第128話 ノモルハンの戦い ①
■中央ゴレムス暦1583年9月28日
ノモルハン シルベスタ
ガーレ帝國は強国であった。
国家の成立以来、西へ東へ遠征を繰り返し、広大な領土を有する帝國となった。
その領土欲は歴代の皇帝に受け継がれ、気が付けば列強国と呼ばれるうちの一国となっていた。
兵器も従来の剣と弓だけの戦いから発展し、銃と砲の戦いへと進化して洗練されていった。
現皇帝のラスプーチンも歴代の皇帝に負けず劣らずの拡張主義者で現在は不凍港を求めて南下政策を推し進めている。
そんなガーレ帝國が混乱するバルト王国の領土を掠め取ろうと、シルベスタ陸軍大佐率いる一五○○○の機甲部隊を派遣したのである。
彼はアドにまたがりながら参謀と話をしていた。
「参謀ちゃん、今回の戦いはどうなると思う?」
「は、アウレア大公国もバルト王国も時代錯誤な戦い方を未だに続けている国です。鎧袖一足、我らが足を止めることはないでしょう」
「ありゃ。参謀ちゃんはそう言う意見なの? 俺は烈将アルデってぇのに興味があるぜ?」
「人と人が武技を競う戦いの時代は終わったのです。我が国には連射銃
「いや、その差を戦略で埋めてくると俺は踏んでるんだよ。
「そうしようとはするでしょうが、圧倒的火力の前には無力! 無価値なのです!」
「参謀ちゃん、性格変わった?」
「いえ」
参謀のグエスタは有能だが若く、勝ち戦ばかり経験してきたので自国の圧倒的優位を疑わないのだ。
一方のシルベスタも若くして一軍を預けられるような出世頭であったが、そこまで偏狭的な視野を持ってはいなかった。単純に名の轟いているおっさんに興味があったと言うのもあるが、油断はしていない。
ガーレ帝國はガルド砲をアドに牽引させて運用している。
そのお陰もあり大砲でありながら機動力も持ち合わせていた。
また、帝國軍は腰にサーベルこそ差しているものの、基本的にGRを装備しており近代的な戦い方をする。
そんな話をしていたシルベスタの下へ斥候がアドを駆けてやってきた。
「失礼します閣下、バルトのドルガン辺境伯らしき軍が見えます」
「速いな。もう引き返してきたのか?」
おっと驚くシルベスタに参謀のグエスタは冷静に言った。
「そんなに速く決着するはずはございません。兵は確かにいたのか?」
「は、更にはアウレア大公国軍と思しき軍団も控えておりました」
「何ぃ!?」
「はっはっは! 参謀ちゃん、どうやらアウレアも捨てたものではないらしいぞ?」
「ぐぬぬ」
シルベスタが愉快そうに笑う中、グエスタは1人、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
―――
■中央ゴレムス暦1583年9月28日
おっさん
おっさんの軍は斥候をばら撒きながらドルガン辺境伯軍の後方を進軍していた。
もちろん敵の動向を探るためのみならず、周辺の地形などをマッピングするためである。
おっさんとしてはドルガン辺境伯は過去にもガーレ帝國の侵攻軍から領地を守っているのでそのお手並み拝見といきたいところであった。もちろん大規模侵攻ではなかったはずだが、列強国を退けるのは大したものだと思ったのである。
「ガーレの武装は銃とサーベルらしいな。更には大砲も当然の如く運用しているとのことだ」
「主兵装は銃なのですか?」
「そうらしい。GRと言う銃だと言う話だ。(近代化が進んでいるのか……こっちはまだまだ銃火器が足りていないからな……)」
「銃相手に突撃か。特攻だな」
「【
「そこは言い切ってくださいよ閣下……」
おっさんの言葉にドーガとガイナスが代わる代わる話しかけてくる。
そこへ後ろにいたノックスも話に入ってきた。
