第30話 どローカル


ポーン


「マスター」


何かの完了音かんりょうおんが流れる。

執事モードのハヤブサから、声がかる。


「おいよ?」


( 飲食物からの、皆様の身体への『ナノマシン侵入しんにゅう』完了。

各人のシルバーコードとの、接続完了。

ローカルヤーディン大国・データーベースとしての、検索準備完了

御三方おさんかた脳内表層記憶のうないひょうそうきおくのスキャン完了 )


脳内会話なので、他の三人には聞こえない。


プライベートな深い個人情報では無く、

この異世界で、誰もが知る一般常識やマナー、

世間に広く公開されている情報等のデーターサーバーとして検索サーチし、作戦行動に活用する。


犯罪等関われば、深層情報しんそうじょうほうもさぐれる。

が、地球では捜査礼状そうされいじょうが出されなければ、しない......と、建前上たてまえじょうはなっている。



『侍』は、表向きは少数精鋭しょうすうせいえい戦闘力・軍事力集団暴力装置と見える。

その軍事力パワーを基盤として、平和維持ピース・キープをして居る。

と、あえて思わせて居る。


実はシルバー・コード霊子線を持つ生物ならば、

誰もが繋がるユグドラシルと言う(裏口バックドア)から、静かに監視る。

国家から個人まで、詳細に正確に把握はあく出来るので、

スパイ行為など必要は、無い。


静かに裏口バックドア からて、

いきなり現場に現れて、つぶす。

不穏ふおんな情報やくわだてを、先手で対処つぶすしてしまう。


国家であれ、個人であれ。

大概たいがい『裏で、コソコソ』している懸案けんあんなので、表沙汰おもてざたには出来ない。


『侍』には(うらやみ)仕事も、ある。



了解よし市中しちゅうに出たら、ナノマシンの市中感染率しちゅうかんせんりつを、強めにしてくれ。

市中の皆さんにも、この異世界の情報や常識のローカル・サーバーになってもらおう)


(アイサ)


(そうだ、ユグドラシル・ネットワークの森羅万象エブリシング検索サーチは、使えるかな?)


(はい、問題なく。


ただセルガさんの転移過去ログ検索サーチしておりますが、

地球圏我々のの枝までが、かなり遠すぎるようで、

さかのぼりログ読みが、今少しかかりそうです。


つまり地球アース圏も、『どローカル田舎・辺境』と言う事ですね)


仕方しかたないさー。

ユグドラシルの根幹から見れば、地球圏は片田舎だよなぁ)


猛は、自虐的じぎゃくてきに苦笑する。



千里眼周囲探査実測じっそく致しました地図マップに、

新たな情報脳内記憶かさね合わせた戦略図せんりゃくずヲ、表示出来る様になりましタ」


隼は、会話に切り替える。


「そうか。……先ずは『ヤーディン大国』全域ぜんいき地図を、表示してくれ」


「はイ」


ヴォン


すわるセルガさんの正面。

四人とも見やすい位置いちに、北海道ほっかいどうより少し広い縮尺しゃくどの『3Dジオラマ』が、浮かび上がる。


だいぶ高高度こうこうどからの、俯瞰視点ふかんしてんだ。

上空を流れる雲も、リアルタイムで再現されている。


「おや。もうすぐ通り雨が、やって来ますね」


猛は、淡く輝くジオラマにただよう雲を見つめ、つぶやく。


「......のうタケシ。この......箱庭かの?......まさか......」


「はい。今現在からの『時が刻々と、流れつつある』、

『ヤーディン大国』です」


ヴォン


そのジオラマに、ヤーディン大国の国境線こっきょうせんが、赤い光で示される。


「どうでしょう。国境線に、間違いはありませんか?」


「……」

「……」

「……」


ニーグ様とワードマンさんとセルガさんの、目は見開かれ、口はポカンと開いている。


「…… スゴイのぅ…… その山は、確かにヤンモン山脈だの……

ついさっき、われが飛んで来た時、見たままじゃの......

たしかに国境線は、正しい」


「なるほど。『かがくぎじゅつ』で、この箱庭を、

全員で同時にながめられれば、軍事作戦行動の立案がし易いですな」

ワードマンさんは、すっかり現役軍属ぐんぞくの視点になっている。


「はい。作戦行動で重要なのは、全員が情報を共有して居る事です。

この『箱庭』を見ながら検討すれば、共有のズレを最小限に防げます」


そこで、まだ可愛い口を開け放し綺麗な碧眼を真ん丸くして、絶句しているセルガさんを見る。


「セルガさん。

貴女あなたおっしゃられていた『むにまれぬ状況に追い込まれ』てしまった、

この世界の『状況じょうきょう情勢じょうせい』を思い浮かべながら、

この展開図を見て下さい」


「…… え? あ!はい!」

セルガさんは、集中し始める。


ザザザザザザザザザザザザザザザザ


凄まじい勢いで、ジオラマ上にアイコンが出現し始める。


ワードマンさんの霊廟れいびょうにある青白いアイコンは、セルガさんだ。

隣の二つの青いアイコンは、ニーグ様とワードマンさんだろう。

正面の俺のアイコンは、グレーだ。

まだ、協力の意思を表明していないから、そうだろう。


公爵亭にある二点の赤いアイコンは、敵対するタイ公爵とハナマサ勇者管理局長だな。


ふむ。ディグリー王都神官長教義姉妹とタキタル隊長は、緑だネ。


えーと? セムカ・フォン・ヤーディン......

あぁ、国王さまか。グレーね。ふむ。


そして、ヤーディン大国全土のあちこちに、赤い点。

おや、国境線の外にも、赤い点があるのか。

案外『敵対勢力てきたいせいりょく』が、多いなぁ。


そして、圧倒的に多い緑色アイコンは、守りたい対象を表す。


「…… こんなに『守りたい』人々が……」

今度は猛が、口をあんぐりさせてしまう。


緑のアイコンは、ヤーディン大国の津々浦々つつうらうらを埋め尽くす、平穏に暮らす庶民達か。


人口、20万375人か。

おっと、今産まれて20万376人。

女の子か。おめでとう♪


タイ・クォーン教会神殿周囲はピントがハッキリなアイコンが表示されて居る。

遠距離なアイコン程、ピンボケで表示されて居る。


それは、セルガさん自身が直接対面した人物は、ピントは合う。

又聞きや資料上で知る人物は、イメージがわかず、アイコンのピントはボケる。


本気で『庶民を守りたい』と言う事か。


ふっ、と、セルガさんを見つる。


そう言えば、俺を召喚するにも命掛けだったな。


庶民しょみんの為に』


ここにも、『自分が死んでも、かまわない』馬鹿バカが居る。


思わず微笑む。


『侍』が力を貸す条件の、充分に『真摯しんし心意気こころいき覚悟かくご』を感じる。


…… 気に入った!


いだろう。が出来うる所まで、セルガさんに力を貸そうじゃないか。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る