第29話 天才はフリーダム



いくぶん顔色が良くなったセルガさんは、

再度、指導モードに入った様だ。




さて、各属性魔素の相乗相剋そうじょうそうこくの働きまでは、宜しいですね?ね?


属性魔素の、属性魔法への発動も。


次は『魔法使い』とは?


他国の一般の魔法使いは、属性魔法ぞくせいまほうの、一種類だけ覚えます。


理論的には、どの属性魔法も使えるのですが、

魔法陣マジック・サークル一つを覚え、活用できるには、長い修行年数がかかります。


一番自分に合った、属性魔法書に描かれた魔法陣を集中的に覚え、

イメージを強め、しばしの魔法修行で習得します。

先輩魔法使いに弟子入りし、その属性のイメージを伝授させてもらうとか、様々さまざまです。


才能ある方ならば、複数の属性魔法陣マジック・サークルを覚えられる『やも』知れません。


大抵は、ひとつの魔法陣マジック・サークルを、

深く追求されています。


魔法使いは、ひとつの属性魔素を魔法陣マジック・サークルめぐらせ、自身じしん身体からだを強化します。

そうしますと、攻撃魔法こうげきまほう防御魔法ぼうぎょまほうが、使える様に成ります。




こほん


セルガさんは、軽い咳払いで喉を整えると、

聖職者らしく、姿勢を正す。



我々われわれヴォーグ教の使徒は、神への信仰をベースに神の祝福を受け、天使様からの御導きも受けます。


聖魔法は、使徒として誓いを立て、教会に登録された者を、優先に授けられます。


もちろん神や守護天使様方からの、直接指名スカウトな場合も御座います。


また一千年ほど前に、魔法世界からの渡人わたりびと『アナ・ミトチャン・アサミー』様から、

教会に、『多重層魔法陣マルチレイヤー・マジックサークル』式の伝授を受けまして。


六枚の魔法陣マジック・サークルを、

同時どうじ同期どうき運用方法と活用法のノウハウを伝授頂きました。




神官見習いは先ず、それぞれの属性魔法陣マジック・サークルを、

一つずつ、人の魔素で正確に脳内に描き上げ、意識に焼き付けます。


はい。六枚の魔法陣をすべて覚え切るまで努力致します。


まぁ、全部覚え切るには時間がかかるので、

神からは『一枚ごとに、祝福するよ〜』と

神意下知しんいげち』は、頂けております。


ので一枚ごとに、覚えきったと神に認証を頂けましたら

即時そくじ『洗礼』が自動的に開始かいしされます。


第一守護天使様をかいして祝福しゅくふくを頂き、意識に焼き付けた魔法陣マジック・サークルを、

脳内に聖魔法で『固定化こていか』して頂きます。



一枚シングル祝福されたら『シングル』ウィザード

二枚ツー祝福されたら『ツー』ウィザード

三枚スリー祝福されたら『スリー』ウィザード

四枚フォー祝福されたら『フォー』ウィザード

五枚ファイブ祝福されたら『ファイブ』ウィザード

六枚全部祝福されたら『マルチ全部』ウィザード


と、称号が与えられます。





「もちろん、御義姉ディグリー様は、

マルチ全部・ウィザード』ですは!」


ムフん♪


たゆん たゆん


ここでなぜがセルガさんは、鼻息荒くし自己主張過ぎる胸を張る。

まぁ、慕う義姉の凄さを、語りたいのだろう。


「なるほど。この国で、魔法使いは勝ち抜いてきた者達エリートなのですね......

あぁ、セルガさんもですね」


ギシッ、と音を感じるほど、セルガさんの動きは固まる。


「あー、え〜」


綺麗な碧眼へきがんひとみが、せわしなく泳ぎ出す。

なんだろう?また顔色が悪くなって来たような......


