第132話 3年後

■中央ゴレムス暦1586年5月22日

 ベイルトン おっさん


 ノモルハンの戦いから3年の刻が流れた。


 おっさんは混乱する旧バルト王国領のベイルトンに留まり、統治に専念。

 長い月日をかけてアウレアの領土として組み込んでいった。


 降伏したバルト貴族には所領を安堵し、あくまで抵抗の意志を見せた者にはアウレア貴族を送り込み、これを撃滅させた。


 幸か不幸か大規模な抵抗運動にはならなかった。

 当初はアウレア大公国の支配に難色を示していたバルト王国民であったが、持ち出しになるほどの資金と食糧の投入で、その不満も解消されていった。


 おっさんは戦場には出ず内政に力を注いでいた。

 自分の頭がそれほど良くないと理解しているおっさんなので本当は戦働きがしたかったのだが、元帥という立場上しょうがないことであった。

 おっさんはバルト攻略の総指揮官なのである。


 内政と言ってもゲームのように投資すれば勝手に数値が上がって税収が上がるとかそんな楽な仕様ではない。

 バルト王国の産業としては農業面ではバルト麦の栽培、数少ない平地での野菜類の栽培、ゴウトの放牧などであり、工業面で言えば火縄銃の製作くらいであった。後は林業と言ったところか。


 この産業に乏しいバルトの地をどうにかするために、おっさんは森林地帯の大規模な開発に着手した。森林を伐採し開墾してリラ麦畑にしたのである。

 バルト麦は特殊な麦らしく樹木に生える茸のような麦であった。

 食事の時はオートミールのような感じで出されるのだが、アウレアで食べるリラ麦とは味も食感も全然違う。

 リラ麦のようにパンやパスタには向かないらしく食事にバリエーションがない。

 もっと作物を栽培し食の多様性を出すために色々なものをアウレアから持ち込んだ。イポーニアから輸入したコメやツマイモもその一つである。

 食生活は生活を豊かなものにする。これも立派な政策のうちなのだ。


 鉱物資源は主に鉄が取れる。

 良質な鉄鉱床がそこかしこにあり、その埋蔵量は無尽蔵だと言う調べもついている。


 資源と言えば温泉も多い。

 おっさんは重要な観光資源とするために街道の整備も大規模に行っている。

 アウレア大公国から観光客を呼び込めればお金は回ってくれるだろう。

 もっとも投資の結果が出るのはまだまだ先であろう。


 バルトは通貨制度も未発達だったようだ。

 流通していたのは王都と貴族の領都くらいで田舎は物々交換が基本である。

 アウレア大公国は海外との貿易もあり貨幣経済が根付いていた。

 この3年でバルトにもじょじょに貨幣を使う慣習が広がってきている。


 アウレアから遠く離れた異国の地でおっさんは内政ばかりに励んでいた訳ではない。おっさんはというとほとんどの時間をベイルトンの執務室で書類の山と格闘していた。バルト王国の税収関係書類や機密文書、そして民や豪族からの陳情書など様々である。


 外交関係で言えば、バルト王国はここベイルトンから北東にあるメルキトアと同盟関係だったようだが間にガーレ帝國領があったため直接国境を接してはいない。

 アウレア大公国はメルキトアとは友好関係にないので援軍があればかなり苦戦を強いられていただろう。考えただけでもぞっとするおっさんである。

 それと水面下でイルクルスにアウレア大公国を聖戦の対象にできないか働きかけていたようである。


 とにかくこの3年で占領統治もある程度上手くいった。

 それまではアウレア大公国の国力ではとても他国を占領統治できる状態ではなかった。ヘルシアを単なる保護国扱いにしたのもそのせいなのだ。


 まったくあれもこれもエレギス連合王国のお陰である。


 おっさんは人材登用に力を入れ、アウレア本国では大規模な徴兵を行った。

 戦争に連戦連勝しておっさんが客寄せパンダになってアピールしたことが成功した大きな要因の一つだろう。


 そしておっさんは領国を発展させ着々と足場を固めると共に大公国内部の大公派と呼ばれる貴族たちの切り崩しも行っていた。

 もうじきバルトから本国へ帰還せねばならない。

 元帥位から降ろされてもアウレア大公国内で実権を握っていくためには様々な権謀術数が必要なのである。


 そして準備は整った。

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