


「ん〜 おいしい......」


ふー ふー


ゆっくりだが、確実に減って行く。


(断食開けだから、この一杯でストップ。

食べ終わったら、お茶を差し上げて)

(アイサ)


「味付けも最高ですけど、この粥の食感は、モチモチしていて食べやすいデスね♪」


「はい。こめと言う穀物こくもつです。私が育った地方日本での主食です。

麦粥むぎがゆもありましたが、こちらの方が消化良く、胃に優しいので」


「ありがとうございます。お腹がポカポカしてきました♪」


セルガさんは、にぱーと笑う。




「むっ!?」


ピザを夢中で頬張っていた、ワードマンさんの、動きが止まる。


慌てて口の中の物を飲み込むと、顔を空に向けて、更に動きが止まる。


「......はぁ。ですが......」


なんだろう? 安らげる食事中に、上司から急に電話がかかってきたサラリーマン見たいだ。


「あ〜......少々お待ち下さい」

ワードマンさんは、セルガさんを見る。


「セルガ......突然ですまないが、いま依代よりしろになれる神官か、見習いはるか?」


「え?......え〜と。研修中の見習い神官に『くらい』は、何人かります。

が、この『人手不足』で依代よりしろつとまる『くらい』者は既に配属先はいぞくさきが......」


「そうか〜......うーむ」


「私が......」


「それは一番ダメだ。大事なお役目があろう」


「うーん」


どうしたんだろう? ホストとして、聞いてみよう


「ワードマンさん。どうされましたか?」

「えっ!」


ワードマンさんは、声をかけられて、驚いた様だ。

そして、俺に話して良いものか、迷っているようだ。


「? どうしました?」


「あの〜」


「はい」


「ヴォーグ神様が......『われも食べたい』......とおっしゃられてまして」


「「「えっ!」」」


俺以外が、驚いている。

どう言う事態なのだろうか?


「はぁ?......私は、かまいませんが」


「ありがとうございます。......ですが、『神が降りる』には、条件が御座いまして」


「ほう。どんな条件でしょう?」


「......神を降ろす『依代よりしろ』が、必要なのです」


「『依代』ですか」


「はい。『神の意識』を『受け止められるうつわくらい』を得た、『人』に降ろすのです」


「あー」


なるほど。話が見えて来た。

依代になれる器になるには、長年の修行を経て『さとれた』『くらいの高い意識いしき』が必要なのか。


「そして、神が降臨こうりんされますと、その者は数日すうじつ数年すうねんは『神の意識いしき』がまさります」


「......なるほど。『依代』となった方の『人生』も、左右してしまうと......

『神が食事したいから』とだけでは、優秀な人材に気軽に『依代』は頼めませんね」


「はい」


なるほど。では『魂が入っていない』、生体アンドロイドでは、どうだろう。


「ワードマンさん。異世界地球技術テクノロジーでは『生身の人体』に近いゴーレムがございます。

ソウルは入っていない状態で、提供ていきょう出来ますが、そちらを『依代よりしろ』として『神降ろし』を、試して見ますか」


「ほほう......む!......う?」


「どうされました?」


「......はぁ。あの」


「はい」


「神が『それでよい』と、仰ってまして......

『早うしろ』とも......」


ワードマンさんは、げっそりしている。

上司のワガママを、商談相手に伝えるサラリーマンの表情になっている。


「あはは、承りました。では」


まずは『マネキン状態』の素体を、ワードマンさんとの間に出す。


「ほう」

「へぇー」


ワードマンさんよりファリス精霊王さんの方が、興味心身きょうみしんしんだ。


中性的で中肉中背の、基本タイプ。

自然の細胞を模倣もほうした、生体バイオ素材の電子脳タイプだ。

人間の様な『五感』がある。

食べた食物は、胃で『原子分解』させてしまうので、排泄物は出ない。

まだ、AIアプリを入れて無いから、行けるかな?


降りた後に、降りた神?......意識自身のイメージで、体型や容姿や衣服は、レプリケート出来る。


【これ、ファリス。どかぬか】


「おおっと!失礼」

素体に鼻先が着きそうなほど、ガン見していたファリスさんに、神?のおしかりが、脳に響く。


サァー


雲は少ないが、天使の梯子の様な光が、素体に向けて降りてくる。


【ほーう。この『依代』は素直じゃの】


素体実測値、172cm。

白い髪にひすいの様な緑瞳りょくがんだ。

案外甲高い声をしている。

シンプルな神官服を着た......中性的なハンサム......『男神?』いや『女神?』......

どちらでも無い?のか。


解脱げだつをされているのだろうから、陰蔵相おんぞうそうなのか?