「あぁ。セルガは、第一守護天使が直接『祝福指名スカウト』いたしました」


ワードマン第一守護天使さんが、セルガさんをフォローするように語り出す。


「セルガの母が懐妊の時、『子孫の出産に付きえ・以後守護天使として守れ』と神意下知が降りまして。

セルガが生まれましたら、既に『マルチ全部』ウィザードでしたので、驚きましたよ」


「ほう!すごいですね!」


「あー、その〜」

セルガさんの表情は、硬いままだ。

碧いひとみも、まだはげしく泳いでいる。


「......神意は『セルガを守り抜け』と。あらゆる『感情』から守護せよと」


「なるほど。勝ち抜いてきた者達エリートからすれば、既に『マルチ全部』のセルガさんは......」


「はい。嫉妬しっとからの悪感情あくかんじょうからの誹謗中傷ひぼうちゅうしょいやイジメなど......」


ワードマンさんは、孫を案ずる祖父の表情となる。


「しかし本人は、悪意に無頓着むとんちゃくでして......

また、会得する苦労を知らぬ天才セルガの、

時と場合と気配も読めぬフリーダム言動が......

周囲へ、さらなる火に油を注ぎ......」


ワードマンの表情は、苦労フォローの年月の走馬灯を、思い出し『遠い目とおいめ』に変わってゆく。


「......さすがに『神官長』とさせるまでにした苦節くせつは......

押し付けた存在』をうらみかけました......」


ポン

ポン


龍神ニーグと猛は、思わずワードマンの肩に触れる。



「す、す、すべては、ヤーディンくわだてた神様の御心責任のままに、ですは!」


セルガさんは、色んなモノを飲み込んで来た表情をする。


紅い顔で、プルプルふるえても居るので、

自覚はあるが開き直りあそばした、とも言える。



解説を、進めます。


彼女は気合いを入れ直し、話を進めようとする。

教会での神官長としての法話等、

『教会の広告塔』として、きたえられたのだろう。


ですのでヤーディン大国の義務教育ぎむきょういく法では、

胎教の段階から、魔法詠唱まほうえいしょう音読おんどくが、推奨されます。


録音再生魔法も有るのですが、やはり母親の肉声にくせいでの音読が一番良いとされてまして......

また小遣い稼ぎアルバイトとして、神官見習いが、音読しにゆく事もありますね。


子守唄の発音も、詠唱の訓練となります。


魔力や魔法才能まほうさいのうみとめられた幼児は、

なるべく早期に修行が始められます。


高い才能が認められましたら、

ヴォーグ教会魔法学園に無償で招待(ほぼ強制召喚きょうせいしょうかん)を受けます。


聖魔法書と魔法修行で『聖素ホーリー・マナ』をその身に巡らせ、『陰陽いんようと五行の属性魔法』を会得えとくさせます。



魔法色は『青白色シャイニング・ブルー』です。



さて。神や守護天使様方天上界が、聖魔法使いの育成を急がれて居ます。


なぜなら、


魔族や魔族に堕ちた者は、どうやら悪魔界あくまかいからの『悪魔素デビル・マナ』を元とした 、

陰陽いんようと五行の属性魔法』を操ります。

特に修行も必要無く、絶望にちた瞬間から、高位で強力な『悪魔法使いデビル・ウィザード』となってしまいます。


魔法色は『深紫ディープ・パープル』です」


そう。


心に深い絶望がしこみ、たましい亀裂きれつを受けたら、

悪魔素がいて、闇堕やみおちしてしまうのです。


魂にヒビが入った段階では、見かけ上は悪魔素の波動は、分かりません。


ですが、絶望ぜつぼうを抱くものが増えてしまったら......


厄介な事に、絶望ぜつぼうは絶望を相乗そうじょうしてゆくのです。


ですが、聖魔法使いの聖魔素の波動を受ければ、

魂は癒され、絶望は去り、悪魔素は払われます。


「ほう。聖魔素の波動ですか......

つまり、『聖波動せいはどう』を放つ聖魔法使いが多い地域は、

教会のような『聖域せいいき』と、なりうるのですね」


「その通りです」


セルガさんは『たり』と、大きく微笑む。


(聖魔素の波動か......)


しかしたけし脳裏のうりには、

異なる可能性がひらめいていた。





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