第33話 硬い誓い


「......むぅ」( ˘・з・˘)


地面にペタリとへばっている尻尾テイルが、微妙びみょうに左右に、ズリズリうごめいている。

ニーグさまのほおが少しふくらみ、口をつぼめて、顔がフグのようになる。

猛にいだかれる雪花への若干じゃっかん嫉妬しっとで、ねている様だ。


(我も、あの姿仔犬に人化すべきだったか......?

さすればタケシも......)


二ーグ様の、本気で明後日あさって方向性ほうこうせい検討けんとうしている思考しこうが、

シルバー・コード霊子線を通じてダダれでつたわって来てしまう。


ちがう。


俺は幼女趣味ロリ・コンじゃないぞ。

雪花せっかの可愛さに、えて居るだけだ


精神的に、疲れる。

ダダれ思考が何でもかんでも、二十四時間伝わって来るのはつらいな。

自分の思考も、みだされてしまう。

フィルターを、設定するか。

(アイサ)



みゃう!


かわいい猫の声がしたかと思うと、白いモフモフのかたまりがセルガに飛びかかる。


ぽふん たゆん


見事、セルガさんの双丘そうきゅうに、飛び込む。


「あら、シャナ♪ 貴女あなたも来たの?」


「みゃーう! みゃ、みゃ!」


怒っている。明らかにセルガさんに、怒っている。

かわいいのだが。


「あぁ、そうね〜 心配掛けて、ごめんなさいね」

ぎゅ

シャナを、優しく抱きしめる。

「うみゅ〜」

顔が双丘に包まれて、すこし苦しそうだ。


「シャナ。元気そうだな」

ワードマンさんもシャナと呼ばれた、モフモフ白猫に声をかける。


「みゃ!」


しゅわしゅわ


「ワードみゃんしゃま!」


ぽふん


大きな猫目が印象的のネコ耳ツルペタ系で三歳くらいの美幼女に、瞬時しゅんじに人化したシャナは、

セルガさんの双丘からワードマンさんの腕に、軽々かるがると飛び移る。


「わ〜♪」

ゴロゴロ ゴロゴロ


シャナはワードマンさんの胸に、かわいい頭をこすけ、のどをるらす。


「う?」


シャナは、雪花せっかいだたけしに気がつく。


じー


シャナは右目がゴールドで、左目がブルーのオッド・アイで、猛をじっと見つめる。


「......きれい......」ポツリとつぶやく。


「あぁ。シャナも、魔素マナを良くえますからね。

勇者タケシ殿のきらめく魔力に、魅入みいられるのでしょう」


「そうですか。シャナ、よろしくね」

にこりと、微笑ほほえむ。


「み♪」


羽の様にふわりと飛び、猛の右肩に優しく降りる。


(アレ?重くないね!)

三歳幼女の重さを想像したが、ずしりとも来ない。

(どちらかと言うと精霊やワードマンさんに、近いやも知れません)

(そうか。見た目で判断できないと言うのは、万事ばんじ油断ゆだん出来ないなぁ)


「ゆうしゃしゃま? おにゃまえを、きいていい?」


「うん。タケシ・エンショウだよ。タケシと呼んで」


「タケシしゃま♪ こにょは?」


雪花せっかだよ」


「セッカ?」


「わうー」

名を呼ばれたと思った雪花はシャナの右手の甲を、ちいさな舌先で、チロりとめる。


「みは〜♪」

にこにこ笑顔でシャナはおデコを、雪花のおデコにくっつける。


ゴロゴロ ゴロゴロ

シャナの喉が、盛大にり出す。


「ひはー♪」

雪花も嬉しそうにおデコを、彼女のおデコにこすり付け返す。


ナニコレ♪ もえ× もえの、相乗効果そうじょうこうか


皆さん、ニコニコと微笑んでいる。

さっきまで、やや不機嫌だったニーグさまもニコニコだ。


サァー


さわやかな風が、霊廟マウソレウムの森を、けてゆく。


【きゃぁ♪】

【あははは〜】

【ひゃほー】

【わーい】


妖精や精霊達は、さわやかな風にサーフィンの様に乗り、あそぶ。


雪花セッカも、おいでー♪」

「わふ〜?」


シャナの幼い手が、よりちいさい雪花の手に触れる。

シャナが強く引いた訳でも無いのに、二人はフワリと浮き上がり、爽やかな風に乗る。


「ひゃう? わわわわ〜 あ♪」


雪花は、戸惑う声をあげるが、嫌がってはいないようだ。

すぐに雪花の周囲に妖精達が集まり、動きをサポートするようにい、いっしょにう。


森の木漏れ日の中で、妖精や精霊フェアリー達が楽しそうに、賑やかに舞う。


千里眼せんりがん

(アイサ)


精霊よりにセンサーの波長を合わせると、爽やかな風にも魔素マナの流れが見えた。

妖精達は、その流れに乗っている様子。


(どれ♪)


