第6話
僕は溜まっていた自転車修理を片付けるが、今日はお客様が多かった。
しかも地味に自転車が売れていた。
この店はそこまで在庫を持っていないけど、それでも売れる時は何故か連続で売れたりするのだ。
そして春になるとしまっていたスポーツ自転車をフルメンテしに来るお客様や、洗車と注油をお願いしに来る方も居るので、父さんと僕はしばらく仕事をこなした。
それはいいんだけど、今日もヒマリが居る。
母さんの店で親と食事を摂り、ヒマリはメイと遊ぶためここに残ったようだ。
先生と入れ替わるように入ってきて、きゅうを撫でながらちらちらと僕を見ている。
メイは、タブレットを離さず、ヒマリや僕を見ながらペンを走らせていた。
もうヒマリにお絵描きの趣味はばれている為、隠す気は全くないようだ。
自転車整備の作業は中腰になったりと、玉ねぎ剣士とはまた違う筋肉を使う。
いい運動になる。
運動部には入っていないけど、僕は玉ねぎ剣士と自転車整備のおかげで体力はある方だと思っている。
ヒマリはちらちらと僕を見ているが、僕が目を向けると視線を外す。
「シュウ、俺が休んできたらそろそろ休め」
「これが終わってからね」
父さんはコーヒーを淹れてくつろぐ。
そして休憩が終わると僕にコーヒーを淹れてくれた。
ヒマリとメイにはジュースを持って行く。
「ありがとうございます」
「お父さんありがとう」
「僕は休むよ」
「ゆっくり休め。30分くらいは休んでいいぞ」
豆柴のきゅうを囲むように3人で休憩する。
「ヒマリ」
「な、なに?」
「さっきから僕をちらちら見て気になるんだ。何かあったら言って欲しい」
「え、えーと、シュウは手先が器用なんだなって思ったの」
「お兄ちゃんは器用だから、くすぐられると耐えられないんだよ」
「メイ、そういう事は言わない」
僕はメイの口を押える。
「メイとシュウって恋人みたいだよね」
「兄弟ってこんな感じじゃないかな?」
「兄弟だもん、普通だよ」
「うーん、そうかな~?」
「それでどうする?ヒマリもコチョコチョしてもらう?」
「こーら、メイ、からかっちゃだめだぞ」
「そ、そうだよ、そういうのはダメ!」
「僕はいいんだけど、ヒマリはレディーなんだからそういうのは良くない」
「私もレディーだもん!」
「3人仲がいいのね」
「「ユズキ先生!」」
「ユズキ先生、ミニベロはどうでした?」
「すっごく良かったわ。なんだか私のクロスバイクより疲れにくい気がするわね」
「え?そんなはずは……」
おかしい、ここは信号が無くて街乗りの環境とは違う。
一本道が多く止まる場面は少ない。
ミニベロよりクロスバイクの方が疲れにくいはずだ。
タイヤの大きいクロスバイクは坂道に有利だし、減速もしにくい。
僕は一気にコーヒーを飲み干した。
「ちょっと先生のクロスバイクを見せてもらいますね」
僕はクロスバイクをチェックしていく。
タイヤの回転も、ブレーキとの干渉も無い。
ギアチェンジも正常。
「ちょっと乗せてもらっていいですか?」
「いいけど、メンテナンスしてもらうみたいで悪いわね」
「気になるんです」
僕はクロスバイクに乗ってみて分かった。
「ユヅキ先生、サドルの高さが合っていないんじゃないですか?」
「そう言えば、買った最初にペダルを低めにしてもらって、変えていないわ」
「それです、クロスバイクのサドルの高さを合わせましょう。そうしないと無駄に疲れます。今はもう高いサドルに慣れてますよね?」
「そうね。ミニベロに乗ってみて、サドルが高くても乗りやすかったわ。お願いね」
僕はユヅキ先生とサドルの高さを合わせていった。
メイは没頭するように僕と先生を見ながらお絵描きしている。
そしてヒマリは、僕とユヅキ先生を見ていた。
「ユヅキ先生、終わりました。最期に乗ってみて貰っていいですか?」
「こうかな?」
ユヅキ先生は道で自分のクロスバイクに乗る。
「問題ありませんか?」
「うん、いいわね」
「メンテナンスは終わりです!故障などあればまたご利用ください!お気を付けてー」
ユヅキ先生が戻って来る。
「お金を払って無いわ」
「いえ、無料です。故障した際はこのお店をご利用ください」
「今日はお世話になりました。シュウ君、ありがとう」
そう言って僕に頭を下げた。
「またごひいきに」
僕が手を振るとユヅキ先生は帰っていった。
やり切った感覚が気持ちいい。
僕は店に入る。
母さんも中で飲物を飲んで談笑していた。
ヒマリが話しかけてきた。
「シュウってユヅキ先生みたいな人が好みなの?」
「きれいだと思うけど、ヒマリ、どうしたの?」
「イチャイチャしてたから」
「ええええ!自転車の調整をしてただけなのに!」
「まあ、シュウはモテモテねえ。ユヅキ先生に気に入られて、ヒマリちゃんにもやきもちを焼かれて、ふふふ、すぐに孫が出来そうねえ」
母さんがまた爆弾発言をする。
いつからいたんだ?
「私はそういうつもりじゃ、ない、ですぅ」
「ほら、そういう事を言うとヒマリは真っ赤になるんだよ」
ヒマリは両手で顔を隠した。
メイは覚醒したようにヒマリをスケッチする。
「こら、メイ、ヒマリが恥ずかしがってるだろ。そういうのは良くない」
「え~でも今、恥ずかしい顔を書くチャンスだもん!」
「ッ~~~~~~~~~!!」
ヒマリは、はずか死するほど真っ赤になっていた。
「メイ、これ以上言ったら駄目だ」
僕はメイの口を押えた。
「ふふ、ふふふふふふふふふふふふふふふ」
「母さん!そこで笑ったら駄目だよ!」
メイと母さんはどこか似ている。
ヒマリはしばらく真っ赤だった。
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