男性だったら、陰能は恥骨内に引っ込む。

女性ならば、乳房は小さくなり、生理も止まる。


性器が喪失し、性衝動にまどわされる事も無くなる。


まぁ、どちらでも良いか。

美食には、まどわされている様子だし(苦笑)



【タケシ。失礼な事を考えておらぬか?】


猛は、スっと『銀座千疋屋「苺ショートケーキ」』を、テーブルに出す。


ヴォーグ神は、緑眼を『くわっ』と見開き、ケーキをガン見する。


上部に繊細せんさいかざられたホイップに、紅一点とばかりにあかいちご鎮座ちんざしている。

スポンジのあいだの白いクリームの美しい断面断面には、あかいちごがたっぷり入っているのが見える。


コポコポコポ


隼はすでに、紅茶こうちゃをそそぐ。


あざやかなあか果物くだものが乗っている......コレが、うわさの『イチゴのしょうとけいく』か!】


隼はスっと、銀のフォークを、差し出す。


【うむ!相伴しょうばんあずかる!】


神?はフォークを持ったまま、席に着くなりショートケーキの先端を縦に垂直に切り、はむりと口に入れる。


【んんんん〜♪】


神?は目をつむり、その味を堪能たんのうする。


【見事じゃ。甘味あまみ酸味さんみが口の中で『こらぼれいと』か?......美味である!】


紅茶を、きっする。


【おおう。美味い。そして口が直され、また甘味を求めてしまう】


はむり

ぐびり


【ああぁ、終わってしもうた】


「むふ〜」


ちょうどニーグさまも、カトラリーを置く。

(.....一トン、完食されました)

(......まぁね。元はりゅうなんだし)


【ニーグを、満足させるとはのう】


「うむ。我が夫は、甲斐性あるぞ」


【......タケシ、苦労させて、すまぬ】


「はぁ......今更いまさらですね」

不機嫌な声音になる。


「ヴォーグ神に、おうかがいたします」


【おう、なんじゃ】


「勇者召喚には、ヴォーグ神様も道筋みちすじを?」


【まぁな】


「では、ヴォーグ神様に遺憾いかんの意を表明し、

勇者召喚と言う『拉致らち』を受けた事態に、厳重げんじゅう抗議こうぎいたします」


「え!」

「は?!」


ワードマンさんとセルガさんの、顔色がかわる。


【ふうむ。さすがは『渡り人』よの。主張はハッキリしておるは】


「交渉には、互いの意見をう事が、重要です」


【しかし、此処は我の創りし世界である。主なんぞ如何様いかようにも......】


如何様いかようにも? では、何故なにゆえ庶民しょみんの暮らしが右往左往うおうさおうし、

神の子であるセルガさんが、四苦八苦しくはっくしているのです?」


【む】


「むしろ、この状況じょうきょうを、コントロール出来なくなって居られるのでしょう」


【......】


ヴォーグ神は、渋い表情となる。


「......」


ヴォーグ神の言葉を、静かに待つ。


サァー


また、さわやかなそよ風が、森を通り抜けてゆく。


【セルガは、面倒くさい勇者を召喚したの......圧倒的に実力があるで、文句も言えぬ】


「『大掃除』には、強権も必要かと」


【その通りじゃ。少し気を抜いていたら、何とも面倒くさい状況になっておってな。頼めるか?】


「既に誓いは、セルガさんと交わされて居ります」


【......少しは我も、ありがたがるべきでは?】


「どれくらい、気を抜いて居られたのですか?」


【むぅ。したたかな口だのう......四百年程かな?】


「前回の『魔王軍進撃』の時からですな」


【そうじゃ。綱渡つなわたりな遠隔操作えんかくそうさで、下界げかいを収集させて、くたびれての。寝過ねすぎぎたは】


「お寝坊神ねぼうしん様と、お呼びしましょう」


【やめい】しかしヴォーグ神は、苦笑する。


【なるほど、スルりと相手の心うちに入るか。武威ぶいだけではないのだな】


武威ぶいだけでは、親友になれません。そして、親友にはしあわせになって欲しい」


【......我も『親友』と言うのか?】


「はい」


ヴォーグ神は、しばし『キョトン』とした表情となる。


【わははははははは!】


【......これ程『肩の荷』が、軽くなった気分になったのは、久々じゃの】


ヴォーグ神は、微笑む。


【よかろう。タケシに『全て』ゆだねる。好きにやってくれ】


うけたまわりりました」


【あとな】


「はい」


手前勝手てまえかってに、召喚してしまい、申し訳無かった】


ヴォーグ神は、タケシに頭を下げる。


猛も、頭を下げる。

「ありがとうございます」


シャリーン


神楽鈴かぐらすずの、すずが響く。


【手打ちが済んで、良かったは】


【え?】

「は?」


シャリーン


古代日本の祭祀さいし祭服さいふくに、日輪をした王冠おうかんかぶる女性が、いつの間にか立っていた。


神社の表舞台おもてぶたい奉納ほうのう巫女舞みこまいう、着飾った巫女みこさんの様な。


人外さん達は、気配無く現れるのだね。


シャリーン


あわ後光ごこうが、している。

黒玉ぬばたま黒髪くろかみが美しい、大和撫子やまとなでしこな、ちょう美人だ。

彼女の周囲を守るように、真っ白い絹の羽衣はごろもが、『天女でござい』と周囲にフワフワ浮かんでいる。


シャリーン




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