第3話
「何度言ったらわかるの? 人骨模型は動かない。必ず人の手が必要……それに夜遅く音楽室で人骨模型が踊る? そんなことは絶対起こらない」
と葵は言い切った。
「守衛さんが仕事を辞めるほど怖い思いをしたってことだったのに?」
希菜子は怖くて鉛筆を置く。
「怖い、それは骸骨を見て怖い、それもあったがそれ以外に怖いことがあったんだろう。それは彼よりも上の地位のモノに対してか……そういえばここは管理人さんが住み込みで暮らしているはず」
「あっ、そういえば。管理人さんは校長先生の奥さんで夫婦で……って」
葵はご名答、と希菜子にウインクした。
「校長先生の奥様は一年前に亡くなっている。私立で奥様のお祖父様が創立した我が校。校長先生は婿養子。2人は社交ダンスを夫婦でするほどの睦まじさ。今は1人で学校に住み込んでいる」
「鍵も自由に持っていける。守衛さんにとって校長先生は地位は上。きっと何かあったのだろう……でも校長先生と人骨模型の接点は?」
あの校長が髑髏好きとは思えないし、実験をするような人には見えないと希菜子たちは他の接点を考える。
「人骨模型は校長先生と踊ってていた。それを守衛さんに見られて口止めしたか……気味悪がられたとか」
葵はあくまでも推測よ、と付け加える。すると希菜子とクラスメイトは笑った。
「うっそだぁ、そんなことありえる?」
「さっきの校長の靴音、やけにうるさくなかった? あれは社交ダンスを踊る時用の靴。トイレ棟の基礎が流れた時に外で見にいった時に靴がきっと濡れたんでしょう。そのあと履き替える靴がなくて……しょうがなく社交ダンス用の靴に履き替えたんだ」
希菜子はまだ笑っている。
「夜な夜な理科室に鍵を開けてまで人骨模型取りに行って音楽室で踊る、変な校長先生」
「まぁ、秘密にしてやろうよ。奥さんがそれほど好きだったんだよ」
「はぁ……」
クラスメイトも少し苦笑いしている。
キンコーンカーンコーン
チャイムが鳴った。
「はーい、そこまで!」
高橋先生が手を叩く。
葵は輪郭しか描けてない紙を見てガッカリする。推測ではあるが謎は解けた。しかし授業の課題はクリアしなかった。そこに高橋先生がやってきた。
「おしゃべりしてたからでしょ」
「はい、その通りです」
葵はしょんぼりして紙を見せる。
「まぁ、遠目から見たら手ですね。これも芸術の一つ……次からはもっと身体の内側から表現できるようにね」
と微笑んだ。葵たちは意外と優しい先生なんだな、と高橋先生の意外な一面を見たと思ったが……。
「廊下走ったことの罰も含め明日までに何かを模写して描いてきなさい」
と微笑みの奥には恐ろしい課題が待っていたことに葵は肩を落とした。クラスメイトは知らない顔してスタスタ去る。希菜子は葵にドンマイ、と声をかけた。
「せっかくならあの理科室行って人骨模型描くかー」
結局は希菜子に描かせるつもりだが。二人は教室に戻って昼ごはんを食べた後、理科室に向かった。
「やっぱ葵、気になるんでしょ。先生に頼んで出してもらって写真をスマホで撮影して一緒におうちで描こうー」
「希菜子も描くんだ」
「絵を描くのは好きなんだもん」
と話しているうちに理科室に着く。すでに明かりがついていた。そして誰かがいた。ドアを開けると
「あっ、下石さんたち」
そこにいたのは御嵩先生と、なんと校長もいたのだ。
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