第31話 サンクチュアリ




見れる様になった、

セルガさんのステータスを確認しておく。


うん、良し。


血圧・体温・血中栄養濃度バイタルサインは正常値に。

魔力?魔素?のゲージも八割を越えたね。


雨雲来るのも、今少し先か。


ならば。気分転換に、外に出よう。


「セルガさん。こちらのワードマンさんの霊廟れいびょうも、

聖魔ホーリー魔素マギ溢れる『聖域サンクチュアリ』なのですね」


「はい♪ 居心地がよろしいので、良く来させて頂いてますは」


「ふふふ、業務デスクワークの間に良く抜け出して来て......怒るメルダが、探しに来ましたね」


「そ! それは、ナイショですは!」


猛とニーグは(あ〜)と納得顔になる。


天然フリーダム娘には、内勤事務仕デスクワーク事はキツいだろうねぇ。


「では、案内して頂けませんか?」


ゆっくり立ち上がる。


「喜んで♪」


セルガも立ち上がる。


たゆん たゆん




○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○




四人プラス執事?で、大きなオーバル鍋から出てくる。


爽やかな森の香りが、美味しい。


思わず深呼吸してしまう。


森の木漏れ日がふりそそぎ、じんわり暖かく心地よい。


「たしかに。ここにお邪魔するだけで、気分が晴れますね♪」


人族姿このすがたで来たのは......ワードマンの葬式以来かの?」


「おや、もうそんなにちましたか。ニーグ様は薄情はくじょうだから......」


「守護天使になってから、しょっちゅう話しているではないか。

ワードマンの骨しか無いココに、わざわざ来ても......」



【セルガさま♪】

【セルガさまだ〜】

【ひさしぶり♪】

【なんにちぶり?】

【あ♪ にーぐさまもいる〜】

【きょうのお菓子は〜?】

【くいつくしちゃダメ〜】

【すこしでいいから、わけて〜】



周囲の深い新緑から、なにやら鈴虫すずむしの鳴き声の様な、

小さなささやき声が一斉いっせいにきだす。


しー!しー!しー!


「しゃべっちゃ、ダメ〜!」


セルガさんは、慌てて手を声たちの方にふる。

何を否定したい?

お菓子の食い尽くしの事か?(苦笑)


何かが、新緑の葉の隙間から、フワフワと出てくる。


おおお!ティンカーベル的な......

手の平サイズの妖精フェアリー


【セルガさま♪げんき?】

「チェピー♪......『また』えて、嬉しいは」


『また』か。

......そりゃ死の覚悟を、越えてきた訳だから。

生きて再開出来て、嬉しいだろうねぇ。


【で......セルガさま。この『ものすごい』魔力の方はだれ?】


たゆん たゆん


急にセルガさんは、胸を張る。


聖光剣ホーリー・ソードの勇者さまよ!

お招き出来たの♪」


【やっと失敗せずにできた♪】


急に「うっ」と、セルガさんは撃たれた様に、胸を抑える。

真実しんじつ弾丸言葉は、効くねぇ。


猛が苦笑いしていると、チェピーはフワフワと彼に近づく。


【あらたなゆうしゃさま。わたしはチェピー。よろしく】


「はい。よろしく♪私は『タケシ・エンショウ』です」


【タケシ......いじめる?】


「いやいや、いじめないよ」


猛は否定に首を横にふる。


妖精と言えば......コレダヨネ♪


最初にセルガさんを寝かせた、備え付けの石材テーブルに、たまごボーロを大皿に山盛りに出す。

この大きさなら、小さな妖精にでも食べやすいだろう。


「おちかづきに、地球私の世界のお菓子をどうぞ♪」


チェピーはその小さい顔に、満面の笑みを浮かべる。


【タケシは、はなしがはやい♪ よい♪ 】


そのまま近寄り、ボーロをひとつ両手で持ち上げる。

小さいボーロが、バレーボールに見える。


カリッ


【ん〜♪ オイシイ♪ あまい♪ タマゴたっぷり♪......

こうきゅうひん?】


「いや。小さい子供も食べやすいお菓子だよ」


【たべたい】

【いいかおり】

【たべていい?】

【いっぱい♪】


気が付けばボーロの大皿中心に、フェアリー系妖精や、

タンポポの綿毛わたげ?風な......これも妖精なのか?

フワフワが、いっぱい飛んでいる。


「......えーと、どうぞ、食べて......」


ワッと、猛の許可に食い気味で、妖精達が大皿に覆い被さる。

「......足りないか」


更に、大皿を四皿並べる。


そちらにも、新緑の影から、どんどん妖精が群がり始める。


「えーと、チェピー」


【うん、なあに?】


「あー、飲み物は、何が良いかな?」


花蜜はなみつ!】


みつかぁ」


試しに山口やまぐち養蜂場ようほうじょうの蜂蜜を、ボーロと同じ大皿に、同数出してみる。

蜜の甘い香りが、ひろがる。


【【【【【【 !!! 】】】】】】


え?この......緊張感は、なに?


【 こ、この蜜は......このフェロモン香りは、はち!? 】

チェピーは、表情に緊張を走らせる。


「そうだが......」


ビー族は我ら妖精フェアリー花蜜はなみつの縄張りが重なる。そして強い 】


「......そうなんだ」

こちら地球では、養蜂場形式で集められるので、

取り放題なのだが......ちょっと、うしろめたいか。


ビー族は集団戦闘を得意としていて、歴戦の冒険者としても蜂蜜採取は、命懸いのちがけだそう。

なので蜂蜜は、異世界こちらでは最高級品で、味も逸品いっぴんだ。


貴重な蜂蜜はちみつを、妖精にとってプールの様な大皿に、五杯も気軽に出してくるとは。


【 ......さすがは、ゆうしゃ絶対強者

チェピーは、猛に尊敬そんけいの表情を向ける。


「あ〜、喜んでくれたのなら、何よりだ。

どうぞ、飲んでくれ」


ボーロの時の様な勢いは無く、みな恐る恐る、

蜂蜜の皿に近づく。


やはりチェピーが、小さな人差し指を蜂蜜につける。

恐る恐る、人差し指を口にはこぶ。


ぱくり


【 ん〜〜〜♪ さいこー♪ 】


その言葉をキッカケに、蜂蜜に妖精達が群がる。

綿毛の妖精?も、ワッとむらがる。


【【【【【 ん〜〜〜♪ 】】】】】


わちゃわちゃしていた妖精達の動きが、同時に止まる。


【 きめた!タケシ!われと契約して! 】


「へ? 契約て?」


「おやおやおや」

「ほほう」


ニーグ様とワードマンさんは『面白そうな事が始まった』とばかりなワクテカな顔をする。


セルガさんは(そうでしょうとも)と、

笑顔でうんうん頷いている。


「どういう事ですか?」

いちおう常識枠じょうしきワクであろう、ワードマンさんに聞いてみる。


「私と同じです。使役......使いっ走りになりたいのです」


「え?......今ひとつ意味が分かりません」


「そうですね。いてしまったタケシ殿の、お役に立ちたいのです」


猛は、チェピーを見る。

チェピーは、にこにこしながら肯定の頷きを返してくる。


「はぁ」


「まぁ、難しく考えずに『従者』の許可を下さいませ」


うーん、なるほど。

......まあコチラでは、知らぬ事だらけだし。

天と言うか、神霊界担当はワードマンさん。

妖精界?系統の話はチェピーに任せれば良いのか。


まぁ、友人が増えた気持ちで良いか。


「では、こちらの事を何も知らないので、御指導下さい」


猛は、二人に軽く頭を下げる。


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