「とにかくバルト王国が滅亡した今、友邦を見捨てては領地を取られるばかりか、世間からの信頼もなくしてしまいますぞ」
「ああ、分かっている。この一戦はとにかく相手を撤退させることだ。防衛線を引いてそこに陣地を構えて待ち受ける。そしてコダック砲で迎え撃つ!」
その後、何事もなくノモルハンの地へと布陣したおっさんはドルガン辺境伯らを交えて軍議を開いた。
「皆さん、お集まり頂き感謝致す。それでは軍議と参りましょうか」
おっさんの一声で軍議は始まった。
「辺境伯殿、今までもガーレの侵略を防いできたと言うが、今回の敵軍はどうですか?」
「今まで大規模な戦闘に発展したことはない。今回も小競り合いで終わるでしょう(マズイな……今回は兵が多い。負けるとは言わんが被害がかなりでそうだ)」
「ガーレ帝國軍の戦い方を教えて頂きたい」
「基本は、歩兵と軽騎兵が銃を持って突撃してくる。そして前線を上げ、ガルド砲の射程に入ると陣地を砲撃してくる感じですな」
「なるほど。射程距離は?」
「20kmほどです」
「コダック砲に付与する風精霊の力を強める必要があるな。バッカス頼むぞ」
「はッ閣下。抜かりなく」
【
「その他の部隊は騎兵による突撃だ。敵の軽騎兵と歩兵を殲滅しろ」
「元帥閣下、あちらの銃は強力ですぞ」
「大丈夫だ。こちらの兵は撃たれ強いからな」
「は、はぁ……」
【
「閣下に策ありのようで安心致しました。そう言えば、ここは祝福の地。縁起もよいですし我が軍が勝つでしょう」
「なんて名前の土地なんですか?」
「ノモルハンです。こちらの言葉で勝利の祝福と言う意味です」
「なるほど。確かにそれは縁起がいいな。勝利が約束されたぞ」
ドルガン辺境伯から土地の由来を聞いたおっさんは大声で笑い出し軍議に参加していた者たちはその余裕に安堵の表情を浮かべるのであった。
―――
■中央ゴレムス暦1583年9月29日 未明
ノモルハン シルベスタ
「敵さんは動かないみたいだな。まぁそりゃそうか守ってりゃいずれ退くとでも思ってるんだろう。今までの小競り合いとは違うことを教えてやれッ!」
『ウラアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』
シルベスタの叱咤激励に兵士たちの雄叫びが応える。
シルベスタ率いるガーレ帝國軍、一五○○○は意気揚々と進撃を開始した。
「長距離から圧倒的火力を見せつけてやるぞッ! 全軍遅れを取るなッ!」
参謀グエスタの声も心なしか興奮しているように聞こえる。
バルト王国とは何度か小競り合いがあっただけで、兵数が少ないとは言え、最新兵器による侵攻は初めてなのだ。
そこへ何かが煌めいた。
遅れて大きな音が兵士たちの耳をつんざく。
そして、着弾。
炸裂弾ではないので破壊が撒き散らされることはなかったが着弾点の周辺にいた兵士たちはバラバラになり物言わぬ屍と姿を変えた。
「何ッ!? 何事だッ?」
「分かりません! 敵の砲弾が着弾した模様!」
「何だと! こちらの射程外だぞ! アウレアがそんなものを持っているはずが……」
狼狽するシルベスタの声をかき消すようにまたしても弾着の轟音が辺りに響き渡る。
「チッ……現実かよ! おいお前ら速度を上げるぞ。ガルド砲部隊と軽騎兵は先行するッ! 歩兵は散開して合流しろッ!」
動き回っていれば砲弾などそうそう当たるものではない。
シルベスタは直ちに行軍速度を速め、こちらの射程内におっさんたちを捉えるべく動き出した。
斯くしてここに激戦となるノモルハンの戦いが始まったのである。
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