千手せんじゅハンズの一本を、魔素マナに伸ばしてみる。


グン


ヨットのが風を受けて、推進力すいしんりょくを得るようなきを感じる。


浮遊フライ


ただ、浮いてみる。


猛も妖精フェアリー達と共に、風にまい始める。


中空で、雪花に近づく。


「あるじー! とべるー?」


「出来ちゃった♪」


「きゃはー♪」


雪花は、猛に抱きつく。


「あるじー。おんなじー」


思わず、微笑んでしまう。


二階の屋根位の高さから霊廟マウソレウム全体を見渡せば、全体が爽やかな明るい魔素に覆われている。


(そう言えばタイ公爵の周りは、重く暗く、どんよりしていたな)


視線を上げると、聖湖の上に立つ、聖柱ホーリー・ピラーが視界に入る。


( そうか。この霊廟マウソレウムの様な『聖域サンクチュアリ』を増やせば良いのか )


脳内で、ヤーディン大国のマップ戦略図ひらく。


猛の脳裏に、壮大な計画くわだてががひらめく。



五分ほどでセルガさん達の前に、フワリとりる。


「みー♪」


たゆん


シャナは、再度セルガさんに抱きつく。


「なんじゃ。いきするように、魔素マナを使いこなして居るではないか」


ニーグさまは、苦笑してくる。


「出来ちゃいました」テヘぺろ


「うっ......」


なぜかニーグさまは、ほほを少し赤くめて、よろめく。


ニヤニヤ

にやにや

ニヤニヤ


さっした天使と精霊王と神官長の、ニヤニヤが止まらない。


「さて、セルガさん。そろそろ話を進めましょうか」


「は、はい!」


「セルガさん。貴女の『希望のぞみ』は、なんでしょう?」


「......」


セルガさんはシャナを抱いたま、空を見上げる。


【やはー】

【こっちだよー】

【きゃははは】


木漏れ日の中を、まだ精霊達が遊んでいる。


視線しせんを、ろす。


きとしけるすべてが、平穏へいおん日々実実ひびじつじつらせ、

明るい未来みらいかたえる、にしたいです」


猛は、しっかりうなずく。


「『さむらいタケシエンショウ円鐘は、確かにその願い、うけたまわろう」


いつの間にか猛の左腰に、日本刀の銀令鬼ぎんれいきが、下がっている。


かちり


左親指で銀令鬼ぎんれいき鯉口こいくちを切り、右手で少しかたなく。


にぶく光る、やいばが見える。


キーン!


さやに強くもどし、ワザと大きな音を立てる。


リィーン


銀令鬼ぎんれいきすずの音のような、んだ余韻よいんが、霊廟マウソレウムみて行く。


さむらいの「かたちかい・約束やくそく」を表明ひょうめいする、

金打きんちょう』と言う、シンプルな儀式リチュオルを、行う。


これから死線しせん状況じょうきょう覚悟かくごしてむ時などに、

どちらかがのこった方への遺言ゆいごんとして、真剣しんけん言葉ことばだけで誓い合う時におこなう。


「おお!セルガに、合力ごうりきしていただけるか!」


セルガさんは、この儀式は知らなかった様で、キョトンとしていたが。

軍属のワードマンさんは、直ぐに理解したようだ。

コチラでも、戦士同士の似たような儀式リチュオルはあるのだろう。

そしてワードマンさんは、周囲を見渡す。

「......すごいですね。今の音色ねいろで、周囲が浄化じょうかされました。

また、その『ちかい』、神はお受け取りになりました」

チラリと空に、視線を向ける。


「そうですか」

腰の銀令鬼ぎんれいきを、無限収納インベントリに収めながら、あっさり答える。


まぁ『侍』自身じしんが、自身にちかうのだ。

後は、粛々と実行・実践してゆくだけだ。


「......『少しは有難がるべきでは ?』と、神が申されております」

にっこりと、苦笑する。


「では後刻、お茶会にお招き致しましょう」


「......それも前代未聞ナノですが......存外に『茶会』に興味を示されて居られますね」


「さて、セルガさん」


「はい!」


「先ほどセルガさんは、『むにまれぬ状況に追い込まれ』たと、おっしゃいました。

その、ややこしい『状況や情勢』を、詳しく御聴きしたい」


しっかりと、う。


それを聞いて、セルガさんは真剣な顔を上げる。


「わかりました…… ず……」


ぐぐぅ~


「キャーー!」


「「「「「わははははは」」」」」


猛は、思わず笑ってしまう。


龍神ニーグヘッズも、笑う。


ワードマンさんも、笑う。


精霊王も、笑う。


精霊達も、笑う。


セルガさんは真っ赤になり、また小さく成って行く。


…… なんだろう? この安らぎは。


そうか。この安らぎを求めて、セルガさんの元に集まるのか。


こんなドジっ子がどうして? と思ったが。

なるほど、神官長に推挙される訳だ。


まぁ立場が変わっても、セルガさんの態度は変わらないだろうし。

安らげた者は、セルガさんの為に、命掛けるだろう。


ぐぐ~う きゅるきゅる〜


「きゃー! いや〜!!」


セルガさんから更なる『腹の虫』が聴こえる。

赤面の極みと、真っ赤になる。


プチケーキが呼び水で、更に腹が減った様だ。

しかし十日断食の後なら、消化良い物の方が良いかな。





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