第133話 凱旋
■中央ゴレムス暦1586年5月22日
アウレア おっさん
ベイルトン総督府の人選が決まり無事、赴任したことでおっさんがアウレアへ帰還することとなった。
ベイルトンを出発した一行はサースバードを通り
首都アウレアは英雄の帰還に大いに沸いていた。
アウレアス城に至るまでの道という道に大勢の国民が押し寄せ鯨波のように波打っている。それがおっさんの到着を今か今かと待ち受けているのだ。
やがておっさん率いる三○○○の軍勢が街へと入ってくる。
それに気付いた国民はもう狂喜乱舞している。
『アウレア万歳! アルデ元帥万歳! 大公陛下万歳!』
『アウレア万歳! アルデ元帥万歳! 大公陛下万歳!』
『アウレア万歳! アルデ元帥万歳! 大公陛下万歳!』
近衛のガイナスに次々とおっさんとおっさん幕下の家臣団が入場してくる。
ガイナス率いる赤備えは圧巻の一言で民衆は見事にド肝を抜かれていた。
ガイナスの次はおっさんだ。
民衆の熱狂に当てられたのか、アド上でおっさんも熱く手を振って応えている。
続いてノックス、ドーガ、レスター、バッカス。
おっさんは国民から注目を浴びながらも冷静に周囲を観察していた。
国民の服装も小奇麗で道も清潔感がある。
沿道には子供たちも兵隊さんたちを見ようと詰めかけている。
おっさんが提唱した教育機関プロジェクトも上手く動いているようだ。
子供たちには勤労、規律、自主性、独創性などを培うために日本式の学校教育を取り入れるよう進言してその通りになっている。
アウレア大公国の将来は明るい。
いや、明るくしなければならない。
列強国の手はもう近くまで伸びてきているのだ。
近年では再びヘルシア半島の情勢が緊迫の度合いを増してきているし、アルタイナにも外国、特にアウレア大公国排斥の動きがある。
これはガーレ帝國が陰で暗躍していると言う情報が上がってきていることから今後の衝突は避けられないだろうと言うのが情報筋の見方だ。
他にも戦端が開かれそうな地域がある。
友好国であるラグナリオン王国の敵ヴァルムド帝國である。
ラグナリオン王国の北に位置するこの場所はディッサニア大陸の内陸国としてガーレ帝國、ラグナリオン王国、ニールバーグ、バルト王国に囲まれている要所である。
ラグナリオン王国が開戦に踏み切れば友好国の誼で何か支援を行う可能性はあるものの同盟国ではないのでおっさんとしてもどこまで踏み込むかの見極めが必要になるであろう。
それにおっさんが世界制覇に名乗りを上げるためには、まずはレーベテインの復古、つまりラグナリオン王国も打倒しなければならない。あまりなれ合ってはいられない。
そんなことを考えていたらおっさんたちの軍勢は早くも大公ホーネットの待つ中央大広場まで進んでいた。そこにはシルフィーナやエレギス連合王国の新大使であるアンジェラ・オースの姿もあった。レオーネは外務長官なので一時的に大使の任をしていたに過ぎないのだ。
やがて軍が一斉に進軍を止めるとおっさんはアドから降り立ち、ホーネットの待つ壇上へと上っていく。
「大公陛下、バルト王国を討ち果たしましてございます」
「おう。アルデ・ア・サナディア元帥よ。よくやった。これでレーベテインの復古に近づいたぞ。そして3年間の統治ご苦労であった。しばしの間、体を休めるがよかろう」
「はッ!」
おっさんは頭を垂れると壇上にいたシルフィーナの隣に移動した。
そしてホーネットの演説が始まる。
文官たちの制止の声に国民たちのざわめきが消えた。
「皆の者ッ! 長年に渡って我がアウレア大公国を滅ぼさんとやってきたバルト王国は滅亡したッ! サナディア元帥麾下の皆と貴族諸侯たちの努力と献身には感謝の言葉もない! 貴君らのお陰で我が国はレーベテインへの復古へと一歩近づいた。そして公国民よッ! 我が国は強いッ! 最早、戦勝国の顔色を窺う必要などないのだッ! これから我が国は攻勢に出るッ! 世界の覇権を握るは今ぞッ!」
ホーネットは情熱的に身振り手振りを使って民衆に訴えかける。
貫禄は父親から色濃く譲り受けたようだ。
『うおおおおおおおおおおおおおおおお』
公国民の熱狂が大きなうねりとなり、最高潮に達しようとしていた。
「(それを今言うか……)」
おっさんは笑みを浮かべながらも内心で苦々しく思っていた。
想いは秘めるもの。
案の定、ラグナリオン王国大使は苦笑いを隠せていない。
結局、おっさんの凱旋式は大盛況のまま終わりを迎えた。
おっさんはこれから進む道のことを思い覚悟を強くした。
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