第8話 勇者って?



『マジか』



思わず、彼女の背中をうかがう。


……天使の羽は、無いよね。


太陽のミニアチュアの様な『転送ゲート』を背後に、

浮かんで居る彼女は何故かぎゅっと両面を閉じていた。


しばらくして彼女は、んっ? と言う表情に成り、右目だけ恐る恐る開ける。


開けた瞳は、とてもんだ綺麗きれい碧眼へきがんだ。


『…… 此処ここは?』


宇宙空間なのに、鈴の音の様な声音でつぶやく。

碧眼へきがんの右目だけ開け、周囲を伺う。

ふと、自分をうかがう猛に気が付く。


『まあ♪ 何と言う『魔力まりょく』の強さの勇者様!

しかも聖句召喚陣せいくしょうかんじんを、たやすく押さえ込まれるなんて!

更に、逆に私を逆召喚ぎゃくしょうかんされるなんて♪

こんなの、初めてですは♪』


金髪碧眼色白豊満美女きんぱつへきがんいろじろほうまんびじょは、碧眼へきがんの両目をパッチリ開けた歓喜かんきの表情で、

鈴の音の声で歓喜かんきの声を上げ、歓喜かんきに身体をふるわせる(たゆん♪)

震わせると、豊満な身体は~(たゆん♪)


(……あノ、マスター。彼女の言語は地球上の物では無い様ですが、

先ずは(仮)ユグドラシル・ネットワークから彼女のシルバー・コードを経由して、精神リンクします。

そうして彼女とは、テレパシー翻訳してまス)


(はい?! ……あ、そ、そうね。相手の情報を収集し無いとね)


『豊かな揺らぎ』に、思わず目を奪われた事は……げっふん、げふん。

ので、うっかり『魔力まりょく』と言うワードは、聞き逃した。


『えーと……貴女は、どなたですか?』


ころころと鈴の音で矢継やつばやに並ぶ語彙ごいに理解が追い付かないが、

彼女の基本情報きほんじょうほうを求めて質問して見る。


彼女はハッと気が付き、あわてて猛を貴人きじんと観たてた様な礼法を取り、頭を下げる。


『失礼致しました、勇者ゆうしゃ様。わたくしはヤーディン大国の国教ヴォーク神教、

タイ・クォーン公都教会こうときょうかいの、

神官長しんかんちょうセルガと申しますは』


『やーでぃんたいこく?ゆうしゃ様? しんかん長? ……

えー、セルガさん? 初めまして。『さむらい』の、円鐘 猛えんしょう たけしと申します』


やーでぃん大国?ってどこさ? ゆうしゃ様って?

何か不思議な呼び方を受けたぞ。


『『サムライ』? エーンショー タケチ......様?』

セルガさんは、よそ行き笑顔で、オウム返しに答える。

でも、なかなかレベルの高い金髪碧眼色白豊満美女きんぱつへきがんいろじろほうまんびじょだね。


たけしで、良いですよ』


『はい。勇者ゆうしゃタケル様』


タケシですよ」(苦笑)


だから、ゆうしゃ様って何さ?!


(……半実態化はんじったいかしてますガ、

セルガさン御本人ごほんにん肉体にくたいハ、

多分霊子線シルバーコードを通して『異世界』に居られますネ)

『侍』スーツ戦術AIの隼が、脳内会話で報告して来る。


(いせかい?)


(残存データヲ、さかのぼり読みますト……召喚陣しょうかんじんとやらデ、強力な『魔力』=『オーラ』をまわシ?……回ったオーラヲ、転移てんいゲートとみなしテ……(仮称)ユグドラシル・ネットに強制介きょうせいかいにゅう入シ、異世界の此の世界に次元転移召喚じげんてんいしょうかんゲートとしテ、飛ばして来てますネ)


(異世界? この、地球上では無いんだな……繋がってる先は、(仮称)ユグドラシルの枝葉の一つ、つまり『パラレル・ワールド』の一つて事かい?)


(……そんなモンでス)


(にごしたな)


『ふむ。ではセルガさん? どんな御用件ごようけんでしょう?』


『はい♪ 勇者タケシー様への御願いは、魔族まぞくならびに魔王討伐まおうとうばつですは♪』


『タケシ......(もういいや)まおう? とうばつ?』


武良は自分の耳を再度疑い、思わず自分の耳をさわる。


『はい! もう『かつてない強さ』の、タケーシ勇者様におすがりしないと、私の世は滅ぼされてしまいます』


と、彼女は両手を伸ばし、グンと近付いてくる。

ちかいちかいちかい!

武良は、サスガに引く。

彼女は『逃がさん』とばかりに、両手で俺を抱きしめる。

セルガさん! 豊満なお胸が『当ててんのよ』状態です!

……至福……いや!

俺は、彼女を振り払おうと、身体をひねる。


スコ


ひねった勢いで半霊体の彼女の右手は、バスター・ミサイルに触れて……


カチ


(ゲ!)

『ヤバい!』



隼と猛の、あせる声がかさなる。


なぜか光子エネルギーが発生し、ミサイル信管の起爆装置きばくそうちが『起動』するのを、肌で感じたからだ。


キカッ


ドッ、グァアアアアアアァァァン!


ミサイルは凄まじい旋光せんこうと共に爆発する。


が旋光は、何かに『吸い込まれた様』に、急激きゅうげきに収束してしまう。


旋光が収まると、猛も、セルガと言う異世界美女も、太陽ミニアチュアの様な転移ゲートすらも、影も形も消えていた。


後には眼下の青い地球を、ながめられるだけだった。





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