第32話 雪花





【 いいひと! 】

【 やさしい♪ 】

【 わたしも契約したい 】


ぽわぽわ ぽわぽわ


綿毛わたげ妖精?妖精と形違うから、綿毛精霊せいれい?みたいなのも、

猛にってくる。


確か精霊には、手の平に魔力を集めて、あげるのだっけ?

どっかの精霊系せいれいけいライトノベルにあった様な。


生身の右手の手の平に、魔力と言うか、気功きこうを集めて見る。


ぽわり


「え?」


手の平に、卓球のボール程度の青白い光球が浮かぶ。

(コレは......コレが、魔素かな?)

(そう見たいですネ)


綿毛は、スっと吸い込まれるように、光球に吸い付く。


綿毛と光球は、一体化する。


ボンッ!


縁日えんにちとか、こども会とかで作られた『ポン菓子がし』みたいな破裂音はれつおんが、

ワードマンさんの霊廟れいびょうの森に響き渡る。


【ひゃぁ!】

【わぁ!】

【こわい!】

【なに?】


フェアリー妖精達はいっせいに、破裂音から遠ざかる。


「え......と?」


猛の右の手の平の上に、柴犬の仔犬程の『真っ白い仔犬』?が、胎児の様に丸まって、浮かんでいる。


『ほーう。フェンリルの精霊を生み出すとは。御主猛にむかい、なかなかではないか』


「! えっ ?」


一瞬前まで誰も居なかった、猛の右側に、シュッと線がシャープなイケメンさんが、

『真っ白い仔犬』ににこにこ笑顔を近付けて、覗き込んでいた。

緑色が基調の、質の良い貴族の乗馬服?を着ている。


御主の魔素は......[]に近いんだね。

まじりけのい、かなりな上位の[]だ』

銀髪に、エメラルドのような深い緑の瞳が、

視線を合わせた猛の黒い瞳の奥を、のぞもうとしている。



「おや、ファリス。御主おぬしも出て来たか」


『これは龍神ニーグ様。お久しゅう』


【 ! 精霊王せいれいおう様 ! 】


チェピーが真っ直ぐ、ファリス......精霊王?に飛んで行く。


破裂音に引いていた他の妖精達も、精霊王に群がってゆく。


【あたらしいゆうしゃさま、やさしい】

【あたらしいゆうしゃさま、はなしはやい】

【あたらしいゆうしゃさま、つよい】

【あたらしいゆうしゃさま、うまい】

【あたらしいゆうしゃさま、しゅき】


妖精達が、いっせいに報告している。

うまい?オレが出した蜂蜜はちみつ美味うまいてことだよね?(冷汗)


で、精霊王せいれいおう? 今度はどんな人外さんだい?


「で、ファリス。そこなタケシは、ワレ子種こだね所望しょもうしておる」


『......それはまた......おめでとうございます』


......ファリスさん、一瞬いっしゅん、固まったよね。

......次に、なんであわれみの視線を向けて来るのかな?


ポン


何故なぜやさしく肩を叩く。


「......ありがとうございます」


何故なぜ、俺は思わず礼を返す?


『ま、まぁ、このフェンリルの仔犬こいぬも、

優しく育成してくれれば、貴君きくんの強い味方になってくれる......ますよ』


何故だろう、精霊王ファリスさんの優しい言葉に、目頭が熱くなりそうだ。


理不尽りふじんな、勇者召喚ゆうしゃしょうかん

理不尽りふじんな、子種要求こだねようきゅう


オレとした事が、案外メゲているのだろうか?


......ひゃう


「えっ......と。仔犬が目覚めた?」


フェンリル仔犬が浮いたまま、もぞもぞ動き出す。


ヤバい。かわいい♪


左手も添えて、抱き上げる。


ひゃう ひゃう ひゃう


コレは、腹が空いているな。


「ファリス精霊王?この子にはどんな食事を?」


『えっ? あぁ、ひと月ほどは、貴君の良いと思う餌で良いですよ。

後は勝手に自分で取れる様になります』


そう言われてイメージしたのは、動物園の飼育員さんが、

産まれたてのにミルクをあげる哺乳瓶ほにゅうびんだ。


(哺乳瓶と中身の育児ミルクを、レプリケート)

(アイサ)


猛の右手に、小さな哺乳瓶が現れる。


『へ〜、ほーう』

それにもまた、ファリスはガン見してくる。


仔犬の半開きな口に、そっと乳首ちちくびを差し込む。



んく んく んく んく


仔犬は、凄い勢いで飲み始める。


あっという間に、ミルクが2/3減る。


(追加を)

(アイサ)


んく んく んく んく


無限ミルクを、無限に飲んで行く。


んぱぁ〜


数回の追加ミルクで、腹が満たされたのか、

やっと乳首から口を離す。


『ちょっと見せて』

ファリスさんに、哺乳瓶を取り上げられてしまった。


猛は、仔犬にゲップさせる為に、仔犬のアゴを左肩にのせ、右手で背中を優しくさする。


グエエップゥ!


仔犬にしては、大きめなゲップが出た。

仔犬は、そのまま寝てしまう。

仔犬の温もりに、猛もいやされる気になる。


「......みょうれておるの。子育ての経験が?」


「はい」


高畑久美子産科医さんかいさんの産婦人科施設さんふじんかしせつで、先日育児を手伝わされた記憶が新しい。


育児いくじプログラムの更新時の切り替え不調で、

新生児育成しんせいじいくせいロイドのプロトコル不調ふちょうが起こる。

不調を起こしたロイドは強制停止されるので安全である。


が、復旧まで、猛の千手センジュ・システム制御のドロイド達、数十体が、

強制きょうせいり出され、育児をさせられてしまった。

つまり、指示を出す猛も、手伝わねばならない。

別に嫌いでは無いが。


『いま手が空いてるヒマなら、良いでしょう?』


同じ『高畑さん』からの真っ当な、手伝え威圧要請ならば、断れさからえない


「むぅ。そうか」

ちょっと拗ねた表情になる。

まさかのジェラシー?


「え?ニーグ様は?」


「まぁ、いくつか子孫系譜しそんけいふは出来とるの」


「それはそうでしょうねぇ」

何千年生きてるのかな?


はう ひゃう ひゃう


腕の中の仔犬は、起きた。

アレ? ちょっと大きくなってないか?!


『ほう。貴君の魔素が[上質]だから、精霊の育ちが良いですね♪

コレなら直ぐに、成体になりそうですね』

精霊王ファリス哺乳瓶ほにゅうびんをいじくり回しながら、仔犬を見る。


えぇー。この可愛らしさを、もう少し楽しめないのか。


チュ


仔犬の鼻づらに、フレンチ・キスを落とす。


ひゃう♪ ひゃう♪......(ある、じ〜、すきー)


ん?


ひゃう〜 ひゃう〜(あるじ あるじ)


コレは、念話か!


(おお♪ 仔犬、よろしくな)


ひゃい ひゃう(うれしー あるじ すき)


『では、名付けを願います』


「え。もう?」


さっきスキャンしたら、女の子だった。

名前かぁ。

印象から言えば、真っ白い雪の花かなぁ

雪花せっか』なんてどうだろう。


ひゃう!(セッカ!いい!)


じゃぁ雪花せっか


シュワ〜


雪花は、一~二歳くらいの幼女となる。


「あるじー」


紅葉の様な、おさない手のひらで、猛の首に両手で抱きつく。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る